第13話 誰が撃った?
誰が撃った?
「どっちだ?!」
「あっちっす!」
「南からです!」
サヤと松井が同時に指さす!
俺は即座に舞い上がる!
見えた!
もう夜だが、朱色の航跡が、海面すれすれを、はっきりと迫ってくる!
チッ! ここからではもう間に合わない!
環礁のすぐ側まで来ている!
だが、それより先には来させない!
もし核なら、あれを越えられると、俺はともかく、他は、まず助からないだろう。
あの環礁がうちの最終防衛ラインだ!
絶対にサヤとアマンダは俺が守る!
俺は大きく息を吸い込み、ブレスを構え、同時に俺の固有スキルを発動させる!
「スケールアタック!」
俺の胸の辺りの鱗が5枚ほど剥がれ、光の航跡に向かって直進する!
「爆ぜろ!」
その瞬間、連続で俺の放った鱗が爆発する!
更に、最後に一際大きな爆発音がし、眩い閃光を伴う!
「ふ~、何とか誘爆させたか。そして、これも核じゃなかったようだ。でも、あのまま放って置いても、環礁にぶち当たっていた? もっとも、おかげで環礁が大きく削れてしまって、外海と繋がってしまったが。しかし、そんなことよりもだ!」
俺は、すぐさま引き返す!
地上では、アマンダが中心になって、全員が外で輪になっていた。
ふむ、最悪の場合、アマンダがテレポートさせるつもりだったのだろう。
「サヤ! 頼む! 松井さん! 距離は?!」
「了解っす!」
「はっ! 発射地点は、あの方角、20キロ地点、深度50mとのことです!」
「どうも!」
サヤが大きくジャンプし、俺の尻尾に捕まり、そのまま背中を駆け上がる!
「また潜水艦か! だが、今度は逃がさない! サヤ!」
「はいっす! ファーサイト! シースルー! サーマルビジョン!」
俺も全速で、僅かに残る、ミサイルの煙の匂いを辿る!
「見えたっす! って、うじゃうじゃ居るっす! 4隻っすね。500mほどの間隔で固まっているっす!」
ぬお?
それでは、犯人が特定できないのでは?
「国旗とかは見えないっすね~。どいつもこいつも、マッハで潜っているみたいっすけど」
う~む、ミサイルは一発だけ。その中のどれかが撃ったのは間違いないだろうが、他の奴まで、俺の反撃のとばっちりを恐れて、慌てて逃げたな。
ただ、4隻って数が気になる。一つの国が、複数の潜水艦を、同一海域で運用するメリットは少ないだろう。
なら、その4隻は、それぞれ違う国である可能性が高い。だとすれば、アメリカ、ロシア、中国、日本か? まあ、インド、オーストラリア、ヨーロッパ諸国とかを考慮すればきりがないが、現在、その4国が最も疑わしい。流石に撃ったのは日本ではないと思うが。
「仕方ない。引き返そう。自衛隊なら、何処の国か知っているかもしれないが、これも答えてくれるかどうか」
そう、その4隻の中に日本の潜水艦が居たのならば、誰が撃ったかくらいは知っているはずだ。あれだけ近くに居たのだから、撃った潜水艦のデータから、艦種を特定できるだろう。
だが、それを俺達に教えてしまうと、それこそ戦争の引き金になりかねない。
「本当に、潜水艦って厄介っすね! 了解っす…」
って、痛い痛い! 振り返ると、サヤが腹いせに俺の背中をどついている!
だが、それでサヤの気が済むのなら、好きにしてくれ。
そもそも、俺さえ居なければ、こんな事にはなっていない!
島の上空まで引き返してくると、米軍輸送機の周りには、あの海兵隊が取り囲んでおり、少しものものしい雰囲気だ。
仮設住宅の前にも、銃こそ構えてはいないものの、二人貼り付いていやがる。
それ以外の人影は見当たらない。
「サヤ、中を確認してみてくれ。あいつらが、アマンダに何かしたら大変だ」
そう、もしこれが一連の陽動作戦で、彼等がアマンダを拉致でもしようとしたなら、彼等の方が心配だ。
「了解っす! シースルー! 特に問題ないみたいっすね。アマンダさんと、あの3人、あ、松井さんと新藤さんも居るっすね」
ふむ、取り敢えずは、そのまま1ヵ所に引っ込んだってところか。
海兵隊2人は、あの3人の護衛に来たと見ていいだろう。
俺が仮設住宅の前に着地し、サヤを下ろすと、アマンダと松井が飛び出して来た。
「シンさん、お疲れ様ですわ。それで、今回は?」
「あ~、アマンダ、済まない。逃げられたよ。4隻居たので、どこの国が撃ったのかも分からない。でも、その場に居た連中は、真犯人を知っているはずだ。ただ、こちらにダメージを与える意図は無かったと思う。色々と思うところはあるけど、俺には判断できないな」
俺は、そう言って、眼下の松井と海兵隊を見回すが、こいつらに知らされているとは思えないか。
「まあ、大した被害も無かったし。今は、それよりもアメリカとの話か? アマンダ、続けられそうか?」
「そうですわね。でも、あれ以上の話はもう無いはずですわ。私も、思うところはありますが……。では、続けて参りますわ」
「分かった。俺も見ながらだけど、警戒はしておくよ。サヤも、感度上げておいてくれ」
「了解っす!」
俺は先程同様、扉を俺の眼で塞ぎつつ、中を注視する。
海兵隊は、中から少将の指示があり、飛行機に引き返す。松井も領事館?に引き籠る。
サヤは、冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、全員に配っていた。
ふむ、あいつ、結構気が利くな。
ん? 新藤は帰らないのか? 当たり前のような顔をして、アマンダの隣に座ってやがる。
「お騒がせしてすみませんわ。では、新藤さんも加えてということで、宜しいのですわね?」
なるほど、ここからは三者会談と。
ならば、二国間での重要な話は、もうないということか?
