第8話 謝礼

         謝礼



 翌日は、朝食を済ませると、早速領土の整備だ。

 環礁の内側部分を、俺がアマンダを乗せながら、中心から盛り上げていく。

 サヤが、盛り上げ過ぎてしまったところを、刀で切り刻んでくれる。


 内側部分が、半径1キロほどになったところで、遠くから、日の丸をつけたヘリが見えた。

 10時過ぎか。予想より少し早いな。


 ふむ、サヤのおかげで、大分平らになったが、それでもまだ凸凹だな。あれじゃ、着陸するのに苦労しそうだ。

 なので、俺は一旦地面に降り、サヤと松井さんを呼ぶ。


「サヤ、少し地面をならしたい。なので、そこらのもん、全部、隅によけてくれ。松井さんは、少し着陸を待って貰うように言って下さい」

「了解っす!」

「はっ! そのように伝えます!」

「じゃあ、アマンダ、俺が土地をならすから、フォローよろしく」

「かしこまりましたわ」


 そして、再びアマンダを乗せて飛び立つ。


「本気で行くぞ! ファイアブレス!」


 俺はゆっくりと飛びながら、地面に向けて、火炎放射する!

 炎に焙られたところが真っ赤になり、みるみる溶岩化していく!


「ブルドーズ!」


 更に背中のアマンダが、そこを平らにしていく!

 ほどなく、数百メートル四方くらいの土地が、まっ平らになった。


「今はこれくらいでいいだろ。じゃ、次だな。フリーズブレス!」


 今度は、真っ赤だった地面が、氷に覆われる!


「う~ん、かなりひびが入ってしまったか。じゃ、アマンダ、仕上げ、頼むよ」

「ええ、サンドウォール!」


 地面に砂嵐が駆け抜け、ひび割れた部分を埋めて行く!


 ちなみに松井は、島の端で通信機を抱きかかえ、あんぐりと口を開けていた。



 ヘリが島の中央に着陸すると、即座に扉が開き、新藤が顔を出す。


 ん? 意外と乗っている人が多いな。操縦士を除くと、6人。工事用の作業着にヘルメットの人が3人、後はお馴染みの自衛隊員。

 はて? 作業着の人は何をするつもりだ?

 まあ、誰も銃とか持っていないようだし、大丈夫か。


 皆で出迎えると、新藤を先頭に、ぞろぞろと降りて来た。


「メリュー王国にようこそですわ。入国許可を出しますわ」

「はい、ありがとうございます。それで、早速話をさせて頂きたいのですが、この状態では何ですね。なので先に、昨日の偵察機拿捕のお礼をさせて頂きたいのですが」


 ふむ、お礼ってなんだろう?


「金っすか?!」


 あ、サヤの方が先に突っ込みやがった。

 それに、新藤が笑いながら答える。


「あははは。そんな、ここでは何の価値も無い物ではありませんよ。ええ、ODAって奴ですかね。最低限ですが、家と自家発電機。それに、マンション用の給水機です。既にそこまで来ていますが、受け取って頂けますか?」


 見ると、被災地用の仮設住宅をぶら下げた、大型のヘリが2機、環礁の上でホバリングしていた。


「お~! これは助かりますね! ありがとうございます!」

「ODAとか、発電機、給水機というのは分かりませんが、ここはシンさんにお任せしますわ。はい、感謝いたしますわ」

「喜んで頂けて何よりですね。一応、ブルドーザーも運んできたのですが、これじゃ、必要ありませんでしたか。では、早速始めましょう」


 新藤が合図すると、全員が一斉に動き出す!


 俺は、ヘリが置いてくれた家の位置を微調整し、給水タンクやら発電機も、言われた位置に配置する。

 配電とかは、一緒に来てくれた、技術屋さんと自衛隊員が全部やってくれるようだ。



「このカレー旨いっふ! お替わりっふ!」

「これが、この世界のナンバーワン人気メニューなのですわね。確かに、辛いですけど、美味しいですわ。私ももう一杯頂きたいですわ」

「へ~、これが、かの有名な海軍カレーですか。お、辛いだけじゃなくて、ちゃんと甘味もありますね。うん、旨い! すみません、俺にもお願いします」

「あははは、異世界の方にも美味いと言われたなら、これこそ次元を超えた美味さってことですね。うん、給養員さん、ご苦労様です」

「はい、こっちも嬉しいですよ。そこに並べておきますから、取って行って下さいね~」


 現在、俺達は仮設住宅の一室で、新藤と共に、海上自衛隊の差し入れに舌鼓を打っている。

 給養員と呼ばれる、自衛隊のコックさんが、寸胴鍋と炊飯器ごと持って来てくれた。

 ちなみに、大方の作業は、俺のせいもあるのだろうが、一瞬で済んでしまった。今、外では、浄化槽の配菅とかをやってくれている。

 家は、2世帯用のが、二棟。意図は分かる。一つは日本の連絡員の為のものだろう。家具も一式ついていて、まさに至れり尽くせりだ。もっとも、これも、度重なる災害での、ノウハウの蓄積結果だろうが。



「では、腹も膨れたところで、宜しいですかね?」

「はい、ご馳走様でしたわ。新藤さん、お願いしますわ」


 話の内容としては、今の首相は、我が国を認めて、同盟を組みたいのだが、当然、既に他国からの横槍が入ってきている。しかし、党内調整さえ出来れば、現在、与党は過半数を握っているので、充分可能だとのことだ。そして、それをするのに、同盟内容も併せて、少し待って欲しいと。


 また、何故ここまで、我が国に気を遣うのか問うと、先に他国、特に、中国とかと国交だけならまだしも、同盟まで結ばれると困る。日本の目的は、周辺諸国に対する抑止力だと、素直に答えてくれた。

 なるほど。もし、メリューが双方と同盟を結んでしまうと、有事になった場合、日本にとって、何の役にも立たないと。

 アマンダの見解でも、仲の悪い国、特に領土問題とかを抱えている国、双方と同盟を組むのは、面倒事を背負い込みそうとのことだ。

ふむ、納得だ。そういや、アメリカも、竹島問題からは逃げ回っていると聞いた覚えがある。

 と、言う事は、当然、韓国とロシアも厳しいという事になる。ただ、アメリカとなら、日本と同盟を結ぶつもりなので、あちらさん次第か?


