第10話 日本の現状
日本の現状
彼女達が風呂に入って居る間、俺は食事の準備にと、冷蔵庫を漁る。
サヤとアマンダは、二世帯型の仮設住宅の、向かって右側を居住スペースにして、今、俺が居る左側は、会議室兼、応接室兼、食堂と決めたようだ。
なので、当然、俺であっても右側に立ち入る事は許されない。もっとも、風呂を覗こうものなら最期、間違いなく俺の擬態も解けてしまうだろう。仮設とはいえ、せっかくの住居を破壊する訳にはいかない。まあ、サヤの裸なら見た事あるので大丈夫だろうが、アマンダは間違いなくヤバい。
「ふむ、冷凍食品が大半か。何とも味気ないが、贅沢も言えまい。でも、レンジで手軽に出来るので、これはこれで感謝だな。それに、うちには、まともに食事を作れる奴も居ないしな」
そう、調理スキルを持っている奴は、俺達三人の中には居ない。俺は、ドラゴン形態時は、昨晩のように丸ごと一匹が普通だし、生前も、専ら親とコンビニに頼っていた。サヤだって切る焼くのみ。アマンダに至っては、作った事すらないはずだ。特権階級の定めか?
すると、窓から、肉の焼ける、なんともいい香が漂ってきた!
匂いに釣られて表に出ると、なんと、新藤と松井がサーチライトの下、バーベキューセットを広げていた!
更に、サヤとアマンダも、丁度風呂を上がっていたのだろう。二人共髪をとかしながら、スウェット姿で飛び出して来た!
そして、新藤が俺達を見て、笑顔で話しかける。
「おや~? やはりこの匂いは効果てき面なようですね~。どうです? 皆さんもご一緒にいかがですか?」
「え? いいんですか? なんか悪いですね」
「本当にいい匂いですわ。勿論、ご一緒させて頂きますわ!」
「こっちの冷蔵庫には、そんな肉入ってなかったっす! 当然、たかるのみっす! 新藤さん、松井さん、ごちっす!」
ふむ、サヤは既に冷蔵庫をチェックしていたと。
それはいいのだが、ここで新藤がにやつきやがった!
「それは良かったです。ですが、このバーベキューセット、実は~、私費で購入してきたものなんですよね~」
なるほど、只では食わせないぞと。
「え? 新藤さん、国会議員のくせにせこいっす! で、いくらっすか?」
サヤは虚空に手を突っ込み、金を出そうとしたが、新藤の目的は金ではないようだ。
「いえ、日本円など、ここでは何の価値もないでしょう。なので、どうでしょうか? 何でもいいので、その異世界の物で支払っていただくとか。今までの貴方達の行動から察するに、何か、魔法の倉庫みたいなものを持っているのでは?」
あ、この男、鋭いな。アイテムボックスの存在に気付いていたとは。
まあ、今のサヤを見て、気付かないほうがおかしいか。それに、買い物をしていたところとかも、報道されていただろうからな。簡易トイレなんかは、どうやって運んだか、誰だって疑問に思うはずだ。
サヤとアマンダも理解してくれたようで、早速、揃って虚空に手を突っ込む。
「これはメリューの宝石ですわ。この世界での価値は分かりませんけど」
「なら、メリュー銀貨でどうっすか? あっちじゃ、日本円に換算すると、1万くらいの価値だったと思うっす」
アマンダが差し出したのは、100円ライターくらいの大きさの、真っ赤に輝く、アダマンルージュと呼ばれる鉱石。
サヤの手には、500円玉くらいの銀貨。
しかし、サヤよ、どうせなら金貨にしてやれよ。確か、腐る程あったはずだぞ。
新藤は、それぞれを手に取り、ライトの近くに寄って、確認する。
「う~ん、これはこれで興味深いので、後で本土で鑑定させたいので、預からせて頂くとして、出来れば他の…、そうですね~、向こうの生活様式が分かるようなもの、何かありませんかね?」
なるほど、新藤の考えが理解できた気がする。
新藤は、その二つを、懐から出したビニール袋に丁寧に仕舞いながら、更に交互に二人を見る。
アマンダは、顎に手を当てて考え込むが、サヤは再び虚空に手を突っ込む。
「じゃあ、これどうっすか? もう着なくなった上着っす。材質は良く分らないっすけど、かなり丈夫っすよ」
サヤは、向こうでの普段着、こちらではポロシャツと呼ばれるような形の、白い半袖を取り出した。確か、これも聖銀(ミスリル)が編みこまれていたはずだ。
すると、新藤は満面の笑みとなる。
「お~! こういうのが欲しかったんですよ! では、遠慮なく頂きますね。そして、この宝石と銀貨は、鑑定が済んだらお返しするということでどうでしょうか?」
「問題ないっす! それより肉っす!」
「あはは、では、遠慮なく食べてください。松井さん、もう焼けてますよね?」
