第7話 記者会見

       記者会見 



 その後は、テントを張り、二人もそこで着替え、寝袋も用意して、寝る準備も完了だ。

 しかし、アマンダは、これでも数百万人を束ねていたエルフの女王。それに市販のスウェットと寝袋って。罪悪感が半端ないな。


 ちなみに松井は、さっきから一人で、懐中電灯の明かりの元、通信機器みたいなものをセッティングしている。

 ふむ、衛星電話だと、盗聴される危険があるということか? 


 この人は、見た目は30台半ばで、短く刈り上げた頭髪。きちっと帽子を被り、まさに自衛官って印象だ。割とハンサムなので、奥さんとかも居そうだな。

 そして、そう考えると、俺達のせいで、こんな僻地に赴かされている事に、少し悪い気がする。

 まあ、最初、俺に乗ったのは本人の希望だったし、あまり気にしなくてもいいか?

 質(たち)の悪いドラゴンに関わってしまったと、諦めて貰おう。


「それで、シンさん、寝る前に、アマンダさんのインタビュー見るっすか? これ、松井さんが撮ってくれてたんすよ」

「お、それは見たいな。うん、松井さんも、ありがとうございます」


 俺が松井の方に振り返ると、彼も作業が一段落したのか、こっちに寄ってきた。


「はっ! 僭越ながら、私が撮影しました! メリュー王国の役に立てたなら、幸いです!」


 う~ん、やはり、こういうのはちと苦手かな。


「いや、松井さん、ここは俺達4人しか居ないんで、そういう堅苦しい言い方は止めて、普通にお願いしますよ」

「はっ! お心遣い、ありがとうございます! ですが、私は現在、任務中です! なので、それは無理です!」


 まあ、予想はしていたが、この人は、とことん真面目なようだ。


「なら仕方無いか。そして、アマンダもだ。俺とサヤは、もはや召喚者じゃない。なので、アマンダも普通に行こう。あ、今は、俺達がエルバイン女王陛下とお呼びしないといけないのか」

「この喋り方は、臣下に対してもですわ。それに、私共がお二人を召喚した事実は消えませんわ。でも、そうですわね、サヤさんは、サヤちゃんでいいかしら」

「あ、それ、いいっす! その呼び方でお願いするっす!」

「あははは、じゃあ、俺もこれからはサヤちゃんと呼ぶよ。じゃあ、アマンダさん、俺のこは、呼び捨てで頼むよ」


 ん? 二人は顎に手を当て、少し考えているようだ。


「ん~、シンさんには、今まで通り、サヤって、呼び捨てでお願いしたいっすね。シンさんにちゃん付けされると、妹扱いの気分っす!」

「そうですわね。でも、やっぱり、シンさんはシンさんですわ。そして、私も今まで通り、アマンダでお願いしますわ」

「う~ん、二人がそれでいいなら、そうするか。なんか悪いな」



 この話はここで終わり、俺は人間に擬態し、早速サヤに買って貰ったスウェットを着こみ、松井の撮った映像を見せて貰う。小さな画面なので、皆で覗き込む。


「これ、基地を出るところだよね?」

「そうっす。あまりにも周りが騒がしかったんで、アマンダさんが、それなら丁度いいって」


 映像は、大勢の隊員の護衛の元、サヤを前にして、二人が基地の門をくぐるところからだった。


「で、サヤが抱えている、空の段ボール箱は何だ?」

「見てれば分かるっす! 我ながら、完璧だったっす!」


 二人が出ると、一斉にフラッシュがたかれる!

 更に、皆が一斉に群がろうとする!

 アマンダは、取り囲まれた事くらいは何度もあるだろうが、フラッシュは経験ないはずだ! 完全に身構えてしまった!


「おい! これ、不味いだろ! アマンダの腕、光ってるし!」

「ええ、私も咄嗟にシールド系統の魔法を唱えようとしましたわ」


 しかし、そこで、サヤが大声を出した!

 ふむ、拡声のスキルか。


『フラッシュは禁止っす! それ以上近寄るのもダメっす! 従えない人は、強制排除するっす!』


 これにはその場に居た奴、全員驚いたようで、慌てて立ち止まり、耳を押さえる!

