第9話 試されるドラゴン

         試されるドラゴン



「サヤ!」

「はいっす!」


 俺が飛び出すと同時に、背後からも声がする!


「魚雷は、南、約15キロの地点からの発射です!」

「はい! アマンダ! ここから情報頼む!」

「はい!」


 俺は、ジャンプし、即座に擬態を解く!

 サヤもジャンプし、俺の尻尾から、背中に駆け上がって来る!

 直接頭に声が響く!


(速度300キロ以上、到達まで90秒! もう少し右! とのことですわ)

(わかった!)


 チッ!

 300キロって! 魚雷のくせに、やけに早いな!

 最新鋭と見ていい!


「ファーサイト! シースルー! 見えたっす! 2本! もう少し右! 深度は50mくらいっす!」


 サヤが、俺の背中の中心より少し右を叩く!


「それでOKっす! 擦れ違うっす!」

「掴まってろ! ファイアブレス!」


 俺は、真下に向けて最大威力で炎を吐く!

 凄まじい爆音と共に、水面が弾ける!

 無数の水弾が俺を襲い、視界が真っ白になる!

 そう、俺は、水蒸気爆発を巻き起こしたのだ!


 そして、すぐさま反転する!


「サヤ!」

「流石っす! あれで誘爆したみたいっすね~。危機感知も消えたっす」

「ふ~、間に合って良かったよ」

「で、どうするっすか? 撃った奴、絞めるっすか?」


 俺が振り返ると、サヤもいまいましそうに後ろを向き、未だ水煙が漂う海面を睨みつけている。


「いや、今回はただの警告、ないしは俺の性能テストだろう。本気なら、核を使うか、もっと撃つだろ。だったら、2本ってことはありえない。あんな小さな島、核なら1本で充分なはずだ。もっとも、あの環礁をぶち破るくらいの威力はあったと思うが」

「そうっすね。でも、何処の国が撃ったか確かめないんすか? あれ、潜水艦からっすよね? 今なら、まだそこらに居るっすよ?」

「とにかく、一旦引き返そう。これが陽動って可能性もある」

「了解っす!」



 島に戻ると、仮設住宅の前で、アマンダが満面の笑みで、こちらに手を振っている。

 他に人影は見えないと思ったら、ヘリからわらわらと出て来た。

 ふむ、逃げ出す準備は出来ていたが、危機は去ったとの判断か。


 家の隣に降りると、早速アマンダが駆け寄って来る。

 続いて、家の中からも、新藤と松井が出て来た。


「シンさん、サヤさん、お疲れ様ですわ。ご無事で何よりですわ!」

「うん、アマンダもありがとう。でも、相手は本気じゃなかったようだ。そして、日本の皆さんには感謝します。察知できなければ、防ぎようも無かったです。ところで、新藤さん、松井さん、逃げようとはしなかったんですか? 今ので分かったと思いますが、ここ、危険ですよ?」


 うん、この人達まで巻き込みたくはない。

 俺は、巨大な頭を下げながら聞いてみる。

 しかし、新藤は、それに笑いながら答える。


「あははは。だって、池上さんの話によれば、貴方達は、世界は違えど、滅亡時のたった三人の生き残り。いわば、生え抜きです。そのような貴方達の側に居れば、そうそう死にはしないでしょう。そして、お役に立てて何よりです」


 う~ん、この男は何処まで本気なのだろう。

 まあ、信頼してくれるのなら、悪い気はしないが。



 家の中で、海上自衛隊の人も交えながら、今回の顛末について、説明を聞く。

 アマンダは、この世界の兵器に関しては、全くのド素人なのだが、その都度質問し、大方は理解してくれたようだ。


 自衛隊の人によれば、やはり、あれは俺のテストだろうと。

 そして、撃った国については、ある程度想像は出来るが、断言は出来ないとのことだ。

 撃ったのは潜水艦で間違いないのだが、あの爆発の為、あの海域での探知はかなり困難になり、その隙をついて逃げたと見られる。

 また、あの魚雷、スーパーキャビテーションという、特殊なシステムを導入したロケット推進だと思われるが、命中精度が低すぎるので、対艦には不向きだが、このような大きな目標を攻撃するなら、うってつけらしい。だが、当然、そのようなものを持った国は限られている。


 あと、この島は、八丈島の東、400キロくらいの位置なので、この島の西側は、すぐに日本の排他的経済水域。俗に、200海里と呼ばれるエリアになる。ちなみに、東京からだと、500キロくらいだそうだ。

 なので、自衛隊の護衛艦とかは、この島の西側に待機していて、アメリカは東、ロシアは北に陣取っているらしい。

 そこで、空いていたエリア、南側から攻撃されたと。

 当然、探知してくれたのは、日本の護衛艦と潜水艦で、松井さんの無線に、すぐに報告が来たそうだ。


 なるほど。この島の周囲の状況は、これでかなり理解できたな。

 そして、今までは、自衛隊なんて飾りくらいにしか思っていなかったが、何気に索敵能力、凄いな。



 説明が終わる頃には、日も傾き、その他の作業もほぼ完了したので、皆、ヘリで引き返していく。また、食事は、冷蔵庫の中に入っているもの、何でも食べてくれとのことで、本当に感謝だ。ふむ、3日分くらいあるな。


「で、松井さんはともかく、新藤さんは帰らなくていいんですか? 国会議員でしょ?」

「いや、私、まだ内々ですが、これでも日本国からの特使でしてね~。それに、こんな面白そうなイベント、最前席で見られるチャンスを逃す人は、馬鹿ですよ」

「はっ! 私も、この場を離れたくはないです!」


 ふむ、この男達がここに居る理由は、それが本音っぽいな。彼等にとって、ここは最高の劇場のようだ。

 ま、こちらもかなり助かっているし、いいか?

 アマンダも異存ないようだし。



 その晩は、家が出来た事で、小さな風呂だが、それでもやっとまともに身体を洗えると、二人は大喜びだった。

 もっとも、今までも魔法で何とかなっていたのだが、やはり風呂は別格のようだ。

 俺の場合は、擬態した状態で入ってもまるで意味が無いので、羨ましい限りなのだが。

 ふむ、俺専用の風呂、いや、温泉を提案してみるべきか?

 ここ、火山島の出来損ないって言ってたし、掘ってみるか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る