第60話 エルフの城〜スライムちゃんがいなくなった件〜

「ああーさっぱりした」


体をきれいにしたあと、ショウは以前泊めてもらった部屋へと向かった。

幸いこの部屋はあまり荒らされていなかったので、少し片付けるだけでよかった。

ベッドの上でスライムちゃんを体の上に乗せ、くつろいでいた。

この国の魔王騒動も解決し、スライムちゃんの仲間?の復讐もできたし大満足だ。

部屋の外では未だに後始末が続いているようだが、事件解決の功労者なのだから少しぐらいゆっくりしても文句は言われないだろう。


「そういえば、スライムちゃんとうとうレベル9999になっちゃったね。もう俺よりも強いし魔王すら簡単に倒せるんじゃないかな?」


スライムちゃんのステータスは驚異のレベル9999になっていた。特に体に異常はないようだが、大丈夫なのだろうか。


「考えても仕方ないか、何か違和感があったらすぐに言うんだよ」


体の上で半分溶けてだらけている?スライムちゃんがプルプルと震えて返事をしていた。

それを見て安心したショウは、目を閉じてこれからのことを考える。

まだ攻略していないエルフの国の難易度の高いダンジョンに挑もうかとも思ったが、こんな騒動の後なので自粛しておいたほうがいいだろう。

どこか別の国に行こうか、聖女に生きてるのがバレたことだし、王国へ戻ってダンジョンに挑むのもいいかな。

疲れが溜まっていたことと、騒動を解決したことで緊張の糸が切れたのだろう。

そうこうしている内に、ショウはいつのまにか寝息を立てていた。


ショウがスライムちゃんと至福のひと時を過ごしているとき、聖女と巫女は怪我人の手当に奔走していた。


「これで最後ですね。魔力が尽きるかと思いましたけど、なんとか全員助けられて良かったです」


聖女は肩で息をしながら額から流れた汗を拭う。

となりには同じように疲れ切った表情の巫女が立っていた、聖女の補助とはいえかなり疲れているようだ。


「聖女様の魔法は本当にすごいです。どんな大怪我でもまるで無かったみたいに治してしまうなんて。エルフの中でもここまでの回復魔法を使える人はいません」


巫女の言葉に聖女の顔が少しだけ赤くなる、まわりのエルフたちからも称賛の声が飛んだ。


「傷は治りますけど失った血や体力は戻りません、なのであまり無理をしないでくださいね」


聖女の言葉にエルフたちの盛り上がりが一層強くなる、どうやらまた信者が増えてしまったようだ。

この数日後、エルフの国に聖女のファンクラブができるのだが、それはまた別のお話。


翌朝。

ショウは慣れない感触で目を覚ました。

スライムちゃんのような柔らかさだがいつもより重い、それになんだか面積が広すぎる。

目線を下にやると桃色の髪が見えた。

寝ぼけた頭でも間違えるわけがない、聖女だ。

聖女はまるで布団のようにショウに覆いかぶさって眠っていた、呼吸のたびに押し付けられた胸が形を変えている、これをスライムちゃんと勘違いしたのだろう。

鍵をかけ忘れていたので侵入?されたのだろうか、しかしよくスライムちゃんが許してくれたものだ。

ふと、そこでショウは違和感に気づいた。

そのスライムちゃんの姿が見えない、寝たまま部屋の中を見渡したのだがどこにもいなかった。

ショウは寝ている聖女の下から抜け出し、部屋の中をくまなく探した。

いつもスライムちゃんが入っている箱の中、部屋の中の隙間という隙間、はては聖女の服の中まで。


「落ち着こう、絶対どこかにいるはずだ」


いつもであればショウから離れることなどありえない、いったいどこへ行ってしまったというのだろう。

まさか、部屋の外へ出ていってしまったのだろうか、だとしたら大変だ。


「早く見つけないと!スライムちゃんが危ない!」


実際のところ、レベル9999のスライムちゃんに危険はないだろう。

むしろ襲いかかったエルフのほうが大変なことになりそうだが、軽くパニックになっているショウには正常な判断ができなかった。

ショウは急いで準備をおえると、スライムちゃんを探しに部屋を飛び出したのだった。


ショウが部屋を出てしばらくして、ようやく聖女が目を覚ました。

寝ぼけた目であたりを見渡す、ショウがいないことに気づくと少しだけ悲しそうな顔になった。


