第56話 ???の湖~見た目で判断してはダメな件~

「今日も疲れたな」


ショウは宿屋のベッドでスライムちゃんを抱きしめていた。

あのあと気絶していた聖女を起こし、エルフの解呪と回復をお願いした。

聖女の手際はかなり良くなっていたので、1時間程度で全員を回復することができた。

目が覚めた彼らに、ショウはあることをお願いした。


「さて、俺と聖女のおかげで魔王の手から解放された君たちに、早速だがお願いしたいことがある」


気がついたエルフ達の前でショウが呼びかける。

魔王の手から解放してもらったエルフ達は、何でも命令してくれと言わんばかりの歓声を上げていた。


「君たちのやる気は分かった。では早速本題に入ろう。君たちにお願いしたいのは~これだ!」


ショウは大げさな手振りを交えてある方向を指さす。

ショウが指さすその先には、主を失った馬車があった。

エルフ達から先ほどとは打って変わってざわめきが起こった。

何をさせられるかわかったのか、中にはため息を吐いて肩を落としている者もいた。


「察しのいい諸君は分かったかもしれないが、君たちが殺した馬の代わりに町まで馬車を引いて欲しい。簡単なことだろう?」


ショウの呼びかけにエルフ達のざわめきが一層ひどくなった。

中には怒り出しそうなエルフもいたが、自分たちが馬を殺してしまったことに罪悪感を覚えているらしく、渋々ではあるが全員馬車を引いてくれた。


「馬車は置いて帰ろうとも思ったんだけどやっぱり必要だからな、それに操られていたとはいえ馬を殺したのは彼らだし、仕方ないさ」


ショウはエルフ達がひく馬車の上で聖女に声をかける。


「確かにそうですが・・・さすがにこれは申し訳ないですね。みなさん、あまり無理はしないでくださいね」


申し訳なさそうにエルフ達に声をかける聖女だが、馬を殺されたことに怒っているのか、エルフ達が馬車を引くことに賛成していた。


馬車を引くエルフ達の反応は様々だった。

ショウに対して明らかに敵意をむき出しにしているもの。

不満を言いながらも馬車を引いているもの。

聖女の方をちらちらと見ながら頬を染めて馬車を引くものもいた。


そんなエルフ達の努力もあって、なんとか町まで馬車を持って帰ることができたのだが、いかんせん馬よりは遅く、町へ着いた時にははもう日が落ちてしまっていた。

仕方なく、ショウと聖女は昨日と同じ宿屋へ泊まることにした、もちろん今日は部屋は別々だ。


「しかしエルフ達にも人気があるなんて、女の子のタイプは共通なのかなぁ」


エルフ達はすぐに首都に戻るというので、町の入り口で別れた、何人かはすっかり聖女に惚れてしまったらしく、名残惜しそうに帰って行った。

ショウが聖女のことを考えていることが分かったのか、スライムちゃんがびしびしとお腹を打ち付け始めたので、ショウはあわてて話題を変えることにした。


「そう言えば、地図の×印も残り一つだね。今日の感じからすると魔王はいないと思うけど、とりあえず行ってみようか」


ショウは地図を広げて印を確認する。

スライムちゃんも地図を見ているのか、飛び跳ねるのをやめてくれたので一安心だ。


「明日確認したら、巫女様に報告しに行こうか。新しいお告げがでているかもしれないからね」


ショウは広げていた地図をしまってスライムちゃんを抱きしめる、相変わらずスライムちゃんのレベルはどんどん上がり続けているが大丈夫だろうか。


「魔王を倒したら、原因を調べようか。何もないといいんだけど」


レベルがあがり続ける以外の症状は特にないので、心配することもないだろうが何かあってからでは遅い。

さっさと魔王を倒そう、そう決意して眠りにつくのだった。


翌朝

ショウが準備を終えて外にでると、聖女は馬車に乗っていた。

エルフではなくちゃんと馬がつながれている、話を聞くとギルドに言って新しく譲ってもらったらしい。


「私たちは巫女様の命で魔王討伐を目指している勇者達ですからね。ギルドの方々も快く譲ってくださいましたよ」


聖女のおかげですぐに町を出発することができた。

今日行く場所は最後の×印だ、ここに魔王がいなければまた一から探さなければならない。


「まぁダメで元々、とりあえず言ってみるかぁ」


魔王がいないという確信はあるが、エルフ達の調査を無碍にするわけにはいかない。


朝から馬車を走らせて、目的の場所へは昼過ぎに着いた。


「ここも何もありませんね・・・」


聖女は地図を広げて何度も場所を確認するが、やはり場所を間違えているわけではない。


「ってなると、ここも罠かな」


