第3話 だれの誕生日
空を飛びながら龍神と、葵はノインたちの動向を見守っていた。
ショッピングモールでは別段問題なく食材や誕生日会に必要な物を買いそろえている。
「……龍の娘。私もショッピングモールで買うものがあるのだが、貴方はどうする?」
葵は白銀の長い髪の偉丈夫へと視線を向ける。
(あー、父様だけど、過去の父様だし……。変に干渉するのは良くないもんな。まあ、龍の娘という事にしておこう)
と葵は思いを胸にしまい、はにかんで笑った。
「それなら、アタシも同行する。せっかくだからこの世界を見て回りたいしね」
「そうか。では、行くとしよう」
「ちなみに用ってなに?」
「姫の誕生日プレゼントだ」
葵は過去の父親が一途なことを知って、思わず口元が緩んだ。
「うんうん。燈のプレゼントならアタシもなにか買いたいな。あ、それに橙夏の分も買っていこう」
***
四時五十分、日本家屋。居間──もとい誕生日会場。
折り紙の飾りつけは地味だが、大き目のテーブルを二つ。高級座布団を用意して、風船やらいろいろそれなりの場所にはなった。
皿とコップ、箸にフォークも準備できている。
「まあ、こんな所かな。あとは、料理の手伝い~」
「ならば某も──」
台所へと向かう紅の鎧武者に、燈は立ち止まる。
「あー、うんと式神は影で休憩してていいよ。ほら、台所はそこまで大きくないし」
本当は、式神が料理を手伝うと全て薬膳料理になってしまうので、それを阻止するための方便なのだ。
「むむ……」
「それなら台所でまったりするといいニャー」
「いや、台所じゃなくて別のところでまったりしてくれると嬉しいです。特に縁側とか」
燈のツッコみにケット・シーはぺろぺろと前足を舐めている。その隣には青い兎がうたた寝していた。
(くつろいでるな……)
「仕方あるまい、ならば……」と式神は鎧武者から黒い狐の姿に変わった。そしてなぜか台所の床に座り込む。
「これで文句あるまい」
「いやいやいや。だから、なんでわざわざ台所にいるの!」
「それは、暇だから」と式神は答え。
「味見したいからだニャー」とケット・シーは笑い、
「……尊い」と青い兎は寝ぼけていた。
(というか、猫、狐、兎って……食物連鎖的にどうなの。いや鼠がいるわけじゃないから大丈夫か……)
燈はツッコミを諦めて、孝太郎と橙夏の手伝いに入ったのだった。
***
五時半過ぎ。
台所にはケーキの甘い香りと、肉の焼けるいい匂いが漂う。あと二十分もすれば完成だろう。
「あ、そうだ」と黙々とバースデーケーキを仕上げている孝太郎が声を上げた。
「誕生日ケーキは良いんだけど、チョコプレートになんて書けばいいんだ?」
「確かにそういえば……。あのケット・シーさんこの──って、何を入れればいいか知ってます?」
燈は味見のパウンドケーキを頬張っているケットシーに声をかける。
「ニャ? んー、たしか2378で良かったらしいニャ」
「2378? 数字……? うーん、まあ、指示通りならそれでいいのかな。孝太郎くん」
「任せとけ! あと、燈さんと橙夏と、葵さん、それにアヤカシのメンバー全員分の誕生日ケーキも用意しているから、お楽しみにッス!」
「え!? いつの間に……」
燈は孝太郎の腕前に思わず声をあげた。
「へへっ、本業ッスからね!」
「私もとびっきりの料理を作ったの!」
「二人ともすごいな」
「燈さんが的確に指示したからっスよ」
「うんうん」
二人の言葉に燈は妙に照れくさくて、頭を掻いた。
「えへへ、それだと嬉しいな」
三人で
(パウンドケーキ最高ニャー)とケット・シーはペロリと口元を舐める。
(ふむ。敵影なし。そろそろあの小僧が戻る頃か)と式神は真面目に周辺警備を行っていた。
(また彼女に会えるとは……。橙夏も愛らしいですし、最高……!)と青い兎は燈の姿を目に焼き付けていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます