第62話 エルフの城~巫女がいなくなった件~

ショウと聖女が神殿にいる頃、エルフの城では大騒動が起きていた。

「巫女様!巫女様!」

「動ける者は捜索を手伝え!何としても探し出すんだ!」

「魔王の手先は勇者様が倒してくれたはずだろう!まさか・・・まだ残党がいたのか?」

エルフの兵士やメイドだけでなく、城の修理を手伝うために来ていた民間人までも、城の全員で巫女を探していた。

ショウに着いていこうとして引き留められた巫女は、兵士達の説得により大人しく部屋に戻った・・・かに見えたのだが。

巫女を部屋に閉じこめてしばらくして、やけに大人しいことを疑問に思った見張りの兵士が声をかけたが返事がなかった。

仕方なく部屋にはいると、中はもぬけのからだった。

最初は城のどこかにいるのだろうと思い、数人の兵士で探しはじめた。

だが30分経っても見つからず、そのまま1時間を過ぎた頃、兵士達に焦りが見え始めた。

そして2時間が過ぎた今では、城の中は大騒動へと発展してしまった。


一方その頃、騒動の原因の巫女はというと・・・。

「やっぱりじっとしてなんていられません!抜け駆けはだめです。それに、これは予言じゃないですけど、このままではあの人を取られてしまう気がします!」

神殿へ向けて、一人で森の中を歩いていた。

護衛もつけず、大した装備も持たずに城を飛び出した巫女。

箱入り娘であった上に、元々天然な性格も災いして、彼女は危険に対してかなり鈍感だった。

そうでなければ、モンスターがうろつく森に一人で入るなどありえないだろう。

「城のみんなはうそつきですね。外は危険だから出てはだめですよってあんなに言っていたのに、モンスターなんてどこにもいないじゃないですか。こんなことなら無理にでもショウ様に着いていくべきでした」

森の中を一人で歩く無防備な少女・・・ダンジョンから出て弱体化しているとは言え、モンスターからしてみれば格好の獲物だろう。

にも関わらず、彼女は無事だった。

それは彼女が歩いている場所に理由があった。

「それにしても、ショウ様が通った後はすごいですね。地面もきれいにならされてますし、草どころか木も無くなってとても歩きやすいです!」

彼女はショウが通った後の道を歩いていた。

実のところショウは、木どころかモンスターすらなぎ倒して進んでいた。

そのせいでモンスター達は、ショウが通った後の道は近づいてはいけない危険な場所だと認識していた。

いつまたあの何かが通るか分からないので、たとえ格好の獲物でも手を出すわけにはいかなかった。

むしろ誘い出すための餌のようにも思えたので、なおさら手を出すわけにわいかなかった。

「これなら予定より早く追いつけそうですね、待っててくださいよショウ様!」

足取り軽く、神殿へ向かう巫女。

レベルも低く、戦う力もない少女だが、運だけは良かった。


城で騒動が起き、巫女が森の中を進んでいる頃・・・。

「ああ~最高です~この時間が一生続いてくれたらどんなに幸せでしょう~」

「あんまり喋ると舌かむぞ。これぐらいならまたやってやるから、大人しくしててくれ。あと首!首しまってるから!落としたりしないから力弱めてくれ!」

気がついた聖女に首を絞められながら、ショウはエルフの城を目指し走っていた。

「それにしてもあの人は何だったんでしょうね。スライムちゃんもショウ様を攻撃するなんて、いくらスライムちゃんでも今回ばかりは叱ってあげましょう!」

「止めた方がいいと思うぞ。今のスライムちゃんに勝てる奴は多分いない。俺を攻撃したときも手加減してたっぽいし冗談抜きで魔王より強いと思う」

ショウの言葉を聞いた聖女は、しばらく固まったあと話題を切り替えた。

「そういえば、あの人私たちを見て笑った気がしませんでしたか?」

「やっぱりか?俺の勘だけど、あの人はそんなに悪い人じゃない気がする。一瞬だけ怖かったけどそれ以外は何というか、うまくいえないんだけどお前に似た雰囲気を感じたんだ」

