第4話 ドラゴンの力
ドラゴンの力
俺は、建物の外に出ると、すぐに服を脱ぎ、ドラゴンに戻る。
すると、背後から声がかかった!
「ちょっと、今からでは無理です! 特に準備もしていません!」
振り返ると、松井だ。
それに、アマンダが毅然と答える。
「別に、私共は、勝手に行動しているだけですわ。そちらの都合は聞いていません。そして、どうやってシンさんの力を見るのかも、そちらの勝手ですわ。知りたければお見せする。それだけですわ」
「わ、分かりました! なら、私を同行させて下さい! さっき、一人までなら許可するって言いましたよね!」
ふむ、この松井って男も凄いな。この感じだと、独断だろう。
なら、応えてやるか。
「じゃあ、10分だけ待ちます。計測機器とかも必要でしょう。但し、貴方の命の保証はできませんし、何かあった場合、責任も取りません。それでもいいですか?」
「構いません! そして、ありがとうございます!」
松井は、建物の中に、マッハで引き返して行く!
「なら、サヤ、ハーネスを出してくれ。少し本気を出す。お前だけなら必要無いけど、アマンダと松井さんが心配だ」
「了解っす!」
サヤに、輪っかになった、極太のベルトを首に回して貰っていると、建物から松井が転がり出て来た。
ふむ、フルフェイスの、戦闘機用のパイロットスーツを着て来たようだ。
そして、ディスプレイのついた、辞書くらいの箱を抱えている。
なるほど、多分だが、カーナビみたいなものだろう。流石に航空機用の速度計とか、そうそう用意できないだろうしな。
うん、丁度いい。俺も、方角とかはイマイチだ。まあ、高高度から富士山目指せばいいのだが、その高度じゃ松井が死ぬしな。
俺は翼を地面に着け、身体を低くしてやる。
「じゃあ、乗ってくれ。サヤはアマンダを頼む。アマンダは重力障壁を。松井さんは、演習場の方角をお願いします。後、ハーネスに、その腰のフックを引っかけて、しっかり握っていて下さいよ」
「了解っす!」
「かしこまりましたわ」
「はっ!」
俺は、翼を広げて、軽く舞い上がる!
振り返ると、サヤがアマンダを背後からしっかりと支え、その後ろに、ハーネスに背中を預けた松井が見える。うん、しっかりと握っているな。
「じゃあ、松井さん、方角お願いします」
「はっ! まずはこのままの方角でお願いします!」
「グラビティーバリア!」
うん、アマンダも魔法を唱えたな。彼女の魔力なら、松井もカバーできているはずだ。
俺が飛ぶ時、俺の周りには、一種のフィールドが張られるが、それでも、乗っている奴にはとんでもないGがかかっているはずだ。アマンダの魔法が無ければ、常人に耐えられるとは思えない。
俺が高度を上げていく途中、背後では松井の指示の元、サヤがハーネスを引いて、細かな修正をしてくれる。
周りを見ると、丸みを帯びた地平線。地球の丸さが感じられる。
「じゃあ、行くぞ!」
俺は一気に加速する!
「サヤ! 後ろ大丈夫か?!」
「大丈夫みたいっすね。アマンダさんの魔法のおかげっすけど」
「ええ、問題ありませんわ」
「だ、大丈夫です!」
「そか、じゃ、少し本気出すぞ」
俺は更に加速する!
視界がどんどん狭まり、眼下の景色が矢のように流れて行く。
「お、もう着いたようだ。富士山の真横だ。ここらでいいのかな?」
「はっ! 下のヘリについて行って欲しいとのことです!」
見ると、真下に日の丸をつけたヘリが、2機飛んでいる。
途中、何機か戦闘機らしきものを追い抜いたが、あれも自衛隊のスクランブルだろう。
うん、今や、日本中のレーダーで俺を追いかけているはずだ。
ヘリについて高度を落としていくと、地上にいくつかの点が見える。
ふむ、射的のようだ。
「あの的、燃やしていいですかね?」
「え? ちょっと待って下さい! え、あ、いいようです!」
「なら、これも軽めで。ファイアブレス!」
俺は、並んでいる的に、火炎放射器よろしく、幅5mくらいの炎の帯で焼き払っていく!
うん、これは罪悪感が無くていい!
いくら仕方が無いとはいえ、人を燃やすのは、本当に嫌だった。
沢山人が集まっているところに、俺は着地し、一旦全員を降ろす。
すると、池上と似たような制服に身を包んだ、一人の男が駆け寄って来た。
「お疲れ様ですな。私は陸上自衛隊開発実験団長、陸将補、恵南(えなみ)と申します」
「あ、初めまして。メリュー王国のシンです。いきなりで済みませんね」
「いえ、池上から話は聞いております。それで、貴方のお披露目は、以上でいいのですかな?」
ん? この男も、かなり肝が据わっているな。普通、俺を見たら、大抵引くぞ?