「やはりショウ様は手を出してくれないのですね・・・。まぁ近くにはいるみたいですし、もう少しだけ寝かせてもらいましょう」


指輪に魔力を込めてショウの位置を確認すると、聖女は再びベッドで横になる。


「目を瞑るとショウ様の匂いがします・・・最高です・・・」


さすがの聖女も疲れていたのだろう、すぐに眠りに落ちていった。


ショウはスライムちゃんを探して城の中を駆け回っていた。

途中であったサンソンらエルフたちにスライムちゃんを見なかったが聞いたか、有力な手がかりは得られなかった。


「どこへ行っちゃったんだよ・・・スライムちゃん・・・」


昼過ぎまで探せるところを探し尽くしたショウは、肩を落としてトボトボと歩いていた。

落ち込んではいたが、そのおかげで落ち着きを取り戻たショウは、一旦部屋へ戻ることにした。

部屋へ戻ったショウは、椅子に座り状況を整理しはじめた。

寝ている聖女など全く気にしていない、スライムちゃんのことしか考えていなかった。


「スライムちゃん・・・」


ショウは今までの人生で一番頭を使ったが、スライムちゃんが消える理由など全く思いつくことができなかった。

ショウが諦めかけたその時、部屋のドアがノックされた。

返事をすると勢いよくドアが開かれる、そこには巫女が立っていた。


「勇者様、おはようございます・・・ってもうお昼ですね。今日は改めてお礼に来ました」


巫女はさっきまで寝ていたのか、いつもと違い白いワンピースタイプの服を着ていた。


「お礼なんていいよ。それより今はちょっと大変なんだ。話なら後に・・・」


そこまで言ってショウは気づいた。

目の前にいる巫女には特別な力があるではないか。


「いや、やっぱりちょっとお願いしたいことがあるんだ。君にしか頼めない・・・大事なことが」


ショウは巫女の肩を掴むと真剣な眼差しで巫女の瞳を見つめる。

巫女はそんなショウの態度に驚いていたが、やがて決心したのか目を閉じて小さくうなずいだ。

目を閉じて、顔を真っ赤にしながらショウの方を向いている。

よく見れば唇を少しだけこちらに突き出している気がする・・・どうやらまた勘違いさせてしまったようだ。

ショウがどう説明しようか悩んでいると、背後からとてつもなく不穏な気配を感じた。

ショウが恐る恐る振り返ると、ベッドの上で寝ていたはずの聖女が上半身を起こしこちらを見ていた。


「ショウ様の魅力を一番理解しているのは私だというのに少し目を離すとこんなことになるんですからこれはもう一生そばにいないとだめですねもう少し指輪を改良して離れたら痛みがはしるようにでもしましょうかそれとも・・・」


聖女がすわった目で何やらブツブツと呟いていた。

っというか離れたら痛みがはしるって、もはや呪いの装備かなにかだと思うんだが・・・


巫女の誤解を解いて聖女を落ち着かせた後、ショウは改めて状況を説明した。


「っというわけで、スライムちゃんを探すのを手伝ってほしいんだ。巫女は不思議な力があるだろう?それでなんとかならないか?」


ショウの問いかけに巫女は頭に人差し指を当てて悩み始めた。

聖女もショウの話を聞いて考え込んでいた、何か手はないだろうか。

しばらく考えた後、巫女が申し訳なさそうに口を開いた。


「すみません勇者様。私のお告げではスライム様の行き先はわかりません・・・。私が知りたいことを教えてくれるわけではないのです・・・。ですが!お任せください!この国の英雄である勇者様の大切なスライム様ですから、エルフの国の総力を上げて探してみせます!」


巫女の力ではだめだったが、エルフの国総出で探してくれるという申し出はありがたい。

ショウが巫女にお礼を言うと、聖女も負けじと口を開いた。


「ショウ様、そういえば魔王を倒したお礼をしていませんでいたね。お父様に頼んで、スライムちゃんの行方を捜索させましょう」


巫女と聖女は部屋を出ていった、すぐに手配に移ってくれるのだろう。

人手は多いほうがいい、これで見つかる可能性は高まったはずだ。


「早く見つかるといいけど・・・」


ショウはひとり残された部屋で、スライムちゃんが入っていた箱を見つめていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る