幼少期編18

今でも可愛い琢磨君の写真を見ると、こんな私でも顔がほころぶ。彼の天真爛漫な保育園時代はその可愛らしさだけで支えられていたと言っても過言でないだろう。でも彼は多動だ。無敵の多動性を持つお子様である。私にとって彼は、一人で本を読んで過ごすのが好きな私につきまとう耳うるさい蚊のような存在だった。蚊だから、煩いと跳ね除けられたり、打たれたりするのは当たり前だ。その言葉と同じように私は、彼を殴ったし蹴ったし、さらには小柄であったこともあり、彼を体ごと投げた。彼の頭は私からの暴力でボコボコになった。時々申し訳ない気持ちにもなったが、そんなことをされても直ぐに私の足元にすり寄ってくる弟を私は蹴り飛ばしていた。とにかく邪魔な存在だったのだ。琢磨が生まれてくるまでは、まだ私の子供時代はましだった。今ではそう思わないが、当時は彼をどうやって殺そうか真剣に考えていた。濡れたハンカチを何枚か重ねて眠っている顔の上に置いたこともある。息をするたびにハンカチの鼻の穴の部分と口の部分がパコパコと動いた。しばらくするとジタバタと体を動かし始め、痙攣のようになってきたので、「これ以上やったら死ぬんだわ」と小学生の私は、数枚のハンカチをとってやった。



そんな時も彼は、「姉ちゃん、びっくりした」と言うくらいの反応でしかなかった。父母不在の我が家において、5歳離れた姉である私の存在は、彼にとっては唯一無二の安全圏でもあったのだろう。その張本人がこんなザマだから、もうどうしようもない。まるでジャンコクトーの「恐るべき子供達」さながらの時代だ。他にも彼が生まれてきて直ぐの頃には、彼が着る服をハサミでジョキジョキ切ったり、本人に向かって、「殺してやる」とハサミを突きつけていた。彼が生まれてきたせいで、私の居場所はこの家から全くもってなくなってしまったのだ。家の中には溢れんばかりの彼のおもちゃが散乱していた。私には、ただ、本があるのみだった。家のスチール書棚に置いてあった、日本の作家シリーズとかなんとか言うものを片っ端から読んだ。その中にはとてもエロチックなものもあり、当時の私確か小学校1年生くらいだったと思うが、刺激的な感覚を覚えた。そして、それを実践してみようと両親不在の家をいいことに私は自慰行為をその頃に覚えたのである。

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