第64話 エルフの国~巫女には刺激が強すぎた件~
巫女が現れたことで聖女はショウへ向けていた顔をもとに戻した。
そのまま大きく息をはくと、残念そうに肩を落としたまま巫女の方へと向き直った。
森から現れた巫女は、ショウと聖女の間に割り込むと。
「それで!お二人は何をしていたんですか?」
頬を膨らませ腕を組んで二人を交互ににらむ、怒っているのだろうが、その仕草に二人は思わず笑ってしまう。
「何がおかしいんですか!私がどれだけ大変な目にあったと思ってるんですか!ひどいじゃないですか!」
「そんなに怒るなって、無事で良かったよ。俺だってずっと探してたんだぞ?」
ショウの言葉に巫女の頬が緩む。
「勇者様が私を?本当ですか?」
「ああ、俺には君が必要だ」
ショウにまっすぐと見つめられた巫女の顔が真っ赤になる。
「でもそんな・・・まだお付き合いもしてないのに、エルフと人間ですし・・・それにそれに・・・」
ぶつぶつと言いながら頬を手で抑えて身悶えする巫女。
「巫女様に新しい予言が無いか聞くために探してたんですよね?スライムちゃんの場所を探すために巫女様の力が必要なんですよね?」
勘違いして舞い上がっている巫女に聖女が笑顔で詳しく説明すると、巫女の動きが一瞬止まった。
「ソウナンデスカ?」
巫女はぎこちない動きでショウの方を向き問いかける。
「ああ、スライムちゃんの場所について、新しい予言はないか?」
問いかけられたショウは何の迷いもなく即答した。
自分の想像とは全く違う返事を聞いた巫女の目から、一筋涙が流れる。
珍しくあきれた表情を浮かべた聖女が、ショウの代わりに巫女を優しく抱きしめる、同じ人を好きな者にしか分からない苦労が有るのだろう。
「はぁ、全くショウ様は。まぁそういう一途なところも好きですけど。巫女様も、ショウ様を思い続けるなら、これぐらいで泣いてはいけませんよ。それに力だけとは言え、ショウ様が誰かを頼るなんてめったに無いんですから。すでにあなたは特別ですよ」
聖女の言葉を聞いた巫女は、涙をふくと改めてショウに問いかける。
「本当ですか?」
ショウはこれまた何の疑問もなく即答した。
「さっきも言ったけど、俺には君が必要だ。頼む、力を貸してくれ」
ショウの返答を聞いた巫女の表情が明るくなる。
聖女から離れると、無い胸を張ってさっきとは違う元気いっぱいな表情を浮かべ、大きな声で答えた。
「もちろんいいですよ!勇者様のためなら私、頑張ります!」
そんな巫女を見て聖女は優しく微笑んだ。
「まぁ譲る気はありませんけどね・・・」
そんな一騒動を終えたあと、三人はとりあえず城へ戻ることに決めた。
だが、そこでも問題が生じてしまったのだ。
さっきまではあんなに良い雰囲気だったと言うのに、ショウを挟んで火花を散らしている。
「私はついさっきまで命がけで逃げ回ったりしてすごく疲れてるんです!それにあなたは神殿から帰るときもここへ来るときもしてもらったんでしょう!?だったら譲ってくれてもいいじゃないですか!」
大きな声をあげて聖女を睨み付ける巫女、とても疲れた様子には見えない。
だが、よく見ると握ったショウの右手に体重をかけている上に、足はプルプルと震えていた。
「譲るも何も婚約者である私がふさわしいに決まっているでしょう?それに子供のあなたにはまだ早いですよ。ねぇショウ様?」
ショウの左手を握りながらにこやかに巫女を見る聖女、その間もショウの腕に胸を押し付けている。
「ああ!聖女ともあろう人がそんなことしていいんですか!?ショウ様も何か言ってくださいよ!」
「何のことでしょう?私はただ普通に最愛の人に寄り添っているだけです。ただそれだけですよ、ええ。ささ、ショウ様。早く帰りましょう」
二人に挟まれたショウは右に左に引っ張られながらゆらゆらと揺れていた。
二人がここまで言い争っている理由、それは・・・。
