第6話 メリュー王国樹立
メリュー王国樹立
松井の指定した海域には、十分程で着いた。
「ファーサイト! シースルー! あ~、あそこっすね。結構広い、台地になってるっす」
早速サヤが、遠視と透視の魔法を使って確認してくれる。
「はっ! 通信では、深度32メートルから65メートル、半径5キロくらいとのことです!」
「ふむ、それだけの広さがあれば、周囲の岩石を集める方法でも、それなりの土地を作れるんじゃないか?」
「そうですわね。では、シンさん、高度を下げて下さい」
「分かった!」
サヤの誘導の元、海面すれすれを、ゆっくりと旋回する。
「じゃあ、行きますわね! シースルー! そして、ブルドーズ!」
俺の真下で、海面にさざ波が立ち、みるみる岩が出現していく!
旋回を一周終えると、綺麗に、半径数キロほどの、環礁が出来上がった!
振り返ると、松井が目を白黒させている。
まあ、この人は魔法なんて初めてだし、仕方あるまい。
「よし! もう数周するぞ! あれの高さを、最低20mくらいにしよう。それなら台風が来ても大丈夫だろう」
「かしこまりましたわ! ブルドーズ!」
その後、順調に島は出来上がっていき、日が暮れる前には、中心部分も盛り上げて、俺が寝られるくらいのスペース、半径20m程だが確保できたので、そこに着陸する。
もっとも、その頃には、野次馬が上空にひしめきあっていたが。
「しかし、アマンダの魔法は凄いな~。俺も、半日でここまで出来るとは思っていなかったよ」
「い、いえ、これはシンさんの魔力もお借りしているのですわ。そ、その、信頼度が高い者同士が触れていると、魔力を共有できるのですわ」
あ~、道理でさっきから少し気怠い訳だ。
「よし、じゃあ、今日はここまでだ。後は明日やろう」
「そうっすね。あたいも腹減ったっす!」
しかし、ここで松井が何かあるようだ。
何やら衛星電話で会話した後、こちらを向く。
「お疲れ様です! 帰って食事を摂って頂きたいのですが、絶対にここを離れてはいけないとのことです!」
あ~、これは分かる。
ここを離れたが最期、他国に上陸されようものなら、その場で領有権を主張されてしまう。
事実、上空にはヘリまで来ている。
今の所、ヘリはアメリカと日本だけだが、そのうち、中国とかロシアとかも来るだろう。
「ふむ。なら、俺がここに残るから、サヤとアマンダは、伊丹にでもテレポートしたらどうだ? あ、俺の分も持って帰って欲しいけど」
「そうっすね。でも、あたいのアイテムボックスにも、まだ食料は残ってるっすよ? パイソントード3匹と、パワーラビット2匹、それと野菜が少々ってところっすけど」
「う~ん、それは、なるべくなら取って置きたいな~。アイテムボックスの中なら腐らないし」
「そ、そうですわね。そして、もう限界ですわ! サヤさん、伊丹に飛びますわよ!」
見ると、アマンダが股間に手を当てて、もじもじしている。
あ~、そういう事ね。
「なら、さっさと行ってくれ! あ、ついでに松井さんも返してあげて」
「承知しましたわ! テレポート!」
アマンダは、サヤと、俺達の会話についていけずにおろおろしている松井の手を強引に握り、即座に消えた。
彼女達を待っていると、早速アメリカのヘリが近づいて来た。
俺が軽く上空に向けて火を吐いてやると、慌てて引き返す。
う~ん、なんか、巣を守っている鳥の気分だな。
(シンさん、サヤっす! 済まないっす! もう少し時間がかかりそうっす!)
頭の中に直接声が響く。
ふむ、テレポンの魔法か。こういう時は、本当に重宝するな。
もっとも、ある程度親しい人同士でないと使えないが。
(あ~、急がなくていいぞ。そして、今晩はそこで泊めて貰え。ここじゃ、満足に寝られないだろ)
(いや、そんな事より、基地に帰ると、周り中、マスコミだらけだったっす! なんで、アマンダさんが、そこで、正式に国家樹立を宣言したっす!)
