第22話 動き出すメリュー

        動き出すメリュー 



 翌朝、朝日を浴びて俺が目覚めると、背中では、同時にアマンダが起きたようだ。

 枕と毛布をアイテムボックスに収納しながら、俺の尻尾へと這って行く。


 この女性ひとは、運動神経は皆無なので、驚かさないように、そっと見守る。

 うん、無事降りられたようだ。


「おはよう、アマンダ。ちゃんと寝れたか?」

「あら、シンさんも起きていたのですわね。おはようですわ。ええ、サヤちゃんの言っていた以上ですわ! そして、星を見上げながら寝るなんて、いつ以来でしょうか? しかも、背中には絶対の安心感……。これからも、毎晩お願いしますわ」

「そ、それは良かった。うん、好きにしてくれ。お、俺も嬉しいし。だけどここ、地上からはあまり見えないかもだけど、空からは丸見えだぞ? まあ、偵察衛星からだから、そこまではっきりとは見えないと思うが」


 俺は、伊丹での件を思い出す。

 彼女はかなりシャイなので、こういうのは、サヤ以外にはあまり見られたくはないはずだ。


 アマンダは、予想通り、少しはにかみ、真っ赤になってしまった。

 うん、眼福だ!


「そ、そうでしたの? では、やはり屋根が欲しいですわね。そろそろ雨も降りそうですし」

「だな。でも、それは落ち着いてからでいいだろう。それより、今はあの国だ」

「ですわね。それで、シンさん、魔力の感じはどうですの?」

「う~ん、体感、半分ってところか? 晩には満タンになると思う。俺の魔力だと、魔力結晶も焼け石に水だし、待つしかなさそうだ」

「ええ、モーリスさんも、急ぐ必要は無いと仰っていましたから、今日は、皆、回復に専念しましょう」


 その後は、サヤを叩き起こし、俺も人間に擬態して、食堂に行く。

 彼女達はシャワーを浴びてくるそうだ。

 なので、俺が朝食の準備をしていると、岡田が来た。


「シンさん、お早うございます。それで、あの件ですが…」


 ふむ、早速探しに行ってくれたようだ。

 朝っぱらから、なんか悪いな。


 話を聞くと、パイソントードは海岸に居たらしい。

 そして、岸壁に打ち上げられていた海藻やら流木やら、とにかく、植物性と思われる物を、手当たり次第に食べていたそうだ。


「しかし、なんとも奇妙な生き物ですね~。顔も身体つきも蛙そっくりなのに、毛が生えていて、頭には牛みたいな角。それで、早速農水省の友人に聞いたのですが、生態系にどんな影響を及ぼすか分からないので、出来れば勘弁して欲しいとのことでした。力になれなくて申し訳ないです」


 ふむ、感想はともかく、根本的に無理と。


「いえ、こちらこそすみません。じゃあ、見かけたら食べておきますね」

「え? そ、そこまでしなくてもいいかと。貴重な異世界生物のサンプルです。彼も、学者を連れてきて調べたいと言っていましたし。あ、あと、先程米軍から通信があって、なんでも、今から来たいとか」


 ぬお?

 それを先に言って欲しい!


 奥を見ると、通信機のランプが何やら光っている。

 ふむ、当然、こっちにも来ていたと。

 現在、ちゃんと扱える人間がいないのはちと問題かもな。

 もっとも、アメリカとの通信など、そうそうありそうもないが。


 すると、机の上に置いてあった、衛星電話が鳴る!

 俺は、慌ててそれを取る。


「はい、メリュー王国です」

「やっと出たわね! その声はドラゴンさんかしら? まあ誰でもいいわ。とにかく、モーリスを出して頂戴!」

「わ、分かった」


 ふむ、何度もかけていたと。

 岡田は気を利かせて帰り、俺はモーリスを叩き起こす。



「皆、揃ったでござるな。食事をしながらでいいでござる。さっき連絡があって、今からアメリカが来たいそうでござる。建前上は親睦を深めたいとのことでござるが、前回の詫びと、今回の件についてでござるな。シン殿が帰った事で、動いたようでござる」


 モーリスは、パジャマ姿のまま報告してくれる。


「詫びってなんふか? 金っふか?!」


 サヤがホットケーキをいっぱいに頬張りながら、モーリスに聞く。


「いや、シン殿の家らしいでござる。詳しくはクリスも聞いてないそうでござるが、現在、空母で待機していて、昼頃には来られるそうでござる。多分、巨大なガレージのようなものでござろう。当然、下心もあるのは確かでござるが、今のアメリカなら、断わるほどでもないでござろう」


 お、それは嬉しいな!

 俺としては、屋根さえついていれば何でもいい。贅沢は言えまい。

 もっとも、下心ってのが気になるが。


「それで、モーリスさん、下心とはなんでしょう?」


 お、アマンダ、ナイス!