「はっ! いい頃合いかと。どんどん焼いていきますので、申し訳ありませんが、セルフサービスでお願いします!」
その後は、皆で新藤の話を聞きながら食事をする。
ニンニクの効いたタレだったので、アマンダに食わせるのは少し心配したが、彼女は問題無くたいらげていく。
もっとも、奉行役をしてくれる松井が大変そうではあったが。
「あ! エルバイン陛下! その肉はまだです! サヤさん、そっちの野菜はもういけます!」
「かしこまりましたわ。それで、新藤さん、日本国の状況はどうですの? 今日の件も含めて、我が国、いえ、シンさんには、既に充分な力があることを証明できているはずですわ」
アマンダは、肉を物色しながらも、真顔で新藤に質問する。
「そうですね~。ええ、貴方方の力は、もう充分に見せつけられましたね~。なので、予定としては、数日中にも、メリュー王国を国家として認める、閣議決定がなされる予定です。ですが、同盟ともなれば、どうしても国会での審議が必要でしょう。当然、大荒れになる可能性が高いです。残念ながら、我が国の国会議員の中には、日本の事よりも、個人や支持者の利益を優先する人も少なくないですから。でも、
ふむ、納得できる理由だな。
そして、反対する議員さんには、そういうのも少なくはないだろう。もっとも、支持者の意見=国民の意見でもある訳で。ただ、国家全体として考えると、どうなんだか。
俺としては、議員さんは、国家全体の利益を調整する為の、一種のプロであって欲しいと願っている。なので、知名度だけのタレント議員さんや、一部の人に限られた利益に拘る人、一時の国民感情に任せる人は相応しくないと思っているが、それも国民の選んだ結果だしな。
替わって俺達の方、今のメリューには、完全な独裁のプロとしてのアマンダが居る。
彼女は、生まれた時から女王になるべく教育を受けているので、そっちに関しては、俺とサヤには何の心配もない。メリューが最期まで魔族に抵抗できたのが、その証拠だ。
とあるアニメのテーマでもあったが、有能ではあるが独裁者と、無能ではあるが国民に選ばれた代表、どちらがいいだろうか?
幸い、今の日本の首相、阿納さんは、この新藤を起用していることからも、無能ではないように思えるが、それはそれで、同盟交渉においては、こちらが有利になるとも限らない。
「感謝いたしますわ。では、問題は同盟の内容ですわね。ですが、それも、まずは認めて下さってからですわね」
「はい。同盟に関しても、私が下準備するようにとのことです。ですが、それは明日にしましょう。あ、松井さん、その肉いいですかね?」
「はっ! いい頃合いかと!」
「あ、それ、あたいが狙ってたっす!」
うん、今は食事を楽しもう。
その後は、今の日本の政治状況とかを、新藤がアマンダに説明してくれる。
彼としては、信用を得ておきたいというのが第一の理由だろう。
そして、これも俺の生前の頃と大差ないようだ。
相変わらず自由連合党が過半数を握り、そのお引きに宗教政党。それに、一部の野党も連立を組めないかと打診してる感じだ。一方、反自連勢力の方も相変わらずのようで、共民党以外は、我こそが第一野党と主張しあって、野党同士での足並みは揃ってはいないようだ。
また、今回の我が国への対応は、野党にとっても、国民感情に沿えれば、支持率を上げるチャンスなのだが、まだ判断しかねているようだ。これは、当然、他国からの横槍の結果と考えるべきだろう。今までの新藤の話からは、メリューに対する国民感情は、概ね好意的。なので、我が国を認めて同盟を組む方向に舵を取れれば、支持率も上がるはずだからだ。
もっとも、反対派の受け皿として、共民党だけが真っ先に我が国を否定しているようだが、それはそれで仕方なかろう。
アマンダも、全く反対意見が出ないような国は、逆に気持ちが悪いと言っていた。
「新藤さん、大変有意義なお話、感謝致しますわ。それで、私共も、明日にはここを完璧にしますわ。なので、今日はもう休みましょう」
「はい、私も少しですが、陛下の考えを覗えて嬉しいですよ。では、皆さん、おやすみなさい」
うん、この調子なら、明日中に整備が終わるだろう。サヤも、既に俺にもたれてうとうとしている。
しかし、何か忘れている気がする。
あ、俺の寝床の話がまだだったか!
まあ、今は気候もいいみたいだし、急ぐ必要もなかろう。外で寝るのは慣れているしな。
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