第65話 エルフの国~巫女がなかなか役に立った件~

 巫女を城の給仕に任せた後、ショウと聖女は食事をしながら今後のことを話し合っていた。

「やっぱりこういう時は目撃情報を集めるのが一番だと思うんだ」

「あの容姿ならかなり目立つでしょうし、この国ならなおさら目立つでしょうからすぐに見つかりそうですね。ショウ様が他の女性を探すというのは嫌ですけど・・・」

「俺だって嫌だけど、スライムちゃんを探すよりは良いだろ?あとは少しでも情報があればいいんだけど」

 話のメインはもちろん、スライムちゃんと消えたあの謎の女はどこへ向かったかだ。

 エルフの国にあんな人間がいれば、否が応でも目立つだろう。

「話は聞かせてもらいました!ここは私の出番のようですね!」

 扉を開けて勢いよく入ってきたのは、目が覚めた巫女だった。

 目を覚ましてすぐ来たのか、髪はぼさぼさで服もボロボロだった。

「私の出番ってことは・・・新しい予言でもあったのか?」

「予言ではないですけど、あの人がどこへ向かったか分かりますよ」

 巫女は質問に答えながら、当然のようにショウの膝の上に座った。

「とりあえず話を聞きましょうか。その前に、そんな恰好で座ったらショウ様が汚れてしまうのでこっちに座りましょうね」

 すぐに聖女が引き離し、別の椅子に座らせる。

 不満そうな顔をしながらも、巫女は続きを話しはじめた。

「実はお二人に出会う前にそれはもう大変な目にあっていたのですが、そのピンチをスライム様に救っていただいたんです。その時一緒にいた女の人が恐らくお二人が話していた方なのでしょう?彼女がどこへ向かったか知ってますよ!」

 どうたどばかりに胸を張る巫女、誉めてほしいのかチラチラとショウを見ている。

「予言じゃなくてもわかるならすごいよ!それで、彼女はどこへ向かったんだ?」

「悔しいですけれど素直にすごいと思います。それで、どこへ向かったんですか?」

 二人に誉められたはずなのに、巫女はなぜか嬉しそうな申し訳なさそうな微妙な表情を浮かべていた。

「そこまで期待されるとなんだか申し訳ないです・・・。実は、はっきりとはわかっていないんです。ただ、彼女はこう言っていました。これですべて揃ったことですし、あとは彼に会うだけです。そうですね、あの男が用意してたものでも使わせてもらいましょう。よく意味はわかりませんでしたが、その後追いかけようとしたんですけど・・・その・・・信じてもらえないかもしれませんが、空を飛んでいっちゃって追いかけれなかったんです」

 こんな話をしても信じてもらえないと思っていたのだろうか、巫女はそこまで話すとうつむいてしまった。

 だがそんな巫女の心配は、全く無用だった。

「空を飛んだ・・・ですか。まぁ彼女はかなり異常でしたし、それぐらいのことはしそうですね。古代の文献を漁ればなにか出てくるかもしれませんが、今はどこへ向かったかが問題ですね」

「俺もそんな魔法があるならかなり気になるけど、そんなことより、方角としてはどっちへ飛んでいったんだ?」

 ショウと聖女は全く疑いもせずに巫女の話を聞いていた。

 巫女が嘘をつくとは思えないし、あの女なら空を飛ぶぐらいするだろうと思ったからだ。

「えっと、たぶんですけど、ちょっと前に謎の爆発があった、ヒトの国の方角です」

 巫女は地図を広げると大まかな方角を指さした、その方角をみて聖女とショウは顔を合わせる。

「なぁこの方角って確か・・・」

「ええ、爆発があったことといい、間違いないでしょう」

「何があるんですか?二人だけで分かってないで教えてくださいよ!」

 ???マークで頭がいっぱいの巫女と違って、ショウと聖女は二人とも同じ場所を思い浮かべていた。



「まさかまたここへ来ることになるとはな」

「私はそんなに嫌じゃありませんよ?だってここは、ショウ様が私を助けに来てくれた場所ですから」

ショウと聖女はエルフの国を出て、目的の場所へと来ていた。

ちょっと前に爆発があった怪しい場所・・・魔王レナードのダンジョンだ。

例によって巫女はお留守番だ、死にかけたし今度こそ一緒に来ないほうがいいだろう。

「とりあえず中へ入るか、当たりだといいんだけどな」


中へ進みながら、聖女が口を開く。

「ここはショウ様を探しに来た時にいろいろと調べたんですが、どうやら魔王レナードは私を生贄にして何かを召喚しようとしていたみたいなんです。召喚の魔法陣はだいぶ消えてしまっていましたが、彼女はそれを利用しようとしているのでしょう」

