第3話 行き場のないドラゴン

       行き場のないドラゴン



 ん? なんか胸の辺りがもこもこする。

 見ると、俺の脇の下で、毛布にくるまったアマンダが丸くなっていた。

 まあ、故郷は滅び、異世界に飛ばされ、俺とサヤしか頼る者も居らず、不安だったのだろう。

 俺だって、最初はそんなもんだった。


 そして、サヤはいつも通りと。

 俺の背中で、俺の首に手を回して寝てやがる。

 こいつの場合は、下手するとマジで首が締まるので、こっちが不安だ。


 そして、ハンガーのシャッターの隙間からは、陽の光りが差し込んでいた。

 ちなみに、その前に二人で立たされている見張りからは、なんとも憎しみの籠った視線を感じる。まあ、原因は俺で間違いなかろう。

 この状況、ドラゴンの分際で、二人の女性を独占してるとしか見えない筈だ。


 もっとも、俺にその気は無い。当然二人共好きだが、その手の事は不可能だ。

 それにアマンダはああ見えて30歳。俺は魂年齢で22歳。サヤは17歳。年齢的にも少し厳しいだろう。


 ん? 俺が首をもたげると、サヤを起こしてしまったようだ。


「ん~、シンさんおはよ~っす。もう朝っすか~?」

「うん、そのようだ。で、俺の首に着いたよだれ、拭いてくれると嬉しいんだけど」

「りょ~か~いっす」

「あ~、こら、舐めるな!」


 まあ、こいつの寝起きの悪さは、今に始まったことじゃないか。

 こいつが召喚された時から、ずっと俺が一緒だったので、こいつの事なら大抵は知っている。


「あら? もう朝ですの?」

「あ、今のでアマンダも起こしてしまったか。悪いな」

「い、いえ、そんな事…、あ、私とした事が、こんなはしたない…」


 アマンダは少し俯き、顔を真っ赤にして、毛布を抱える。

 おわ、この表情はかなりそそられる!

 俺がもし人間形態だったら、魔法が解けていたな。


「あ~、俺は気にしないけど、あの人達の事は気にしてやって欲しいかな? 今、憎しみから、殺気に変わったぞ」

「え? 見られていたのですか?」

「いや、あれはハンガーに入ってからずっとだぞ? 貴女だって……」


 アマンダはいきなり立ち上がり、見張りの隊員達を睨みつける!

 あ、これはヤバいかも。


「そうですか。貴方方、見たのですわね?」

「ま、まあそれが仕事ですから」


 慌てて一人が釈明する。


「では忘れて下さい。さもなければ……」


 げ! アマンダの右手が真っ白に光っている!


「おい、止めろ! あなた達も、ここであった事は、全て忘れる。うん、死にたくなければな!」

「「は、はいっ!」」


 そう、アマンダは、魔法の得意なエルフ族の女王を張っていただけあって、彼女の魔力は召喚者並み。サヤ以上だ! 

 もっとも、サヤはそれ程魔法は得意ではなく、その代わりに身体能力に長けている。まあ、ドラゴンである、俺が鍛えた結果ではあるが。



「ところで、今、何時ですか? 後、今日の予定とか聞いてます?」


 俺は、青ざめている見張りに尋ねる。


「はっ! 現在は、マルナナマルハチ! 宜しければ、今から食事をお持ちします! 好み等、教えて頂ければ、幸いです! 今日の予定は聞いておりません! 食後、隊長自ら、こちらに伺うとのことです!」


 あ~、完全に怯えてしまったな。これじゃ上官扱いだ。

 まあ、俺はドラゴンだし、腕が真っ白に光る人間なんて、まず居ないからな。


「う~ん、食事はこの世界の…、そう、貴方達と一緒でいいです。出来れば、俺は5人前、サヤは3人前、女王は2人前お願いします」

「はっ!」


 一人がダッシュで飛びだして行く。

 3人で都合10人前。うん、俺達は燃費が悪い。


 待っている間、俺は残った隊員に、この世界での俺の死後、約3年間の事を訊いてみる。

 ふむ、去年、天皇が譲位し、年号が変わったのと、大規模な放火事件。後は、今年、東京オリンピックがあったくらいか。

 放火に関しては、俺も気をつけないといけないな。俺の火力は、ゴ○ラといい勝負だろう。


 食事が来たので、俺はサヤを振り落とし、人間形態になる。

 ドラゴンのままだと、食べた気がしないのだ。


 ふむ、ご飯に味噌汁、きのことコンニャクの炒め物に、焼き魚と漬物。それに、納豆と。味は、美味くも無く、不味くも無く。税金を払っていない身分なので、感謝こそすれ、文句は言えまい。

 アマンダが心配だったが、納豆も食べてくれていたので、問題なかろう。箸を使うのに苦労していたくらいか?