しかも、目が笑ってやがる!
そして、そういうことか。
「そうですね~。ですが、メリューとしては、知られ過ぎるのも少し嫌ですかね。なので、後一度だけ。核ミサイル以外なら、何でも付き合いますよ」
「そ、そうですか。では、あの玩具と遊んで頂くというのはどうですかな?」
その男が指さした先には、四角い筒を束ねた車両があった。
ふむ、対空ミサイルか?
「それは構いませんが、あれ、高いんじゃないですか?」
「ま、まあ、それは貴方が気にする必要もないでしょう。それと、この後のご予定は?」
「いえ、特に考えてませんね」
「それは良いですな。では、先ずは遊んで頂くということで」
「分かりました」
俺は地面を蹴り、一気に舞い上がる!
富士山の3合目あたりの高さで、下を見ると、あの筒が火を噴いた!
ぬお? あの男も全く遠慮が無いな。普通、撃つ時に合図くらいするだろ!
そして、あの感じなら、確かに早いが軽く避けられそうだ。
だが、避けた結果、変なところに落ちても困るか?
「なら、迎撃するか。これでいけるだろ。ソニックブレス!」
俺は大きく口を開け、息を震わせる!
「ふむ、思ったよりもちょろかったな。もう少し接近されると思ったのだが」
ミサイルは俺の手前、100mくらいのところで爆発した。
俺はすぐさま地上に急降下する!
うん、これ以上飛んでいると、あいつ、また撃って来そうだしな。
そして、あいつじゃないが、俺のお披露目もこれで充分なはずだ。
地上に降りると、すぐに二人が駆け寄って来るかと思いきや、サヤとアマンダと恵南で何やら話し込んでいる。
「アマンダ、この後の予定の話か?」
「あ、シンさん、お疲れ様ですわ。それもですが、この方が、後一度だけと言い出しまして……」
「まあ、それくらい構わないけど、もう、ミサイルが俺に通用しない事は、証明できたのでは?」
すると、恵南が一歩前に出る。
「はい、お疲れ様ですな。いえ、ここからだと見えんが、この上空、1万メートルくらいのところに、他国の偵察機が侵入しましてな」
「なるほど、早速ギャラリーがついてくれたと」
「そのようで。それで、当然、追い払おうとしたのですが、『故障して思うように飛べない』の一点張りでしてな」
あ~、こいつの言いたい事が分かった。
俺の力で追い払ってくれと。
日本だって、ここまで領空侵犯されたら、面子丸潰れだろう。
だが、追い払うにしても、その言い訳をするなら、少々厳しいか?
まあ、何とかなるか。
「分かりました」
「お~! やって下さると!」
「ですが、やり方は俺に任せて貰いますよ。そして、只では嫌ですね。まあ、金額の交渉は、終わってからで。それでいいですか?」
「も、勿論です! で、では宜しくお願いします! そして、これをどうぞ」
ふむ、トランシーバー? 無線機のようだ。
「じゃあ、サヤ、そいつを頼む。この身体じゃ使えそうもない」
「了解っす!」
サヤを乗せて飛び立つと、早速通信が入ったようだ。
「あいつらしいっす。左右の2機は、自衛隊の戦闘機っす」
「うん、確認した。結構でかいな」
よく見ると、普通のジェット旅客機のような感じだが、そのクリーム色の機体には、何のカラーリングもされておらず、国旗とかもつけていない。大きさは俺の倍、40mくらいか?
そして、その横に、日の丸をつけた、F15って奴か? 写真で見たことのある戦闘機が並走していた。
「サヤ、無線で自衛隊機を下がらせろ。邪魔だ」
「はいっす」
近づいていくと、すぐに自衛隊機は左右に旋回して、離脱したようだ。
そして、残された奴は、高度を上げて行く。
「ふむ、俺の高度限界を知りたいようだ」
「そうみたいっすね。で、どうするつもりっすか?」
「そうだな~。サヤに乗り込んで貰って制圧してもいいけど、それだと人が死にそうだ。なら、捕まえるか? うん、あいつ、故障しているんだから、助けてやらないといけないよな。じゃ、そう伝えておいてくれ」
「あははは。了解っす~」
俺は、一気に加速上昇し、そいつの上を取る!
慌てて旋回しようとするが、遅いな!
そっと両脇から、翼の付け根を抱きかかえてやる。
フラップをぱたぱたさせているが、俺の態勢は、それくらいじゃびくともしない。
そのまま、徐々に速度を落とし、高度も落とす。
コクピットを覗き込むと、中で何やら怒鳴っているようだが、知るか!
演習場のど真ん中に軟着陸させると、大歓声と共に、一斉に人が群がった!
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