しかし、これにはガーナード少将が噛みつく!
「いや! 今、この国に向けて、何処の国かは分からないが、ミサイルが放たれたのは事実だ! そう、状況が変わったはずだ! なので、我々の交渉にも、まだ余地があるはずだ! 悪いが、日本は外してくれたまえ」
ふむ、言いたい事は分かる。だが、何処が撃ったか分からないのでは、状況に変化とまでは言えないのでは? 既に魚雷も撃たれている。当然、こいつらも知っているはずだ。
そして、この少将の髪の毛は動かなかった。つまり、こいつもまだ知らされていないということか。
すると、新藤が呆れた顔をして突っ込む。
「へ~、ところで、今、日本とアメリカの使者がここに居るのは、各国とも周知でしょう。では、ミサイルを撃ったのは何処なんでしょうかね~? 周りに艦船が居たことから、犯人は既に見当がついているはずです。もっとも、私も何も知らされて居ませんがね。ちなみに、日本には、あのタイプの対地ミサイルを発射可能な潜水艦はありませんよ」
ふむ、新藤も俺と同じ考えのようだ。
そして、日本は、物理的に潔白だと。
ん? 後ろからで顔は見えないが、真ん中の男、モーリスの背中が震えている!
良く見ると、膝元で拳を握りしめている。
更に、再び新藤が口を開こうとしたその時だ!
「あ~、タカヒロ! それ以上は勘弁して欲しいでござる! そして、アメリカ、いや、拙者は、この交渉を降りるでござる! 後は少将殿が好きにすればいいでござる! では、失礼するでござる!」
モーリスは、席を立った!
隣の妹さんも、スーツケースに荷物を仕舞い始める。
少将は、縋るようにモーリスを見るが、席を立とうとはしないようだ。
俺とサヤは呆然とするが、アマンダと新藤は、うんうんと頷いている。
そして、この反応から、犯人はアメリカで間違いなかろう。
今のこの二人の発言で、俺も理解できた。
これは、壮大な茶番。理由も想像がつく。
また、今のモーリスの新藤への呼び方からすると、どうやらこの二人は知り合いのようだ。なら、新藤が堂々とここに居られたのも、納得できるか。
シュタイナー兄妹が部屋を出て行くと、取り残された少将に、アマンダが更に鞭打つ。
「それで、ガーナード少将はどうなされますの? シュタイナー次席補佐官は、降りると仰いましたが」
「つ、続ける! 私は手ぶらで帰るつもりはない! そもそも、あのミサイル、我が国が撃ったという証拠が何処にある?! そして、あのような事が起らない為にも、貴国は、強大な軍事力を有するアメリカをバックにつける必要があるのではないかね?」
やはりそう来ますか!
そして、この男、俺ごときにばれているというのに、かなり諦めが悪いようだ。
と、言うより、これがアメリカの目的なのだろう。
おそらくだが、会談が不調に終わりそうなので、焦ったアメリカが、それこそ本当の援護射撃をしたのだろう。こいつはそれに乗っただけ、いや、もう引っ込みがつかなくなったと見るべきだな。
また、余計な事は言わずに、三者会談にしていれば、新藤も、この件には触れなかった可能性が高い。
そして、こいつの言う通り、証拠は無い。あの海域に居た潜水艦の証言など、各国の思惑が渦巻くこの状況、信用できる訳もなく。
例えば、ロシアが撃ったならば、この場でアメリカは高らかに、「ほれ、ロシアが撃ったぞ。ここはアメリカが守ってやるよ」って、感じになるはずだが、当然ロシアは否定するだろう。
アメリカだったとしても同じだ。仮に日本が探知していたとしても、アメリカとの同盟の手前、絶対にばらさないだろう。また、ロシアが証言しても、アメリカは否定するだけだ。
ただ、一つだけ言える事は、アメリカの使者が居るここに、ミサイルをぶちこむって事は、アメリカと、マジで喧嘩する度胸があるって事だ!
松井や新藤の話からは、ロシアも中国も、そこまで気合が入っているとは思えない。
そして、アマンダが更に突き放す。
「では、何故、あのミサイルは迎撃されなかったのでしょう? アメリカは、貴方方を見捨てるような、薄情な国なのですか?」
「あ、あの距離での迎撃は不可能だ! ロ…、シン君だって、ギリギリだったではないか!」
ん? こいつ、何か言い間違えたな。そういや、モーリスもか。ふむ、どうやら俺には、既に何か渾名がついているようだ。
「アメリカは迎撃できず、シンさんは迎撃できた、という事ですわね?」
「い、位置が問題だ! シン君は、この島に居たから可能だった。それだけだ!」
本当に往生際が悪いな。
アマンダはげんなりした顔になっているし、新藤に至っては、スマホを取り出し、何かしているようだ。サヤだって、撮影を続けてくれてはいるが、笑いを堪えているし。
「とにかく、一度仕切り直されることをお勧めしますわ。そして、我が国は、こういった事が二度と起こらないように、貴国と、相互不可侵条約を結ぶ事を提案致しますわ。大統領に、そうお伝え下さい」
ぶはっ!
これ、絶対に嫌味だよな。
少将は、顔を真っ赤にしながら席を立った。
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