「問題は何を召喚しようとしてたか・・・じゃなくて、俺のスライムちゃんをどうしようとしてるかってことだ。今の状況だと生贄にしようとしてるとしか思えないんだよな」

「召喚されるものには興味がないなんて、こんな時でもショウ様はいつも通りですね」

レベルはマイナス999のままだったので、何が現れようと負ける気はしなかった。

それよりも、スライムちゃんを失うかもしれないことのほうが不安だった。

ダンジョンの中は以前激しい戦闘があったにも関わらず、人が通れる程度には瓦礫がどけられていた。

しばらく進むと、以前聖女が囚われていた場所へと着いた。

「スライムちゃん!」

聖女がとらわれていた場所には、スライムちゃんがいた。

「待ってください。うかつに近づいては危険です!」

聖女の制止も聞かず走り出したショウの目の前に、複数の大きな人影が立ちふさがる。

金属のような体をした、ゴーレムのようなモンスターだった。

「そこをどけぇ!」


ショウはカタナを抜くと、立ちふさがるゴーレムを斬り倒しながらスライムちゃんへ向かって進む。

立ちふさがるゴーレムをすべて薙ぎ倒すと、スライムちゃんまであと一歩まで迫る。

「スライムちゃん、一緒に帰ろう」

スライムちゃんを抱き抱えようと手を伸ばしたが、見えない壁があるかのように弾かれてしまった。

「待っててねスライムちゃん、今助けるから」

ショウは見えない壁めがけて思いきり拳を振るったが、壁は壊せない。

今度は思いきり蹴りとばしてみたが、壊れない。

「ちょっと待っててね」

今度はカタナを抜くと、万が一にもスライムちゃんに当たらないように細心の注意を払いながら思いきり振りかぶる。

「これでもダメなのか・・・」

振り下ろされたカタナは、弾かれてしまった。

「まったくショウ様は、スライムちゃんのこととなるとすぐに周りが見えなくなるんですから」

聖女もショウのもとへとやって来て、見えない壁のようなものを触ってみる。

「それにしても不思議ですね、まさかショウ様でも壊せないなんて。スライムちゃんも動かないですし、どうしましょう?」

二人で悩んでいると、奥の暗闇から声が聞こえてきた。

「こんなところまで来るなんて、このスライムがそんなに大事ですか?」

暗闇から姿を表したのは、スライムちゃんを連れていったあの女だ。

「お前が何をする気かは知らないが、スライムちゃんは返してもらうぞ」

「私のものだと言ったはずですが、分かってもらえてないみたいですね。まぁあなた達が来たところで私がやることに変わりはないですし。そこでゆっくりと診ていなさい」

女はショウと聖女を全く気にすることなく、なにか呪文を唱え始めた。

「ショウ様は彼女を止めてください、私はこの壁をどうにかしてみます!」

聖女にスライムちゃんを任せると、ショウはカタナを抜いて女へと斬りかかる。

だが、その刃はスライムちゃんの時のように弾かれてしまった。

「くそ、こっちもか!どうなってるんだよいったい!」

何度もカタナを振り下ろすが、いとも簡単に弾かれてしまう。

聖女の方も呪文を唱えたり色々していたが、壁はどうにもならないようだ。

二人とも諦めずに考えられる手は尽くしたが、とうとう時間が来てしまった。

「レベル9999のスライムを生け贄に、我が願いに応えよ!」

女が叫ぶと同時に、スライムちゃんを包み込むように魔方陣がまばゆいほどに輝き出す。

光が消えると同時に、スライムちゃんは壁まで吹き飛ばされた。

「スライムちゃん!」

ショウは慌ててスライムちゃんのもとへと走る。

抱き上げたスライムちゃんはかなり弱ってはいるが、なんとか生きているようだ。

「今すぐ回復します、スライムちゃんは死なせません!」

聖女もすぐにかけてきてスライムちゃんに回復魔法をかけたが、全く元気にならない。

ショウがスライムちゃんのステータスを確認すると、レベルは9999だが、経験値以外の全てのステータスが1になっていた。

女は目的を果たしたのか、ショウ達には目もくれない。

スライムちゃんがいた場所、魔方陣の中心へと進んでいた。

「とうとうこの時が、どれほど待ちわびたでしょう・・・」

その場所には、全裸の男が立っていた。

筋骨粒々の巨体に、腰まである長い黒髪。

赤い血のような色の瞳で、まっすぐと目の前の女を見つめていた。

女は男へ抱きつくと、頬に涙を浮かべ、こう呟いた。

「ずっと会いたかったわ。あなた」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る