第61話 ???の神殿〜スライムちゃんを見つけた件〜

スライムちゃんがいなくなって三日後・・・

ショウと聖女はまだエルフの国にいた。

巫女と聖女はあの後すぐに伝令を走らせてくれた。

エルフの国だけではなく人間の国でもスライムちゃんの捜索が続けられているのだが・・・。

「未だに情報は無しか」

ショウは机に突っ伏したままポツリとつぶやく。

ショウの手元にはスライムちゃんの代わりに彼女(?)が入っていた箱が握られていた。

これだけ探してもなんの手がかりも見つからないとなると、もうこの国にはいないのだろうか。

別の国へ探しに行くことも考え始めたその時。

「ショウ様!手がかりが見つかりました!」

「勇者様!お告げがありましたよ!」

聖女と巫女が勢いよく部屋の中へ入ってきた。



突如として部屋の中に入ってきた二人は、ショウの隣にどちらが座るかで争っていたが、結局ショウの反対側に二人並んで座ることにした。

「それで、スライムちゃんの行き先について何かわかったのか?」

聖女と巫女は顔を見合わせてうなずくと、机の上に一枚の地図を広げた。

「私のファンクラブの方が故郷へ帰る際に赤い何かを見かけたそうです。あまりに早すぎてよく見えなかったそうですが、その赤い何かは東へ向かっていったようです」

ファンクラブ・・・の件は後で詳しく聞くとして、とりあえずその赤い何かはスライムちゃんだろう。

すばやく動くっていう点は想像できないが、レベル9999だったしそれぐらいできそうだ。

「私は今朝、東にて新たな厄災の種あり、とお告げを受け取りました。聖女様の情報も合わせると、スライムちゃんは今ここにいる可能性が高いと思います!」

巫女が地図の一点を指差す、そこには見慣れない建物が描かれていた。

「この場所には昔使われていた神殿があります。今は倒壊の危険があるので立入禁止となっていて、エルフたちはめったに近寄りません」

巫女の言葉を聞いてショウは確認する、スライムちゃんは絶対にここにいると。

「ありがとう二人共、俺はとりあえず行ってみるよ。すぐにスライムちゃんを連れて戻ってくるから・・・って何で行く気満々なんだ?」

ショウが椅子から立ち上がると同時に聖女と巫女も立ち上がった、よく見るtと二人ともすぐに外へ出れる準備をしているようだ。

ニコニコと笑顔で見てくる二人に、ショウは思わず苦笑いを浮かべていた。

「しかし新たな厄災の種か・・・」

ショウは面倒なことになる嫌な予感しかしなかった。

そしてショウの予感は、嫌な時は当たるのだった。



「ここか」

ショウ達の目の前には、古ぼけた神殿があった。

「意外に早かったですね、もう少しゆっくりでも良かったんですが・・・」

残念そうな顔で神殿を見上げる聖女、急ぐためにここへ向かうまではショウが抱えてきたので、聖女はもう少し抱かれていたかったようだ。

出ていこうとしたところをエルフの兵士たちに止められてしまったので、巫女の姿はなかった。

「とりあえず中へ入るか」

ショウが特に警戒することもなく神殿の中へと入っていく、聖女も少し離れてショウへと続いた。


神殿の中は天井が崩れ所々に大きな岩が落ちていた、今にも崩れ落ちそうなヒビが至るところに走っていた。

「しかしスライムちゃんはなんでこんなところに来たんだろう、何かあるのか?」

ショウは通路を塞いでいる大きな岩を片付けていた。

まだいると決まったわけではないが、ショウは確信に似た予感があった。

「スライムちゃんと関係があるかはわかりませんが、巫女様のお話によると、この場所では以前エルフの人たちが色々な儀式を行っていたようです。しかしある時、異国から来た魔法使いが行った儀式によって神殿が汚されてしまったのです。そのせいでこの神殿は使えなくなり、現在は放棄されていると。その儀式が何なのかは記録に残っていないため不明ですが、あまりいいものではなかったようですね」

