第55話 ???の草原~何もなかった件~
聖女は予期せぬ来訪者に少しだけ警戒しているようで、ショウのうしろに隠れていた。
「そんなに警戒しないでくれ、もう襲いかかったりしねぇよ」
サンソンは両手をあげて肩をすくめる、敵意を感じないので本当に争う気は無いようだ。
よく見ると彼の服は汚れていた、ここへくるまでに何かあったのだろうか。
「争う気はないのは分かったけど何の用だ?わざわざ嫌いな人間に会いに来る理由なんて無いだろ」
ショウの言葉にサンソンはまた不敵な笑みを浮かべた、一体どうしたというのだろう。
「まぁ当然の反応か。わざわざ会いに来たのは、お前に一言言っておきたいことがあったからさ」
どうせろくなことではないだろうが、仕方ないし聞いてやろう。
聖女も警戒を解いたのかショウの横に立っていた。
ショウも聖女も、サンソンが話すのを黙って待っていたが、しばらくの間沈黙が続いた。
その間もサンソンは悩んでいるのかぶつぶつつぶやいたり、頭をかいたりしていた。
「言わないなら俺たちは行くぞ。今日もまた魔王を探しに出発しなきゃいけないからな」
しびれを切らしたショウが聖女をつれて馬車へ向かおうとすると、ようやくサンソンが口を開いた。
「弟を救ってくれて本当に感謝している、ありがとう人間の勇者よ!」
驚いたショウがサンソンの方を見ると、彼はショウに向かって頭を下げていた。
ショウと聖女が驚いていると、サンソンが今度は膝をつき頭を下げたまま話を続けた。
「今までの非礼を詫びます。あなたこそ伝説の勇者だ。どうか我らを救うため力をお貸しください」
どうやら彼は弟の命を救われたことで、ショウを本物の勇者として認めたようだ。
「今更虫のいい話だってのは承知しています。でもこの国を救うにはあなたの力が必要なんです。罰ならいくらでも受けます。どうか!」
ショウの言葉を待っているのか、サンソンは頭を下げたまま動かなくなった。
「そんなこと今更言われてもなぁ・・・」
ショウは悩んだ。
なぜなら、お願いされなくても魔王を倒すつもりだし、そもそも別に彼の態度などなんとも思っていなかったからだ。
なので罰を与えるつもりなど全く無い。
ショウがどうしようか悩んでいると、聖女がサンソンに近づいてき、彼の肩に手をかけて優しくほほえんだ。
「彼はこう言っています。今までの行いを悔い改め、ともに魔王を倒すため協力してくれればそれで良いと」
驚いたサンソンが顔を上げる、ショウの方をじっと見てきたので、相槌を打つようにうなずいてあげた。
「そんなことで良いのか・・・やっぱりあなたは、本当に勇者だな。私はちょっとばかし肩を痛めてしまって戦闘では役立てないが、何か協力できないか探してみよう。本当にありがとう」
そう言うとサンソンは町を出て行ってしまった。
サンソンを見送った後、二人は今日の目的地へ向けて馬車を走らせるのだった。
「しかしびっくりしたな」
ショウは手綱を握りながら隣に座る聖女に声をかける。
聖女の方はというと、先ほどのことなど無かったように地図を眺めていた。
「まぁ彼は元々ショウ様を嫌っていたわけではなかったですからね。何かきっかけさえあればすぐにああなると思ってましたよ」
ショウは驚いて聖女の方をみる、聖女はショウの視線に気づくと、地図から顔をそらし頬を赤らめた。
「そうなのか?てっきりめちゃくちゃ嫌われてるのかと思ってたんだけど違うのか?」
ショウは思わず聖女の方へ身を近づけた。
聖女は赤くなった顔を地図で隠しながら少しだけ身をひいたが、近づかれたことは嬉しいようだ。
「彼が嫌っていたのは力の無い自分自身です。同族を魔王の手から守れず、操られた同族を殺すことしかできない・・・おそらく彼はかなり悩んでいたでしょう。そんな時に勇者と呼ばれるあなたが現れた。そして自分にはできなかった同族を捕まえるということをいとも簡単にされてしまった。嫉妬と自責の念が混ざってあんな態度をとってしまったんだと思いますよ。弟を助けられたことで、嫉妬が消えて素直になったんでしょう」
確かに、聖女の言うとおりかもしれない。
自分が悩んでいることをいとも簡単に解決するやつが出てきたのだ、嫉妬しても仕方ないだろう。
ショウは、もしも聖女や騎士団長たちが魔王に操られたとして殺せるだろうか・・・考えるまでもない、無理だ。
「今度あったら優しくしてやるか」
サンソンへ同情しながら、目的の場所へ馬車を走らせるのだった。
町を出て数時間、ようやく目的の場所へたどり着いたようだが・・・
「地図によるとここですね。でもここに何があるんでしょうか?」