ショウと聖女がたどり着いたのは、森の中の湖だった。

周辺には怪しい物は何もない、となれば昨日と同じく罠だろう。


ショウがあたりを警戒し始めると同時に、何やら湖が騒がしくなってきた。

風が吹いているわけでもないのに激しく波打っている。


「私は隠れてます、ショウ様、早く戻ってきてくださいね」


聖女は馬車と一緒に湖から離れてもらった、昨日のように馬を巻き添えにされてしまってはたまらない。

聖女が離れると湖のうねりが一層激しくなる、地面が揺れるほどの衝撃の後、湖面から何かが飛び出した。

弾けた水が霧となり辺りを包み込む。

霧が晴れていくにつれ、湖から出てきた物の輪郭が露わになっていった。

その姿を見てショウが表情を曇らせる、過去の嫌な思い出がよみがえったからだ。


「これは・・・久々に強そうな相手だな」


ショウの目の前で、白い大蛇が首をもたげていた。

ショウが以前にダンジョンで戦った蛇よりも大きい、これは強敵の予感がする。

よく見ると蛇の上に誰かいるようだ、黒いローブを身にまとっているところを見ると、どうやらダークエルフだろう。


「よく来たな勇者。私とこのハクリューの手で地獄へ送ってやろう」


ショウは久々の強敵の予感にカタナを抜いた、どうやら手加減する必要はなさそうだ。


「戦う前に一つだけ聞いておきたい、そいつは魔物なのか?」


ショウはハクリューと呼ばれた大蛇へカタナを突きつける、ダークエルフはハクリューから降りて対岸へと避難していた。


「ハクリューは私が手懐けた強力な魔物だ。人間ごときが何人束になろうがかなう存在ではない」


ショウはその言葉を聞いて安心する、魔物であるならば何も遠慮する必要はない。


「じゃあ手加減はいらないな、殺されても恨まないでくれよ」


ショウはカタナを振り上げてハクリューへと斬りかかる、ハクリューも大きく口を開き、牙で応戦しようとした。

カタナと牙がぶつかり合い、火花を散らす・・・と思ったのだが。

聞こえてきたのはダークエルフの叫び声だった。


「馬鹿な!レベル300を越える私のハクリューが!」


ショウの一撃により、ハクリューは牙どころか首を切り落とされていた。

ショウが対岸のダークエルフのところへ着地すると同時に、ハクリューは黒い霧となり消えてしまう。


「見かけ倒しだったか・・・。あの姿が相手だとどうしても緊張しちゃうんだよなぁ。まぁ本人より強い魔物が従う訳ないんだから、冷静に考えればそうだよな」


ショウはカタナをしまいダークエルフへ近づいていく、ダークエルフは自慢の魔物をやられたショックのせいか膝をついて呆然としていた。


「私の・・・ハクリューが・・・一撃で。ありえないありえないありえない」


ここまで悲しまれると何だが悪いことをしてしまった気になってくる。


「大丈夫だとは思うけど万が一ってこともあるし、少しだけ気を失っててくれ」


ショウはダークエルフの頭を軽くたたき地面へとたたきつける。

気を失ったことを確認すると聖女を呼びに行った。


「結局、いただいた地図の場所には魔王がいませんでしたね」


帰りの馬車の中で聖女は地図を広げていた。

今日でエルフ達が調べてくれた魔王がいそうな場所はすべてまわった。

あまり期待していなかったが、それでもすべて空振りだと悲しいものだ。


「まぁ仕方ない。とりあえず今日は近くの町へ戻って、明日は巫女様に会いに行くか。エルフ達もだいぶ魔王から取り返したし、またお告げもあったかもしれないからな」


人出も増えたことだし、お告げがないならまた調査にでてもらおう。


夕日が差し始めた頃、ショウと聖女は町へ着いた。

馬車を降りたところで、あわてた様子のギルド員が駆け寄ってくるのが見えた。

何やら様子がおかしい、どうしたというのだろうか。


「勇者様、聖女様!お待ちしておりました!私について来てください!」


ショウと聖女が連れてこられたのは、この町のギルドだった。

中ではみな慌ただしく動いていた、怪我人もかなりいるようだ。

奥の部屋へ通された二人は、ベッドの上に寝かされている人物を見て驚いた。

そこには体中に包帯が巻かれたサンソンが寝かされていた。

所々血が滲んでいる、かなりの重傷のようだ。

彼は二人が来たことに気づいたのか、弱々しく口を開いた。


「勇者様、それに聖女様・・・。あなた方にお知らせしたいことがあります。巫女様が・・・巫女様が魔王の手に落ちました」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る