 食事を食べ終わると、池上と松井が来た。

 色々決まったようだが、先ずは俺達の話を聞きたいそうなので、またあの会議室に行き、詳しく話す。


「う~ん、エルバイン女王には、何とも同情しますね~。そして、エルバイン女王と、サヤ君に関しては、こちらで生活基盤が出来るまでは、うちで保護しよう。日本国籍も大丈夫だ。しかし、シン君に関しては、まだ結論が出ていない。これは、上が、君の能力を下手に知ってしまうと、こちらにもリスクが生じるという判断に至ったからだ。また、簡単に君を見捨てる事もできない。意味は分かるよね?」


 あ~、そらそうだろうな。

 俺の能力、特に飛行速度なんか、極秘に調べるのは不可能に近いだろう。

 また、俺の力が強いと判明すれば、近隣国家の反応が怖い。

 国会でも、左寄りの政党なんかは、何を言い出すか分かったものじゃない。


 かと言って、俺が他所の国に行き、そこで俺の能力が判明した場合は、それはそれで面倒な事になる。今度は、せっかく日本に舞い込んだ戦力、何故見捨てたって事になる。


 結果、誰にも迷惑をかけず、円満解決する手段は無さそうだ。

 なら、いっそのこと、俺の自由にするのがいいか?


 そこで俺は閃いた。

 うん、これならいいのではなかろうか?


「分かりました。本当にご迷惑おかけしてます。そうですね。少し、俺達だけにしてくれませんか?」

「うんうん、私も厳しい事を言って申し訳ない。しかし、君なら、君の現状を理解してくれると思って、正直に話しているつもりだ。じゃあ、私達は席を外そう。終わったら、そこのボタンを押してくれ。私が言うのもなんだけど、盗聴とかの心配はしなくていいから」



 俺は、まず二人に頭を下げる。


「聞いてのとおり、俺はこの世界、特にこの日本では厄介者のようだ。なので、俺はこの国を出て行きたい。サヤ、アマンダ、今まで本当にありがとう」

「あたい、最初に言ったすよね。何処までもついていくって」

「それは私も一緒ですわ!」

「うん、気持ちは嬉しい。だけど、俺は、その…、ドラゴンだ。もし、俺が普通の人間なら、俺は二人共好きだし、そういう関係になる事も可能だっただろう。だが、現状それは不可能だ。それでもいいのか?」

「構わないっす!」

「ええ、私もですわ!」


 二人は、はっきりと俺を見据えながら、答えてくれた。


「なら、提案だ……」


 俺は、閃いた事を説明する。

 二人は最初驚いたが、すぐに理解してくれた。

 特にアマンダは、俺の提案を更に発展させる。


「よし、じゃあ、呼ぶぞ。アマンダ、交渉は任せたよ」

「ええ、こういう時こそ、私を頼って欲しいですわ」


 サヤがコールボタンを押した。



「先ず、池上さん、私はこれでもメリューの女王ですわ」

「はい、それは聞いていますけどね~。でも、こういっては何ですが、証明するものがありませんけどね~」

「ええ、ですから、今から証明するのですわ。私は、この世界に、メリュー王国の設立を宣言しますわ!」

「え? それは…、いや、貴女がそうしたいと言っても、国家ですよ? 領土はどうするんですか?! この日本の土地で独立するなら、日本が認める訳が無い!」


 ふむ、やはり池上もかなり驚いたようだ。

 今までは飄々とした物言いだったのに、口調が変化している。


「土地は要りませんわ。シンさんに聞きましたわ。この世界には、何処の国家にも所属していない、公海というエリアがありますわよね」

「そ、それは、ありますけど、どんな小さな島、岩礁に至るまで、必ずどこかの国の領土です!」

「ええ、なので、私共で島を作りますわ。私共の力なら、シンさんが住めるくらいの島、3日もあればできますわ」


 うん、これは事実だ。彼女の魔法で土地を盛り上げれば、簡単に出来る。土地の整備も、俺とサヤで何とでもなる。もっとも、それなりに浅い海域でなければ難しいが。


「い、いや、ちょっと待って下さい! そ、そんな事勝手にされたら、日本の立場がって、あれ? 確かに、日本が何の援助もしなければ、何の問題も無いですね~。しかも、厄介払い、いや、今の状況も全て解決です! ですが、たった三人で、どうやって生きていくつもりですか? 確かに土地さえあれば、食料の自給もできるようになるでしょう。ですが、それには元手が必要ですよ? ライフラインも、そう簡単に出来るとは思えませんね~」


当然の疑問だ。そして、ここまでは俺の案だったが、ここからは、アマンダの案になる。


「ええ、そうですわね。確かに私共三人だけでは、時間もかかるでしょうし、資材を買う元手もありませんわ。なので、稼げばいいのですわ。メリュー王国が提供するのは軍事力。我が国と同盟を結ぶ国には、資金と引き換えに、それを提供しますわ」


 そう、少し違うが、ぶっちゃけ、傭兵みたいなものだ。


「し、しかし、その軍事力って、それがまだ不明なんですけどね~」

「ええ、なので、今からお見せしますわ。今なら、日本には、最前列で我が国の力をお見せできますわね。その、富士山でしたっけ? 早速、参りましょう。宜しければ、どなたかお一人、同行することを許可しますわ!」


 池上は呆気に取られているが、もう、そんな事知るか!

 俺達は、揃って席を立った!


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