目的を達成するためなら手段を選ばなさそうな危ない感じも。と言うのはやめた方がいいだろう。

「私とあの人が似ている、ですか?否定はしませんけど、私だけを特別に見てほしいので、なんだか悲しいです・・・。離れられない今の内に、違いを分かってもらいましょう」

ショウの首に回された手に力が込められ、二人の顔が触れそうなほど近くなる。

「なぁ聖女様、別にいいけど時と場合と場所を考えような」

ショウの言葉を聞いても聖女は力を緩めない、それどころか頬を染めてさらに力を強めてきた。

「いいんですね?こうなったら私も頑張りますよ、聖女でも王女でもなく一人の女として・・・」

盛り上がった聖女の唇が、ショウに触れようとした瞬間。

「こほん。あのー聖女様。人間の愛情表現はよく知りませんが、エルフの国ではそう言うことは部屋で二人きりの時にしたほうがよろしいかと・・・」

耐えきれなくなったのか、見張りをしていたエルフの兵士が声をかけた。

聖女は気づいていなかったが、ここはエルフの城の入り口だ。

恥ずかしさのあまり耳まで真っ赤になった聖女は、ショウからゆっくりと離れ、服の乱れを直すと兵士に向かって優しく微笑んだ。

「ご苦労様です。あなたは何も見ていません。いいですね?」

笑顔だが、怖い。

怯えた兵士がうなずいたのを確認すると、聖女は城の中へと入っていった。

ショウもあとへ続いたのだが、何やら城の様子がおかしい、聖女もそれに気づいたのか、中に入らずにショウを待っていた。

二人が城の中へはいると、兵士だけでなくメイドや村人までもが走り回っていた。

二人が帰ってきたことにすら気づいていないようだ。

「この慌てよう・・・まさか、また新たな脅威が訪れたとかでしょうか?」

「今はそんなことに構ってる暇はないんだけどな。とりあえず事情を聞いてみるか」

ショウは走っていた兵士の一人を捕まえて、何があったのか聞いてみた。

「なるほど、巫女様がいなくなったと。まさか魔王の手先の残党が残っていて、彼女をさらったのでは?」

あんなことがあってすぐなのであまり考えたくもないが、可能性がないわけではない。

だがそんな二人の考えは、兵士の言葉によってすぐに否定された。

「それはないでしょう。巫女様が危機は去ったと仰っていましたし、新たなお告げも出ていませんから。おそらく、またどこかへ抜け出しているのでしょう。以前から何度も抜け出しては、城の中を逃げ回っていましたから」

あの巫女様は、以前からとても活発だったようだ。

「でもいつものことにしちゃ、なんだかみんなの慌てようがおかしくないか?」

ショウの疑問に聖女も頷いている、だが兵士は苦笑いを浮かべながら答えた。

「まぁ今回はあんなことがあった後ですので、みなあわてて探しているんですよ。それに今回はなかなか見つからなくて・・・城の外へと出てしまったんじゃって話もあります」

それじゃ、と兵士はすぐに巫女探しへと戻っていった。

「さてと、聖女はどうする?俺はスライムちゃんの手がかりを探そうと思うんだけど」

「私は巫女様を探そうと思います。万が一と言うこともありますし、ショウ様も一緒にと思ったのですが、手がかりに当てがあるのなら仕方ないですね・・・」

聖女の言葉にショウは固まった。

そういえば・・・当てなどなにもない。

巫女に新しいお告げがないか、聞こうとしていたのだった。

「やっぱり俺も探しにいこうかな。城の中ならともかく外に出てるなら一人じゃ心配だし、スライムちゃんの場所を教えてもらった借りも返しておかないとな」

「ふふっ、そうですね。では一緒に行きましょう」

城の外へ出ると聖女は当然のように抱きついてきた、まぁ探し回るなら抱き抱えた方が早いからいいんだけどな。

「なぁ。もしかしてこうなると分かっててさっきあんなこと言ってきたのか?」

「さて、何のことでしょう?さぁ、早く探しに行きましょう。別に私はこのままでもいいですけどね?ええ、いつまでも」

笑顔の聖女を抱き抱えると、そのまま城の外へ走り出す。

帰り道では会わなかったので、神殿へ向かったときの道を探すことにした。

二人の後を追ったなら、分かりやすいこの道を通るだろう。

「なんにせよ、無事ならいいけどな」


ショウと聖女が城を出発したその頃...

「何でこうなるんですかぁ!今日は新しいお告げはなかったのに!いやぁ!こっちこないでぇ!」

巫女はモンスターに襲われて、森の中を逃げ回っていた。

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