 俺は先程から、5人前を片づけるのに忙しく、喋るのはちと面倒だ。


「盗聴器、盗撮機とまではいかないでござろうが、中にシン殿が居れば、アメリカに分かるような仕掛けを必ずしているはずでござる。もし、メリュー独自でシン殿の家を作った場合、アメリカはシン殿の現在地を把握するのが困難になるからでござる。転移魔法が使えるのは、一昨日証明したでござるしな。それで、どうするでござるか?」


 なるほど。 

 テレポートを考慮すれば、気休め程度にしかならないのだが、それでも俺がここに居るかどうかくらいは、常に把握しておきたいと。

 それで、先手を打ってきたと。


「ええ、確かに、それくらいは仕方ないでしょう。シンさんの家は、現在、最重要課題ですわ!」 


 ぶっ!

 今朝の俺の一言が効いたようだ。


「では、そうクリスに伝えるでござる。それで、北朝鮮はどうするでござるか? あれから何もしてこないところを見ても、急ぐ必要は無いでござるよ」

「そうですわね。では、明日にでも宣戦布告をしましょう」


 ぐはっ!

 手順を踏んでってところだろうが、現状、うちは5人しかいない。それが数千万の人口を抱える国家に対して宣戦布告って!

 正気を疑われるのは間違い無いな。


「だが、アマンダ、宣戦布告はいいが、米軍さんはどうする? 戦争中のうちに対し、のんびり家なんか作っている余裕は無いと思うけど?」

「あら、そうですわね。では、モーリスさん、片付くまで、少し待って頂くようお伝え下さい。残念ですわ」


 ふむ、アマンダもそこまでは考えていなかったと。

 しかし、モーリスは違うようだ。


「どうでござろう? アメリカも、メリューが報復に出る可能性は承知しているはずでござる。なので、それも含めて、アマンダ陛下、今から布告のタイミングとか、作戦を詰めるでござる。では、着替えて来るでござる!」


 モーリスは颯爽と立ち上がり、部屋を後にする。

 ふむ、彼は今、やり甲斐に満ちているのだろう。

 この国には、彼の能力を埋もれさせる余裕などないからな。



 皆で相談した結果、布告する時間は、明日の朝9時。10時をもって開戦となった。

 既にうちは攻撃を受けているので、布告までする必要は無いと思うのだが、するとしないで、国際世論が大きく分れるそうだ。

 ふむ、北朝鮮も、あれは人工衛星だと言い張っているしな。


 また、アメリカには、このまま来て貰って、そこで、メリューに報復の意思があることだけを伝える。関わりたく無ければ、ご自由にどうぞってことらしい。


 日本にも伝えるかどうかは、少し悩んだが、結局、伝える事にした。

 これは、日本の防諜力の甘さに起因する。もっとも、モーリスに言わせれば、別に、ばれても大差ないだろうとのことだ。それに、ここまで築いた関係を棒に振る方がマイナスだ。引き続き、日本の哨戒能力はあてにしたいしな。

 手順としては、アメリカが来た時に、岡田を同席させるらしい。



「アマンダさん、もうちょっと右っす! シンさんはもっと頭低くして欲しいっす! 画面に入らないっす」


 現在、俺達は布告用のビデオを撮影している。

 なに、アマンダが、俺をバックに軽く演説をして、最後に時間を指定して終わりの、簡単なものだ。


 そして、撮影が終わると、早速そのデータを持って、アマンダがサヤを連れてクリスのところへテレポートする。

 これを明朝9時、クリスが朝鮮総聯に直接投函する予定だ。また、その時刻にネットでも配信され、国連本部にもメールされる。

 当然、朝鮮総聯に行く時も含め、これからは危険が予想されるので、サヤを護衛につけるということである。


 ちなみに、今、クリスが居る場所は、あの会談の為に用意された部屋で、羽田空港の隣のホテルの一室を、日本が借り切ったそうだ。ちょっとした、スイートみたいな感じなので、そこをそのままメリュー領事館として使わせて貰っているとのことだ。

 おそらく、新藤の計らいだろう。

 なので、こういう仕事や、日本での物資調達も彼女の担当になる。なんか、かなり負担をかけているが、彼女からすれば、少しでも新藤の近くにってところだろう。



 アマンダが戻って来て、三人で簡単に昼飯を済ませると、米軍の輸送ヘリが上空に見えた。

 自衛隊も使っていたが、チヌークって奴だな。それぞれ、クレーンとか小型の重機をワイヤーでぶら下げたのが三機。更に上空には、それを護衛していると見られる戦闘機までいる。

 ふむ、どうやらここは、既に戦場という認識のようだ。


 ヘリは、一旦重機を降ろすとワイヤーを切り、次々とヘリポートに着陸していく。

 結構広めに作ったつもりだったが、もう満員だ。


 そして、ヘリからは、満面の笑みのあの男と、スーツ姿の黒人女性が降りて来た!

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