「もうどっちでもいいだろう、抱っこかおんぶかなんてそんなに変わらないんだから・・・」
そう、どちらがショウに抱っこ(お姫様)をしてもらうかを言い争っていたのだ。
あきれたショウが呟いた瞬間、さっきまでぴったりとくっついていた二人が同時にショウの手を離した。
「ショウ様、さすがに私も今の発言はどうかと思いますよ?今晩説明しに行きますから部屋の鍵を開けておいてくださいね」
「またあなたはそうやって抜け駆けしようとして!それはそうと勇者様、女の子にとってはその二つは天と地ほどの差があるんですよ?まぁ確かにおんぶも良さがあると言えばあるんですが、今は違うんです!」
同じタイミングでため息を吐く二人、仲が良いんだか悪いんだか。
「はぁ、幸せですぅ。この時間が一生続けばいいのに・・・」
「私だけの特権でしたのに・・・でも巫女様を気遣う優しいショウ様も素敵です。それにこっちはこっちで色々とできていいですねぇ。首にあとでもつけておきましょうか」
「お前ら喋ると舌噛むぞ。あと聖女はあんまり余計なことすると落とすからな」
あの後話し合った結果、疲れきった巫女が全力疾走するショウに掴まっておくことは無理だと言うことになり、巫女がお姫様だっこで、聖女がおんぶで帰ることになった。
「じゃあ行くぞ。しっかり捕まってろよ」
準備を終えたショウに聖女がしっかりとしがみつく、それを合図にショウは全力で走り出した。
「ほら、ついたぞ。はぁはぁ言ってないでさっさと降りてくれ」
「ああ、幸せな瞬間というのはすぐに終わってしまうものなんですね・・・」
ショウの背中から名残惜しそうに聖女が離れる。
だが、巫女が全く離れようとしない、ショウの胸に顔を埋めてしっかりと掴まっている。
「ほら、巫女も早く離れてくれ」
ショウが巫女を降ろそうとしたが、全く離れない。
「あら、ショウ様。そんなにその子のことが好きなんですか?私はすぐに下ろしたと言うのに・・・」
聖女の雰囲気が不穏なものになる、やばい、早く離れないと。
こうなったら無理矢理でも引き離そうか、でも怪我するとまずいし・・・。
ショウがどうしようか悩んでいると、聖女がすぐそばまで寄ってきた。
「巫女様も巫女様ですよ。ショウ様が困っているでしょう。さぁ早く・・・ってあら?」
なにかに気づいたのか、聖女が巫女の顔を下から覗きこんでいる、どうしたのだろう。
「仕方ありませんね。ショウ様、そのまま部屋へ連れていってあげましょう」
さっきまでの不穏な雰囲気はどこへ消えたのか、急に笑顔になる聖女。
気になったショウが、巫女の顔を見ようとすると。
「駄目です、誰にも見せてはいけません。特にショウ様は見ないであげてください。いいですね?」
珍しく焦った様子の聖女に制止された。そこまで言われると気になるのだが。
「何かあったのか?なぁちょっとぐら」
「絶対だめです」
笑顔のまま圧力をかけてくる聖女が怖い・・・。
「わかったよ、そこまで言うなら見ないって。ただこの状態は絶対誤解されるからあとで説明するのは手伝ってくれよ」
「それはもちろんお手伝いしますよ。ついでに私が婚約者であることも広めておきましょう。エルフの国でもショウ様と私の関係を認めさせておけば、色々と好都合ですから」
何が好都合なのか分からないが、誤解が解けるならばいいだろう。
仕方なくショウは、巫女を抱えたまま城の中へ入ることになった。
ショウが城へ向けて歩き出したあと、聖女はひっそりと呟いた。
「それにしても、ふふっ。ショウ様の速さはとんでもないですからね。城の中で大事に育てられた彼女には、刺激が強すぎたんでしょう。気絶しているならばあまり覚えてないでしょうから、これでショウ様に抱かれた記憶は私だけのものですね」
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