第12話 アメリカとの交渉
アメリカとの交渉
3人が歩を進めると、その後ろから、海兵隊だろう、銃を構えた迷彩服が、5人程付き従う。
ふむ、釘を刺しておくか。
俺は、少し大きめの声で警告する。
「メリュー王国へようこそ! 入国を許可します。ですが、武器を持った人の入国は認めません! 飛行機で待機して下さい」
アマンダからの指示は特に無かったが、これくらいは当然だろう。
しかし、兵は退かず、白い軍服が返す。
身長は180cmくらいで、少し小太り、サングラスをかけている。パイプを咥えさせたら、歴史の教科書に載っている、マッカーサーとか言われそうな男だ。
「Thanks! for entry permit. But! this is not safe yet!」
チッ! 俺は日本語で言ったのだが、英語で返してきやがった!
俺も、ランゲージスキルを使わなくとも、これくらいの英語なら理解できる。
また、魔法名からも分かる通り、メリュー語はかなり英語に近い。なので俺は、英語圏からの召喚者が、メリューの創設に関わっていると考えている。
だがこれは、更に釘を刺す必要がありそうだ。
「現在、メリュー王国の公用語は日本語です。そして、ここが安全でないと思うなら、どうぞ引き取り下さい」
そう、日本語が出来ないなら、先の返事もなかったはずだ。他の奴はともかく、こいつは明らかに日本語を理解している。
そもそも、俺という究極兵器が居る以上、ここでは銃など何の意味も無い。もっとも、それはサヤとアマンダにも言える事だが。彼女達だけでも、ホワイトハウスを制圧するくらいなら、充分に可能だ。
マッカーサーもどきが顔を
「だから少将殿、最初から意味がないと忠告したでござる。そして、失礼したでござる! 海兵隊は下がらせるでござる! 拙者は、大統領次席補佐官の、モーリス・シュタイナーと申す者。ロ…、いえ、シン殿、お会い出来て嬉しいでござる!」
ぶはっ!
ナニ? このござる調?
何となくだが、この人がどうやって日本語を覚えたかが想像つくな。
そしてこの会話からは、先のマッカーサーもどきは少将で、主導権を取る為に、一発かましてみたと取っていいだろう。
この人は、身長170cmくらい。ひょろっとした体格で、見事な金髪。眼鏡をかけ、かなり理知的な雰囲気を醸し出している。しかし、まだ30歳くらいに見える。次席補佐官って地位は良く分らないが、それなりに偉い人なのは俺でも理解できる。おそらく、相当優秀なのだろう。アメリカ版の新藤ってところか?
これに対して、少将は軽く頷いてから、すぐに振り返って何やら支持を飛ばす。すると、海兵隊は大きなスーツケースを一つ、女性士官に手渡してから、飛行機の中に消えて行った。
ふむ、予定の行動だったと。
俺は全ての海兵隊が飛行機に乗り込むのを確認してから、仮設住宅を指さす。
指した家の前では、サヤが手を振ってくれている。
そして、一瞬だが、仮設住宅全体が、淡い光に包まれた!
ふむ、アマンダ、あの魔法を使ったな。
「こちらこそ、シュタイナーさん。では、あちらで女王が待っていますので、どうぞ」
俺も人間に擬態して、一緒に出席しようか迷っていると、頭に直接声が響く。
(シンさんは、そのまま、入り口で聞いていて欲しいですわ。この状況、不快に思っている国もあるはずです。それに、シンさんがその姿で彼等の背後に居る意味は大きいですわ)
なるほど、何かあっても、すぐに行動できるようにしておけと。後は脅しの効果と。
(分かった。じゃあ、後は頼むよ)
(ええ、頑張りますわ!)
彼等がサヤの案内の下、ぞろぞろと仮設住宅に入る。当然、扉は閉めない。
俺は頭を低くし、片目でその空いたスペースを塞ぐ。
あまりびびらせてもなんだが、これはこれで効果があるだろう。中から見れば、俺の眼が背後から睨んでいると感じられるはずだ。
中では、業務用のテーブル2つを正方形に並べ、手前、入り口側に彼等3人を座らせ、奥にはアマンダ一人が座る。サヤはスマホを持って、アマンダの斜め後ろから撮影している。
手前側は、真ん中にシュタイナーが陣取ったので、やはり彼が今回の交渉役だろう。
先ずはお互いに自己紹介をする。ふむ、全員、ちゃんと日本語を話せるようだ。
まあ、メリュー語が無理なのは当然なので、最低限、日本語を話せる人選なのだろう。
また、サヤの撮影に関しても、特に何も言われない。
これも、拒否したところで、他で盗撮されていたら無意味との判断だろう。また、下手にごねて、この会談そのものが中止になっても困るはずだ。
白い軍服の男は、アメリカ海軍少将、ウォルフ・ガーナード。それ以外には、特に何も言わないところを見ると、ただの付き添いの可能性が高そうだ。
女性士官は、席に着くとスーツケースを開き、トランシーバーとノートパソコンを取り出した。
名前はクリスティーナ・シュタイナー。名前から分かる通り、モーリスの妹とのことなので、彼の補佐役だろう。彼女は、見事な金髪を肩まで伸ばし、アマンダには及ばないが、かなりの美人でもある。身長も170cmくらいあり、モデルと紹介されても違和感がないだろう。年齢は、20台半ばくらいか?
