第1章 不思議な探偵さんと尽きた光
プロローグ
とある邸宅の二階の窓から、町の様子をじっと窺う影があった。背丈からして、中学三年生くらいの青年だろうか。白いワイシャツに黒のタキシードを着た青年だ。青年の髪の毛はまるで透き通った青空の様な色をした、とても素晴らしいものなのだが、今は見る影もなく乱れていた。青年の整った顔立ちも、今は目の下に出来たクマのせいで台無しだ。
この説明でもう数分は経っているのだが、青年は未だ何も発さず、ただじっと、窓の外の様子を窺っていた。しばらくすると、青年は大きな溜息を吐いた。と同時に、町の騒音の中に消えそうな程小さな声で、ただ一言呟いた。
「愚かだな」
――1921年7月23日。モーリデットル町。
さてその頃の街中では、ありとあらゆる広場や公園で、音楽の演奏であったり、絵画教室などが行われていた。この国に点在する町はそれぞれ何かしらの個性を持っているのだが、その中でもこの町は『芸術の町』と呼ばれている。
そんな街中で、様々な声や音の中をかき分けて進む、ある二人がいた。一人は中学生くらいの青年だろうか。紺色のブレザーを着こなし、黒髪にブルーの瞳が特徴的な穏やかそうな青年だ。もう一人は、背丈からして小学三年生くらいだろうか。沢山のフリルが付いた黒いドレスにその幼い身を包み、腰より少し下辺りまで伸ばした長い黒髪を風に靡かせている、陶器の様な肌をもった人形の様な少女。見る人皆を振り向かせるほどの美しさと可愛らしさをもった少女は、公園のベンチに腰掛ける老人に、透き通る様な声で話しかける。
「すみません。少しばかり、お伺いしたい事があるのですが、宜しいでしょうか?」
老人は大層驚いた様子であったが、すぐに我に返り、少女の問いに対してただ頷いた。それを確認した少女はまるで人形の様に無機質な表情のまま、話を続ける。
「こちらの邸宅に向かいたいのですが、ここからどう進めば良いのでしょうか?」
老人は少女が取り出した紙に書かれている住所を確認する。
「ドーランドさんの所だね。ここからそう遠くない。この公園をあそこの出口から出て、右に曲がって真っ直ぐに歩いた所だ。大きな邸宅だからすぐに見つかるだろう」
「……分かりました。ありがとうございます。それでは」
少女はそう言い残し、青年と共にその場を去って行った。
――同時刻。モーリデットル町、ドーランド邸。
このモーリデットル町で一位二位を争う程の大きな邸宅の中では、この家に仕えるメイド達が忙しなく動き回っていた。メイド達の話を聞くところ、このところ引きこもっている『お坊ちゃま』が、どうやら珍しく客人を呼んだらしい。その珍しい客人のせいで、メイド達は忙しなく動いているそうだ。
そんなメイド達の事などを知らずに、無情にも、邸宅の中にたった今ベルが鳴り響いた。
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