 そして、今度は普通の音量で、サヤが話す。


『アマンダさん、大丈夫っす。あれは危険なもんじゃないっすから。それで、皆さん、これから、メリュー王国女王、アマンダ・メリュー・エルバインから、報告があるっす! あ、また、フラッシュたいたっすね! ちょっと待つっす!』


 ん? 一瞬サヤが消えて、すぐに元の位置に現れた。

 しかし、サヤの抱えていた、先程までは空だった段ボール箱の中には、カメラが3つ入っている。

 ふむ、没収したと。


『今、フラッシュたいた人、これ終わったら返すっす。でも、今すぐ返して欲しかったら、1万円っす!』


 ぐはっ!

 しかし、これは効果的だな。そして、これが、さっきの現金獲得って奴か。

 何人かの、新聞社の記者だろう。腕章をつけた男達が、恥ずかしそうに、一万円札を持って前に進み出て来た。まあ、連中だって、それがなければ仕事にならないはずだからな。


『次はもう無いっすよ! はいっす!』


 サヤは、万札と引き換えに、カメラを返して行く。


『じゃ、エルバイン女王、お願いするっす』

『はい、お騒がせして、申し訳ありませんわ。でも、聞いて頂きたいですわ。私は、アマンダ・メリュー・エルバイン。この世界とは、別の世界から参りました。元メリュー王国の女王ですわ。そして、この世界に、メリュー王国の樹立を宣言しますわ!』


 どよめきと共に、数は少なかったが、またフラッシュがたかれる!

 ま、これはどうなるかは予想がつくな。案の定、サヤの段ボール箱には、再びカメラが3つ入っていた。ふむ、あの人達にとっては、もはや条件反射なのだろう。


 そして、一斉に質問が飛ぶ!


『エルバイン女王陛下、国家樹立って…』

『エルバインさん、あのドラゴンとの…』

『エルバイン女王、メリュー王国の場所は…』


 それをサヤが大声で、纏めて遮る!


『あ~、質問は当然っす! でも、聞きたければ、一つの質問につき、現金で100万っす! 嫌なら、答えないだけっす!』


 ぶはっ! 

うん、確かに資金はいくらあってもいい。これは、俺も見習う必要がありそうだ。

 しかも、これは、数を減らす為にもいい手だ。いちいち相手をしていたらきりがない。


 再びどよめきが起こり、すぐさま、何人かが引き返して行った。なるほど、キャッシュコーナーに金を下ろしに行ったと。

 うん、サヤの奴、完全に主導権を取ったな。もっとも、後ろに自衛隊員が控えているのも大きいだろう。


 そして、一人の男が、苦悶の表情を浮かべる連中に勝ち誇った顔を向けながら、サヤの前に進み出て来た。お、こいつ、即金で100万持ってたか。すげ~。


『ぼったくりもいいところだな! だが、こっちも仕事だ。ほれ、100万!』


 サヤは、その男が差し出した札束を、ぱらぱらとめくる。

 うん、サヤなら、100枚くらい、一瞬で確認できるはずだ。

 ここで、先程カメラを没収された男達も、ばつの悪そうな顔をして、1万円をサヤに差し出し、カメラを返して貰っていた。

 段ボール箱には、カメラの代りに、万札が投げ込まれる。


『毎度ありっす! じゃ、どうぞっす!』

『では。エルバイン女王、貴方は今、こことは別の世界から来たと仰いましたが、それはどのような世界で、どうやってこの世界に来られたのですか?』


 ふむ、もっともな質問だな。

 しかし、これにアマンダが答えようとすると、サヤが後ろ手で制する。


『今のは、二つの質問になるっす。どっちに答えればいいっすか?』


 ぐはっ!

 この記者じゃないが、本当にぼったくりだな!


『じゃ、じゃあ、どうやってこの世界に来たかで』

『はい、私共は、皆様も既にご存知の、あのドラゴン、シンさんの魔法で参りましたわ』


 また一斉にどよめきが起こる!

 流石にもうフラッシュは無くなったか。


『もうないっすか?』


 すると、また、札束を握りしめた、一人の記者が進み出る。


『魔法とは、どのようなものでしょうか? この世界には存在しませんので、詳しくお願いしたいです』

『申し訳ありませんわ。それにはお答えできませんわ。我が国の、最重要機密ですわ』

『そうらしいっす。じゃ、これ、返すっす』


 サヤが、渋々札束を返そうとすると、その男はそれを拒否して続ける。


『では、質問を替えます。あの、ドラゴン、シンさんと仰いましたよね。あれは、どういった存在なのですか? この世界には、あのような動物は居ませんので』

『そうですわね。シンさんは、最高位の召喚魔法によって、あの世界では、最強の種族、アークドラゴンに、この世界の人間の魂を宿された、史上最強の守護神ですわ。空を支配し、陸においても強大な力を誇り、魔法も使えます。当然、私共と同じ、人の意思を持ち、会話も可能ですわ』


