第59話 ???の地下〜聖女のほうが怖かった件〜

ショウはカタナを抜き老婆だったものへと向き合う

口からよだれを垂らし獣のように唸っている、もはや魔物とでも呼んだほうがいいだろう。


「危ないからちょっと下がっててくれ。大丈夫、すぐに終わるよ」


恐怖で言葉が出ないのか、巫女は静かに頷くとショウから離れた、これで彼女が巻き込まれることはないだろう。


「さてと、どうしようかな・・・」


今のショウであれば一撃で倒せるだろう。

カタナでそのまま斬りつけてもよし、魔力を込めて真空刃をとばしてもよし、なんなら素手でも倒せそうだ。

だが、それでは巫女に汚いものを見せることになってしまう。

この状況だけで震えるような少女だ、出来れば見せないで済む方法はないものだろうか。

ショウが悩んでいると、魔物が雄叫びを上げながら飛びかかってきた。

手に伸びた鋭い爪で床を叩きながら、まるで四足獣のように迫る。

ショウはカタナで爪を受けとめて、その突進を難なく受け止める。

予想はしていたが魔物の力は弱い、これなら楽勝だ。

受け止めているだけで爪にカタナが食い込み始めた、迷っている暇はない、それに巫女は怖がっていた、であればさっさと終わらせてあげたほうがいいだろう。


「巫女様!怖いだろうけど目を閉じてくれ!」


ショウは叫び終わると同時にカタナへ力を込めて爪を切断すると、がら空きの首めがけて一気にカタナを振り抜いた。

魔物の首がゴトリと音を立てて床へ転がり、巨体がズシンという音を立てながら力なく地面へ倒れた。


「あっけなかったな、まぁ万全だったしこんなもんか」


巫女の方を見ると、うずくまって顔を隠すようにして目を閉じていた、小さな体がプルプルと震えている。

そんな巫女の様子を見てショウの緊張が緩んだ瞬間、なぜか頭に衝撃が走った。

衝撃で床が割れショウの足が膝まで埋まる、上半身をひねって振り返ると、なんとそこには首を切り落とされた魔物が立っていた。

首からの出血はなく、肥大した岩のような拳を持ち上げていた。

驚いているショウ目掛けて、その拳が何度も振り下ろされる、そのたびに部屋全体が揺れまるで地震でも起きているようだった。


「地震です!勇者様!大丈夫ですか!?」


巫女の叫び声に気づいたのか魔物が動きを止める、あるはずのない顔を巫女に向けているようだった。

魔物が巫女へ向けて踏み出したその足を、ショウが腰まで地面に埋まったまま掴み、腕の力だけで投げ飛ばす。


「大丈夫だから!しっかり目を閉じてろよ!」


ショウは投げ飛ばした反動を利用して地面から脱出すると、立ち上がろうとしていた魔物の体を踏みつけ地面へと押し付けた。

首を切り落としたというのに変わらず暴れまわっている、どうすれば死ぬのだろう。


「首がだめなら、ここだ!」


ショウは心臓目掛けてカタナを突き立てたが、魔物はまったく動きを止めない。

もしかして弱点はないのだろうか、だとしたら面倒だ。

暴れる魔物を押さえつけながら考えていると、ふと、切り落とした首が見当たらないことに気づいた。


「もしかして・・・」


ショウは試しに魔物の右腕を斬り落とす。

斬り落とされた右腕はしばらく地面に落ちていたが、すぐに黒い塵となって消えてしまった。


「やっぱりだ!こいつは多分体の何処かに本体があるんだな!」


そうと決まればやることは一つだ。

ショウは魔物の体に何度も何度もカタナを突き立てた。

突き刺すたびに血が飛び、ショウは返り血で真っ赤に染まっていった。

何度目かわからないが、カタナが硬いものにぶつかる感触があった。


「ここだ!」


ショウはカタナを抜くと魔物の体に手を突っ込み、手探りで硬い感触の物を引っ張り出す。

それは、老婆の肉体に取り込まれたはずのナイフだった。

ナイフを抜かれた魔物の体は動きを止め、一瞬の内に黒い塵となって消えてしまった。


「やっと終わった・・・」


ショウは血だらけのままナイフを手に持ちつぶやく、強さこそ大したことはなかったが、死なないというのはなかなか面倒だった。


「終わったんですか!勇者・・・・さ・・・ま?


俺のつぶやきが聞こえたのか、巫女が顔を上げた。

だが、血だらけのショウを見た途端その顔からすぐに血の気が引いていき、気を失ったのかパタリと倒れてしまった。


「あー・・・トラウマにならないといいけど」


ショウは気絶した巫女を抱きかかえて外へと向かう、途中の通路で気絶していたダークエルフたちは、呪いが解けたのかエルフに戻っていた。

どうやら老婆が死んだことで呪いも解けたようだ、これならば地上の戦いも終わっていることだろう。


秘密の通路の入口では聖女が待っていた。

血だらけのショウを見た聖女が慌てて回復の魔法を唱えすぐさま放つ。

ショウは無傷だったので効果はなかったが、背負っていた巫女へは効いたようだ。

魔法がかけられた瞬間に意識を取り戻し、ぼんやりとした目で周囲を見渡していた。

気がついた巫女を地面へ下ろすと、血だらけのショウの姿を見た瞬間巫女が抱きついてきた。


「勇者様!死なないでください!」


巫女はショウの腰に回した手に力を込め、ショウのお腹に顔を埋めて泣いていた。

どうやらショウが大怪我をして血だらけになっていると

思ったらしい。

そんな二人を見ている聖女の握る杖から、みしりという音が聞こえてきたのは気のせいだろうか・・・気のせいだということにしておこう。

巫女をなんとか落ち着かせたあと、ショウは地下での出来事を聖女へ説明した。


「・・・というわけで、とりあえずこの国の魔王騒動は終わりだ」


説明しているショウの手には、老婆が持っていたナイフが握られている、それを聖女が興味深そうに眺めていた。


「このナイフはどうやら呪われているようですね。話を効いた限りでは危険なもののようですし、解いておきましょう」


ショウからナイフを受け取った聖女は、魔法を唱えて小さく杖を振り下ろす。

杖の先端から放たれた光がナイフを覆う、光が消えると、なんの変哲もないただのナイフへと変わっていた。


「これで大丈夫です。ショウ様の無事も確認できましたし、私は怪我人の手当に戻りますね。巫女様も、一緒に行きましょう。あなたの姿を見れば皆も安心するはずです。さぁさぁ」


聖女が巫女の手を引いていく、聖女にしては珍しく強引だったが、怖いのであまり理由は考えないようにしておこう。


「何はともあれ、あとはこの騒動のあと片付けだな。俺は必要なさそうだし、風呂でも入って部屋へ戻るか」


一人残されたショウは、とりあえず体をきれいにするべく、お風呂へと向かうのだった。

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