聖女はショウの後ろで通路の壁を見ていた。

よく見ると通路の壁は赤黒く変色していた、血の跡だろうか。

通路の岩を片付けながら奥へ進んでいくと、血の跡が目立つようになってきた。

それだけではない、白骨化した死体も見かけるようになってきた、一体何が起きたというのだろう。

皿に奥へと進んでいくと、儀式が行われたであろう祭壇がある広間へと着いた。

祭壇に飾られているものを見てショウは思わず叫んでしまった。

「スライムちゃん!」

見間違えるわけがない、そこにはスライムちゃんがいた。

金色の盃に載せられ、まるでお供え物のようだった。

ショウが駆け出そうとしたその時、ショウたちの後ろから急に声をかけられた。

「ショウに、聖女・・・まさかこんなところにまで来るなんてね」

振り返るとそこには、白いローブを着てフードを目深にかぶった人(?)が立っていた。

謎の人物はローブの胸の部分の膨らみと声から察するに女性のようだ。

ショウはカタナを抜いて聖女を守るように前に立つ。

ローブの人物からは何も危険を感じなかったが、用心するに越したことはないだろう。

ローブの人物はそんなショウたちを見て笑ったような気がした、少しだけ二人へ近づくと、フードを取り素顔を見せた。

腰まで伸びた長い銀色の髪、雪のような真っ白な肌をした美女だった。

聖女があと数年経てばこんな感じだろうか、いずれにせよこんな場所には相応しくない、そんな雰囲気をまとっていた。

女は真紅の瞳でまっすぐにショウたちを見つめている、その瞳からは懐かしいものを見るような、柔らかいものを感じた。

「お前がスライムちゃんを連れ去った犯人か?」

ショウは油断せずにカタナを向ける、女はそんなショウの態度にも全く動じない、それどころか、口元に手を当てクスクスと笑いだした。

「犯人・・・ね。確かにあなた達からしたらそう見えるかもしれないわね。おいで、スライム」

女の声に反応し、さっきまで全く動かなかったスライムちゃんが女の元へと飛んでいく。

女はスライムちゃんを抱きかかえ優しくなでていた。

「この通り、スライムはもともと私のものなのよ。あなたには貸してあげていた、といよりはあなたを利用させてもらっていたっていうほうが正しいわね。まさかここまでレベルを上げてくれるなんて、予想外だったけど嬉しいわ。よっぽど大切にしてくれたのね」

スライムちゃんは女に抱かれたまま大人しくしている、まさか女の言うことは本当なのだろうか。

「スライムちゃん。一緒に帰ろう?」

ショウはカタナをしまいスライムへ向けて手を伸ばす、後ろで聖女が何か言っていたがショウの耳には入っていなかった。

だが、その手はスライムへは届かなかった。

ショウが伸ばした手は・・・スライムによって弾かれていた。

「残念なのだけど、これが事実よ。スライムはあなたのものじゃないの」

目の前で起きた出来事を信じられないショウに、女の言葉が突き刺さる。

「じゃあ私は行くわね。ここへはスライムを回収しに来ただけなのだから」

女はショウや聖女に全く興味がないようだ、スライムを抱えたまま外へ出ていこうとする。

「待ってください。スライムちゃんをどこへ連れて行くんですか」

ショックで動けないショウの代わりに、聖女が女を呼び止める。

「どこへ連れて行こうと私の勝手でしょう?あなた達にはスライムをここまで育ててもらった恩があるから見逃してあげるって言ってるの」

女は歩みを止めたが振り返ることはしなかった、そのまま外へ出ていこうとする。

「待ってくれ」

ショウは女を止めようと手を伸ばしたがその手は届かない、女を守るようにスライムがショウの手を弾いていた。

「諦めが悪いのね。仕方ないわね、スライム、わからせてあげて」

女の手から離れたスライムがショウへ近寄ってくる、ショウはいつものように抱きかかえようと手を伸ばしたのだが・・・。

スライムは体を弾ませると、まるで矢のような速さでショウの体へと突っ込んだ。

吹き飛ばされ、壁へ激突するショウ。

「ショウ様!」

聖女が慌てて駆け寄りショウに回復の魔法をかける。

ショウは立ち上がろうと力を込めるが体を起こせない、レベル9999のスライムの攻撃はとてつもなかった。

「これでわかったでしょう。スライムは私のものなの。わかったら諦めなさいな」

そう言い残すと、女はスライムを抱いて出ていってしまった。



女が立ち去ってしばらくした後、ショウと聖女がようやく神殿から出てきた。

「スライムちゃん・・・」

ショウは見るからに元気がない、あんなことがあった後では当然だろう。

「ショウ様、元気を出してください。きっと何か理由があるはずです。エルフの人たちみたいにあやつられていたかのうせ・・・」

聖女が必死に慰めるが、ショウの耳には入っていない。

一緒にずっと過ごしてきたからこそわかる、スライムちゃんは操られてなどいなかった。

魔王を倒したあともずっと一緒にいられると思ったのに、まさかこんな別れ方をするとは思わなかった。

「これからどうしたらいいんだ・・・」

スライムちゃんが居ない生活など想像したことすら無かった、どうやって生きていけばいいというのか。

ショウが落ち込み絶望していると。

「いい加減にしてください!」

なんと、聖女がショウの頬をひっぱたいた。

驚いてショウが聖女を見ると、聖女は目に大粒の涙をためていた。

「一度拒否されたぐらいでなんですか!ショウ様のスライムちゃんへの思いはその程度だったんですか!」

こんな聖女は見たことがない。

ショウが驚いていると、聖女はショウに抱きついてきた。

抱きつかれたままショウは考える、そして落ち込んでいた自分が恥ずかしくなってきた。

たしかに一度ぐらいで諦めてはだめだろう。

今こうしてショウに抱きついている聖女なんて、何度フラレたか数え切れないほどだ。

「ありがとう、おかげで目が覚めたよ」

ショウは抱きついている聖女を優しく抱きしめ返すと、耳元でお礼を言った。

「ショウ様が!私を!ああっ!」

聖女は嬉しすぎたのか、顔を真っ赤にした後気絶してしまった。

ショウは気絶した聖女を抱きかかえ、エルフの城を目指して走る。

「待っててよ、スライムちゃん。俺は絶対に諦めないからね!」

手がかりはあの女だ、正体はわからないが何か情報はないだろうか。

もしかすると巫女に新しいお告げが出ているかもしれない、まずは城に帰るのが先決だ。

絶対に諦めないことを胸に誓い、全力で城を目指すのだった。



ショウが城を目指して走っていた頃・・・。

神殿から遠く離れた森の中、スライムを抱えた女が歩いていた。

「スライムがレベル9999になってるのは驚きました、彼にはよっぽど大事にされたんですね。まぁそのおかげで私は予定よりもだいぶ早くあのお方に会えるんですから、彼には今度改めてお礼をしないといけませんね。もう目的は果たせましたし・・・彼のっていうのもいいかもしれませんね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る