(お~! 流石はアマンダだ! これで、先ずは一安心だな!)
(はいっす! おまけに、現金も獲得できたっす!)
(ん? 日本が金を出す理由が分からないぞ? 大っぴらには支援したくないはずだ)
そう、池上も、援助は厳しいような事を言っていた。
(あ、そこ、近寄り過ぎっす! とにかく、詳しい事は帰ってからっす! 寿司でも買って帰るっす!)
ふむ、なんか良く分らんが、取込み中のようだ。
なので、通話を終了させ、のんびりとしていると、上空に貼り付いていたヘリや飛行機が、皆、一斉に引き返して行く。
なるほど、早速報道されたと。おそらく、生中継されているはずだ。
なので、このメリュー王国の領空から出て行ったと判断していいか。
うん、あの偵察機の件だって、当然知っていると見ていい。
捕まえられたら敵わないってところだろう。
もっとも、離れただけで、依然として見張っているはずだが。
完全に日も暮れ、星明かりの中、暫く待っていると、彼女達が帰ってきた。
相変わらず、松井も一緒だ。
話を聞くと、メリュー王国への特派員だそうだ。大きなリュックを背負っているので、暫くここに留まるつもりだろう。
少し鬱陶しくもあるが、この人が居るだけで、日本との連絡が出来るので、ある意味感謝だな。
そして、あのテレポートに関しては、基地内も騒然となったらしいが、これが魔法だとだけ説明して、強引に納得させてしまったようだ。
「あと、これ買って来たっす! あの後、すぐにショッピングモールに案内して貰ったっす。マスコミまでついて来て、かなりうざかったっすけど」
サヤが、虚空に手を突っ込み、アイテムボックスから商品を並べて行く。
寝袋とテントと大型の懐中電灯。 ふむ、これは使えるな。懐中電灯は早速つけた。
水着と花火。 こいつは何を考えているんだか。それに、もう10月だぞ?
スウェット上下、数着。 うん、これは後で着替えるといいだろう。俺の分もあるし。
下着上下、いっぱい。 これは、速攻でアマンダが隠した。
工事現場とかで見かける、簡易トイレ。 そんなもの、よく売ってたな~。
「後はこれっす!」
「ん? スマホか。ここじゃ圏外だろ!」
「いや、これは池上さんからっす。通信機能として使うんじゃくて、録画したり、見たりするのに便利だろって。携帯用充電器もくれて、既に、アマンダさんの会見の様子も入ってるっす!」
なるほど。確かにそれは便利だ。これから、他国との交渉とかもあるだろう。その様子を、証拠として録れる訳だ。
「明らかに不要そうなものもあるけど、いい感じだ。うん、ご苦労様。足りない物は、また買いに行けばいいだろう。アマンダもお疲れ様。うん、本当にありがとう!」
そう、彼女達だけでこの世界で暮らすのならば、こんな面倒は必要ないのである。池上の言う通り、暫くは自衛隊に匿って貰えばいい。
ここまでしたのは、全て俺の為だ。
そう思うと、胸が熱い。
軽くはにかんでいる二人を、抱きしめてあげたいのだが、今の俺には不可能だ。
「それで、ちゃんと食べて来たか?」
すると、二人が顔を見合わせる。
あ~、これ、読めたわ~。
「お~い」
「あ、えっと、ラーメンと餃子というものを頂きましたわ。お、美味しかったですわ」
「で? 俺の分は? アイテムボックスでなら、伸びないよね~」
「あ、明日の朝食用の、サンドイッチならあるっす! 池上さんの差し入れっすけど」
「あ~もういい。パイソントード、一匹くれ」
俺は、慌ててサヤが出した1m程の蛙を、丸ごと頬張った。
ラーメンか~、食いたかったな~……。
俺の感謝の気持ちを返せ!
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