「勿論、アメリカとロシアも、貴国には接触したがっています。現在、この国の領海と見做される、12海里、約22キロの外には、既に二国の艦隊が集結しつつありますね。睨めっこ状態ですよ。ちなみに、中国は様子見ですね。潜水艦とかは居るでしょうけど」


 あ~、道理で、今日の空は空いていた訳だ。

 そして、中国だって、まさか、あんな事されるとは思っていなかったはずだ。

 懲りたってところか?


「しかし、それって、日本がかなり板挟みになっているのでは? 新藤さんがここに来る時、他国の人に、俺も連れいけ! とか、言われなかったですか?」

「ええ、貴方達が、遠慮なくチートな力を見せつけてくれちゃったので、もう大変です。まあ、おかげで首相の決意も堅くなりましたがね。そして、私もそう言われると思って、さっさと護衛艦に逃げ込んだんですよ。防衛大臣の金倉さんも、あの一件で、言う事聞いてくれるようになりましたしね~。いや~、あの人、金と票だけは持っているんで、結構扱い辛かったんですよ」


 ぶはっ!

 まあ、あんな事されたら、大人しくもなるか?

 もっとも、新藤が俺達とコネを持ってしまったってのが、最大の理由かもな。


「ところで、新藤さん、日本の国民の方々は、我が国のことを、どう思っていらっしゃるのでしょうか? 日本はメリューとは違って、民の意見が、直接政治に反映されるシステムと聞いておりますわ」

「そうですね~、その前に経緯から説明しましょう。富士の件は、伊丹から飛び立つ時も含めて、遠距離からの撮影ですが、しっかりと、報道されてしまっています。なので、シンさんの力に関してが、今、一番熱い話題ですね。マスコミでは、自称専門家の人が大量に発生していますよ」


 なるほど、伊丹の会見で、既にアマンダが俺の仲間だとばれていたのには、そういう背景があったと。大方、基地内を撮影されたのだろう。

 また、自称ってのは笑えるな。異世界ドラゴンの専門家など、居る訳もなく。


「当然、シンさんが中国機を拿捕した件も報道されています。しかし、あれはシンさんの言い分、『故障していたのだから、助けてあげた』を、政府から公式発表として出した結果、一躍ヒーローですね。おかげで、中国側もあまり強くは言えないようで、こちらも助かりましたよ」


 ふむ、やり過ぎではあったが、大義名分は通ったと。


「そいうった過程なので、メリュー王国に対する日本国民の感情は、概ね良好と言えるでしょう。陛下の美貌も加わって、ネットでは、『魔王を従えた女神様降臨~』とか、もてはやされていますね~」


 ぶはっ!

 俺、魔王なんかい!


 すると、今まで黙ってこの様子を撮影してくれていたサヤが、大声を上げる!


「シンさんは魔王なんかじゃないっす! た、確かにいっぱい殺したっすけど、あれは仕方なかったっす!」

「そうですわ! あの状況を見ていない人には、理解できないのですわ!」


 うん、俺も、あれが正しかったと今でも信じている。

 あれは、既に人間では無かった。


「い、いえ、彼等はシンさんのことを、力のある者の象徴として言っているだけです。前の世界で何があったか等、彼等は知りません。さっきも言った通り、シンさんは、日本では英雄ですよ」


 慌てて新藤がフォローしてくれるが、何とも微妙な空気になってしまった。


「まあ、その事は気にしてませんよ。人間よりも力があるのは事実ですし。ところで、俺の寝床って、作れますかね? 今は大丈夫ですが、雨に濡れるのはちと」


 そう、サヤとアマンダの住居は確保できたが、俺のはまだだ。

 新藤は、無難な話題に切り替わった事に、ほっとしたようだが、俺の予想していた答えでは無かった。


「あ~、済みません。完全に失念してましたね~。ですが、この際どうでしょう? 屋根を、全面ソーラーパネルとかにしてみるとか。ここは、日当たりが最高ですしね。ただ、この仮設住宅とは違って、それなりにかかるので、費用は、そちらで持って頂きますが」


 う~ん、笑顔で謝られてもな~。まあ、そもそもそんな約束などしていないのだから、仕方あるまい。

 しかし、太陽光発電はいいな。今流行りのエコって奴だ。

 そして、この男、どうやらセールスマンでもあるようだ。


「それって、どれくらいですか? 今、うちにはサヤがぼったくってきてくれた金しかないんですが?」

「う~ん、計算してみないと分かりませんが、全面ともなると、多分、億単位にはなりますね~。なので、仕事をしませんか? うん、それがいいです! シンさんなら、すぐに稼げますよ」


 ぬお? 億~っ! 

 ま、流石にこれは却下だな。だが、仕事ってなんだろう?

 そして、俺で稼げるのなら、考えなくもない。俺の寝床だしな。

 しかし、微妙に仕組まれている気がするのは、俺だけだろうか?


「で、仕事って……」


 そこで、いきなり、背後の扉が乱暴に開け放たれる!


「た、大変です! 魚雷が来ます!」


 息せききった、松井の声が響く!

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