 再びどよめきが起こり、次の記者が進み出る。


『○○新聞の××です。では、何故、この世界に来られたのですか?』

『あの世界が、魔族によって、滅ぼされてしまったからです。私共は、あの世界の最後の生き残り。もうあの世界では暮らしていけないと判断し、シンさんにお縋りしたのですわ』


 実質は、俺が強引に連れて来てしまったのだが。

 その後も、札束を持った人達が、代り代わりに質問していく。

 

『メリュー王国の場所は?』『東経144度、北緯33度の辺りですわ』

『そこには、島など無いはずですが?』『魔法で作りましたわ』

『シンさんは、今、何処に?』『メリュー王国です』

『日本と国交を結ぶおつもりは?』『是非お願いしたいですわ』

『アメリカとか、他の国とは?』『我が国を国家と認めて下されば、可能ですわね』

『シンさんが、中国軍機を拿捕したというのは?』『答えられません』

『いつ、此処に戻って来たのですか?』『答えられません』


 後は、くだらない質問ばかりだ。


『女王陛下は独身ですか?』『未婚です』

『好きな人はいらっしゃいますか?』『メリュー王国の国民ですわ。今は、シンさんとサヤさんですわ』

『おいくつですか?』『死にたいようですわね』

『芸能界へのデビューは?』『考えていませんわ』


 こんな質問に100万の価値、あるのか?

 他にもいくつかあったが、まあ、こんなところだろう。



「うん、アマンダもお疲れ様。魔法関連のことを伏せたのは、いい判断だと思う。本当に苦労をかけて済まない。サヤも流石だったな」

「でも、これで大丈夫っすかね? 日本はうちを認めてくれるっすかね?」

「う~ん、どうだろう? だが、今の所は、サヤのおかげで資金も出来たし、何とかなるだろう」


 ん? 松井が何かあるようだ。

 さっきまでは、少し離れて無線機をいじっていたのだが、こちらに近づいて来る。


「あ、松井さん、良く撮れてますね。助かりましたよ」

「はっ! 恐縮です! 明日、宜しければ、また新藤首相補佐官が、話があるそうです!」

「承知しましたわ。それでしたら、明日、晩にでもお伺いするとお伝え下さい。あ、どちらに行けば宜しいのでしょう?」

「いえ、既に、護衛艦にてこちらに向かっているそうです。明日の昼には着くそうです」


 ふむ、行動が早いな。

 まあ、あの男ならばとも思う。目的は、当然、この島を直接確認することと、国家承認とか、同盟とかの交渉だな。そして、彼もうちの窓口にさせられたと見ていいだろう。


「承知しましたわ。では、お待ちしていると、お伝え下さい」

「はっ! そのように伝えます!」

「ところで、松井さん、少し宜しいでしょうか? この世界のパワーバランスを知っておきたいですわ」


 ふむ、明日に備えてという事か。流石はアマンダだな。

 日本と、それを取り巻く国家の関係を知っておかねば、頓珍漢なことになりかねない。


「はっ! 私の知っている範囲で宜しければ、喜んで! 池上からも、何でも教えて差し上げるよう、命令されております! では、こちらに来てください」


 松井は、無線機のところに戻り、それに接続されたディスプレイを表示させる。


「これが、この世界の地図です。そして、この赤く表示された部分が日本。今の場所は………」


 彼は、丁寧に教えてくれる。

 ふむ、俺が死んだ時と、大差ないようだ。俺もまだ大学生だったので、それ程政治とかには興味なかったが、ある程度はニュースとかで知っている。

 なるほど。軍事衝突には至っていないものの、中国とアメリカの関係悪化が表面化。また、日本と韓国の関係もかなり悪化と。

 これはあまり良くないな。米中の覇権争いに巻き込まれる可能性が高い。


「大変感謝致しますわ。そして、今日はもう遅いようですし、休みましょう。また教えて下さいね」

「はっ! きょ、恐縮です! で、では、お休みなさい!」


 アマンダが松井に軽く頭を下げ、にっこり微笑むと、彼は明らかに赤面していた。

 ま、これは仕方あえるまい。

 ちなみに、サヤは俺にもたれて、既に爆睡している。うん、もう寝よう。

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