第5話 首相補佐官

       首相補佐官



 現在、俺は人型に擬態し、演習場のテントで、三人の男と対峙している。

 メリュー王国側は、真ん中にアマンダが座り、両脇に俺とサヤだ。


 テントの外は、ハチの巣をつついたような騒ぎになっているが、やり方は俺に任せると了承した以上、俺が責任を感じる必要はあるまい。外務大臣辺りは、真っ青になっているだろうが。


 右端に座っている男は、新藤といい、国会議員で、首相の補佐官らしい。見た感じは、40歳くらい。髪をオールバックにし、角ばった眼鏡をかけ、何とも理知的な印象の人だ。

 そして、その左隣り、真ん中には、金倉。この人は、如何にも政治家って感じ。太った巨体に、すだれ頭、防衛大臣とのことだ。

 左端の男は、先程の恵南。帽子を脱ぐと、見事なスキンヘッドなのだが、目付きはとても穏やかなので、温和そうなイメージの人だ。しかし、こいつの先程の行動からは、中身はそうでないことは、証明済みである。



「これでシンさんの力は証明できたと思いますが、そちらの感想を聞かせて頂きたいですわ」


 アマンダは目つきを鋭くし、完全に、公的な場所での女王様モードだ。

 すると、金倉がにやにやしながら答える。


「あ~、感想って言われてもね~。確かに凄い能力なのは認めるよ。そんなことより、女王さん、あんた、この日本で、儂の秘書にならんか? あんたとなら、儂の士気も上がりそうだ」


 あ~、こいつはダメだな。

 何でこんなのが国会議員、しかも大臣って。日本、大丈夫か?

 うん、こいつは相手にする必要無しと。


「大臣! その発言は失礼ですよ! 取り消して下さい! そ、その、す、済みません…」


 慌てて新藤がとりなそうとするが、お灸だけは据えておこう。


「金倉さん、俺が怒ったら、この擬態が解けてしまう。そうなりゃ、あんたは、俺の下敷きだ。不慮の事故って奴か?」

「え…、い、いや、儂は……。そんな事より貴様! この儂を恐喝するつもりか?! しかも、あんた呼ばわりって……」

「ただの、事実っすね。それより、あんたが先にアマンダさんに対して言ったっすよね~」


 金倉は開き直ったようだが、速攻でサヤに突っ込まれる。

 当然、俺もサヤも、こいつを、今ここでどうこうするつもり等ない。

 俺達が本気で怒ったら、この一帯に生者は存在できない。


「そうですわね。では、チェンジで」


 アマンダが毅然と言い放つ。

 ふむ、俺としては黙らせたかっただけなのだが、この方が正解か?


 金倉は顔を真っ赤にして、口をぱくぱくさせ、更に何か言いかけたが、何と、隣の新藤が、片手で金倉の頭を鷲掴みにし、テーブルに打ちつけやがった!

 そして、彼もテーブルに額をつける!


「本当に申し訳ありません! ええ、大臣は退場させます! そして~、『あんた~』、もう終わっちゃいましたね~。首相にも~、報告しちゃうんで~、そのつもりで~♡」


 ぬお?!

 こ、この人、怖いわ~!

 このドラゴンに転移させられてから、人間に恐怖を感じたのは、多分これで二度目だな。ちなみに、一度目はアマンダである。


 そして、どうやらこの新藤の方が、実質はこの大臣よりも力があるようだ。

 更に、恵南も引導を渡す。


「おい、そこの誰か、金倉大臣を送って差し上げてくれ。いや、本当に済みませんな~」


 俺達が呆気に取られる中、背後で見守っていた隊員が駆け寄ってきて、読み取れなくなったバーコード、もとい、金倉を連行していく。


「大変失礼しました。では、続けましょうか」


 新藤は眼鏡を軽く持ち上げ、俺達を見回した。



 邪魔者が消えたので、会談はかなりスムーズに行われた。

 新藤は、俺達の目的、メリュー王国再興に、理解を示してくれる。


「そうですね~、国連が認めない可能性は高いですが、理論的には可能でしょう。実際、シーランド公国のような例もあります。何処も国家とは認めていませんがね。また、200海里のこともあって、せっかく作った領土の領有権を、力ずくで主張してくる国が出る事も考えられますが、メリュー王国の場合、充分な防衛力を有していると言えるでしょう」


 更に恵南が補足してくれる。


「うん、様々なデータから、先程のシンさんの最高飛行速度は、マッハ4.9。秒速約1.7キロでした。これに追いつける軍用機は現在ないし、一般的な対空ミサイルよりも速い。まあ、弾道ミサイルとかはマッハ15以上、秒速6キロとか出ますがね。そして、あの炎の温度は2000度以上に達する事も分かりました。あれ喰らったら、大抵の物は溶けますな~。あの一帯も、ガラス化してましたぞ」


 ふむ、俺、意外と早かったな。

 あれくらいなら、マッハ3程度だと思ってた。

 火力に関しては、そんなとこだろうと思ってたが。


 そして、新藤が話を戻す。


「ただ、先程も少し触れましたが、国家とは、他国が認めて、初めて国家と呼べるでしょう。なので、いくら宣言しても、普通は何処も相手にしてくれません」

「ですが、私共、メリュー王国は、認められなくても構いませんわ。私達三人が暮らせれば、それでいいのですわ」


 うん、アマンダの言う事はもっともだ。

 俺も、今はそれでいいと思う。


 だが、新藤は違うようだ。


「いえ、そちらは良くても、こっちが困るのですよ。メリュー王国は、我が国に対し、同盟を求めています。ですが、認められていない国とは、取引すら厳しいですし、同盟など論外です。そして、現状、日本としては、貴方方に国外退去を命じることが可能です」

「では、日本国が認めて下されば、問題ありませんわね?」

「はい。ですが、それも領土が無ければ話になりません。なので、何でもいいです。先に島を作って下さい。全ての交渉はその後です。それも、早ければ早い方がいいですね」


 なるほど、さっさと既成事実を作れと。

 しかも、周りの国に茶々を入れられる前にという事か!


 新藤は更に続ける。


「確か、公海上、八丈島の東、東経144度、北緯33度くらいですかね? そこに、火山島の出来損ないがありましたね~。そして、先程の中国軍機を拿捕してくださった謝礼も、そこからです! もっとも~、首相の心労は~、かな~りなんで~、微妙なとこなのですけど~。恵南さんも~、覚悟しちゃってくださいね~♡」


 ぶはっ!

 やはり、あれはやり過ぎと。ま、相手が中国だったなら納得だ。

 恵南も横で顔を逸らしている。


 ふむ、だがこの新藤という男、キレ方はともかく、頭もキレるようだし、どうやらこちらに対して好意的なようだ。でなければ、俺達が宣言してから、僅か2時間程で、場所まで調べてくれたりはしないはずだ。

 もっとも、これも彼の独断ではないはずだ。ならば、首相の判断か?


「感謝いたしますわ! では、シンさん、サヤさん、早速ですわ!」



 俺達はその後、即座に飛ぶ!


「で、何で松井さんもですか?」

「いや、このナビと衛星電話を貸す代わりに、この人も連れて行って欲しいって、お願いされたっす。あたいじゃ、このナビ使いこなせないっすから、丁度良かったっす!」

「はっ! 私は、最後までご同行させて頂きたいです! で、ですが、安全速度でお願いしたいです! あ、もう少し右です!」


 ふむ、お目付け役に抜擢されたってところか?

 ま、この人なら自衛隊とも連絡が取れるし、サヤじゃないが、丁度いいか。

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