「それで、この度は、このメリュー王国にどういったご用件ですの? 最初に申しておきますが、忌憚のないお話を伺いたいですわ」
ふむ、始まったようだ。
アマンダの目付きが険しくなる。
「では、遠慮なくでござる。最初に、まだアメリカ合衆国としては、メリュー王国を承認していないでござる。何故なら、こちらは、メリュー王国を丸ごと受け入れるつもりだからでござる」
「それは、アメリカが我が国を併合したいということですわね」
「その通りでござる。当然、陛下とそこのサヤ殿の市民権、及び安全、そして、この島の所有権もアメリカが保証するでござる。この島を51番目の州として、引き続き、陛下が州知事として治めるのもありでござる。なので、国籍だけがアメリカになると考えて頂いていいでござる」
ふむ、妥当、いや、出来過ぎなくらいの提案だな。アメリカ国籍はでかい。彼女達の安全も保障されるのは間違いなかろう。俺も、これならいいと思える。
しかし、アマンダは違うようだ。
「では、シンさんはどうなりますの? 今の説明に、シンさんは含まれていませんでしたわね」
「そ、それは……」
モーリスが口を濁そうとすると、ガーナード少将が割って入った。
「それは当然、合衆国市民として受け入れるつもりだ。既にその用意もある!」
ん? 少将の帽子が軽く浮き上がり、その隙間から一瞬光が漏れた!
あ~、これ、アマンダの魔法だ。
そう、この仮設住宅が最初に淡く光ったのは、彼女の魔法、『ライアースキャン』が発動したからだ。この魔法の効果範囲に居る者が嘘を吐くと、髪の毛が逆立ってしまう。
恵南のようなスキンヘッドでも、光るので容易に分かる。
ちなみにこの魔法、かけた本人にも作用するので、アマンダも嘘は吐けない。
つまり、今の彼の言葉、何処かに嘘があったということだ!
当然、アマンダは眉を顰める。
そして、隣のモーリスからは、この状況は見えていなかったはずなのだが、彼は少将を睨みつける!
「少将! これも先に忠告したでござる! ここで嘘は厳禁だと!」
まあ、アマンダの反応で彼も気付いたのだろう。
彼は、更に頭を下げる。
「し、失礼したでござる。残念ながら、シン殿の処遇は決まっていないでござる。まだ、人間として認めるかどうかで躓いてしまっているでござる。ただ、悪いようにするつもりは無いのは、信じて欲しいでござる」
ふむ、誠意はあると。彼の金髪はそのままだ。
「かしこまりましたわ。では、シンさんを軍事利用しないと、断言して下さりますか? 私が言うのもなんですが、シンさんの力は強大です。それを、この世界でも最も力があるとされるアメリカが独占すれば、パワーバランスが崩れるのは必至でしょう」
あ~、ここで俺も理解できた。
アマンダの心配は、俺が兵器として利用されるのを恐れたのだ!
俺がアメリカ兵として力を振るえば、間違いなく、アメリカの一強体制に拍車がかかる。
そうなれば、それに従いたくない国は、どう出るだろうか?
これは、あまり考えたくないが、そういった国が結束し、第三次世界大戦までありえるかもしれない。
「も、申し訳ないでござる。約束は出来ないでござる。ただ、シン殿の力が今のアメリカに加われば、アメリカ主導の地球連邦が成立すると、大統領は考えているでござる」
まあ、そんなところだろうな。
確かに、上手くやれば、戦争などにはならず、不可能ではないのかもしれない。
ただ、イレギュラーな存在である、俺の力を借りて統一したところで、意味があるかどうかは、甚だ疑問だが。
「では、併合に関しては、無理ですわね」
アマンダが毅然と言い放つ。
これで終わりと思いきや、モーリスはまだあるようだ。
「で、では、軍事同盟はどうでござろうか? 条件があるなら、何でも言って欲しいでござる! 日本とも結ぶつもりでござろう? ならば、その同盟国であるアメリカと結んでも、いいはずでござろう」
ふむ、三国同盟か。これも悪い話ではないように思える。
しかし、彼は何故ここまで下手に出るのだろうか?
俺のアメリカのイメージからすれば、「結んでやるから、何か差し出せ!」とか言いそうなものなのだが?
日本や韓国、中東諸国とは違って、このメリューの海域に、それほど戦略的な価値があるとも思えない。
アマンダは、顎に手を当てて考える。
沈黙が流れる。
「条件も考慮してみましたが、それも無理ですわね。こちらのリスクが高すぎます。アメリカの国土が広すぎるのです。有事の際に、シンさんがそこに赴けば、その間、我が国の防御が手薄になります。隣接している日本の国土くらいが限度でしょう。そして、同盟であっても、実質的には、アメリカがシンさんの力を手に入れる事と同意義ですわ。私は、シンさんの力で、この世界を変えてしまいたくはないのです。なので、本当に残念ですわ。ここまでアメリカが強くなければ……」
そこで、今まで黙って撮影していたサヤが、いきなりスマホを放り投げた!
「ヤバいっす! 危機感知! 近いっす!」
同時に背後から扉の開く音!
「ミサイルです!」
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