聖女は地図を広げて何度も確認したが、×印は間違いなくここを指している。
「何もないぞ」
ショウは馬車を降りてあたりを見渡す、360度見渡してみたが何も無い。
地図を頼りにたどり着いたのは、森の中に現れた半径20メートル程の草原だった。
「印をつけ間違えていたのかな、今日は別の場所へ向かうか」
ショウが馬車へ戻ろうとした瞬間、地図を見ている聖女の顔めがけて何かが飛んできた。
ショウは手を伸ばし飛んできた何かを掴む、ショウが掴んだもの・・・それはエルフ達が使う矢だった。
「どうやら罠みたいだな。誰かいるんだろ!出てこいよ!」
聖女が地図をしまい杖を構える、もちろん自分を守ってくれたショウへ熱い視線を向けるのを忘れない。
ショウも周囲に気を配りはじめ、あたりの空気が緊張に包まれた。
「聖女さえ殺せれば後は楽だと思ったのだが、そううまくはいかないものだな」
矢が飛んできた方の木の陰から、黒いローブに身を包んだダークエルフが姿を表した。顔をフードとマスクで覆っているため表情は全く読めない。
「あんな遅い矢を俺が止められないとでも思ったのか?魔王の手下になるとバカになるみたいだな」
ショウの言葉を聞いたダークエルフは指を鳴らした、それを合図にショウ達を囲む木々の陰から次々とダークエルフが現れた。
全部で50人以上はいるだろう。
「まさか、貴様は化け物だから簡単に殺せるとは思っていない。だが、聖女の方はどうかな?」
どうやら狙いはショウではなく聖女のようだ。
ショウは聖女が強く杖を握りしめる音が聞こえた。
「心配するな、俺が守ってやるよ」
ショウは後ろを振り返って笑顔を見せる、彼女を殺されてしまっては、エルフを救うことはできなくなってしまう。
「ショウ様が、私を!」
聖女は嬉しさのあまり顔から湯気を出しながら左右に揺れていた。
大丈夫だろうか・・・
「大した自信だが、この数の矢を防ぐのは貴様でも無理だろう。聖女さえ殺せば我らの目的は達成されるのだ」
先ほどのダークエルフの合図で、周りを囲んだダークエルフ達が一斉に矢をつがえる。
「俺から離れるなよ」
ショウは小声で聖女へ指示を出し、聖女を背中に隠すようにして立った。
「あの化け物は無視しろ!目標は聖女だ。我らから魔王様の力を取り除くにくき存在を排除しろ!放て!」
合図とともに聖女めがけて一斉に矢が放たれた。
放たれた矢は馬車や馬を容赦なく貫いたが、ショウと聖女を貫くことはなかった。
「上だ!」
数十の矢がショウたちめがけて迫る瞬間、ショウは聖女を抱き抱えて空高く飛び上がっていた。
「あいつら、ひどいことしやがる!」
ショウは倒れた馬を見ながら怒りを覚える。
さすがに馬まで抱えるわけにはいかなかったので見捨てるしかなかった。
「死んでいなければ私が治します!それよりこれからどうするんですか?」
聖女はここぞとばかりにショウに抱きついている、昨日といい今日といい聖女にとっては最高だろう。
しかしそれは一瞬の幸せだった。
「そうだな、俺が奴らを倒してくるから、聖女はここで待っててくれ」
ここで待てと言われても、ここは地面から遠く離れた空中だ。
不思議そうな顔をしている聖女を、ショウは空高くめがけて投げ上げた。
悲鳴を上げながら上空へ上がっていく聖女の反動で、急速に地面へと向かうショウ。
着地の衝撃であたりに土煙がたちこめる。
「見えなくてもやつはあそこにいる!放て!」
土煙の中心に向けて一斉に矢が放たれる、だがショウにとって矢など全く問題にならない。
飛んでくる矢をもはやよけることすらせずに走りまわり、次々とダークエルフ達を倒していく。
「よし!これで全員だな!間に合った!」
手際よく全員気絶させ後、落下してきた聖女を受け止める。
落ちてくる時やけに静かだと思ったら、どうやら気絶しているようだ。
「馬は・・・ダメか、ごめんな」
馬は矢を受けて息を引き取っていた。
これでは聖女の魔法でも手の施しようがない。
とりあえず、聖女にエルフ達の呪いを解いてもらうことにしよう。
気絶している聖女を何とか起こすと、ダークエルフの治療を任せる。
その間にショウは馬を埋葬してあげるのであった。
「でも今回は変だったな」
いつもなら怪しい建物とか洞窟があるのだが、今日はただの平原だ。
いくら噂があるとはいえ、調査したのならこんなところに魔王がいるとは考えないだろう。
何だが少しだけ、嫌な予感がした。
そしてショウの予感は、嫌なときほど当たるのであった。
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