第57話 エルフの城~魔王はいなかった件~

ショウはエルフの城を目指し森の中を駆けていた。

街道を通らずに、最短距離で城を目指す。


「どうなってるか分からないけど、とにかく急がなきゃ」


ショウは走りながらサンソンの話を思い出す。



「巫女様が・・・魔王の手に落ちました」


サンソンはそれだけ言うと意識を失ってしまった。

危機を知らせるためとはいえ、相当無茶をしたようだ。


「もう少し情報が欲しいな、たのめるか?」


ショウが隣に立つ聖女に声をかけると、聖女はすでに魔法を唱えていた。

回復の魔法をかけてもらったサンソンは即座に目を覚ました。

包帯を取ると傷は綺麗に消えている、これならまだまだ喋れるだろう、

聖女は他のエルフ達の治療に行きたいと言うので、サンソンからはショウだけで話を聞くことにした。


「あれだけの傷が一瞬で治るとは、さすが聖女様の魔法です。これで詳しくお伝えできます」


傷は治ったが体力は回復していないのか、サンソンはベッドに座ったまま話を続けた。

彼の話によると、ショウ達とわかれた後にエルフの城へと戻ったそうだ。


「そして私が巫女様に、勇者様と聖女様がそろそろ地図を全て回りそうだと報告した時に、やつが動き出したんです。あいつはずっと味方のふりをしながら機会をうかがっていやがったんですよ!」


サンソンが興奮しだしたので頭を叩いて落ち着かせる、何度か深呼吸させた後続きを話してもらった。


「勇者様も会ったことがあるでしょう、巫女様の横にいつも立っているあの女!あいつが裏切ったんですよ!」


巫女の隣にいた女とはあの厳しそうなエルフのことだろうか?


「彼女も魔王に操られたって言うのか?巫女の護衛を任されるぐらいだし相当強いんだろ?」


魔王に操られる条件は分かっていないが、ショウから見た彼女は至って普通のエルフだったはずだ。

操られていないのならば、裏切る理由など無いはずだが・・・。


「私もそう思っていたんですが、おかしなことがあるんです。あいつのことを全く知らないんです。私だけじゃない、他のエルフ達もあいつがいつからいるのか、名前すら知らないんです!」


サンソンは興奮しすぎたのかせき込んでしまう。どうやら嘘を言っているわけではなさそうだ。


「とりあえず俺は巫女のところへ行ってみるよ。あんた達は聖女とこの町で待っててくれ」



そうしてショウは、現在森の中を全速力で走っているのである。

町を出て1時間、そろそろエルフの城へ着くはずだ。


「おいおい嘘だろ・・・」


ショウの目の前には信じられない光景が広がっていた。

あれだけ賑わっていた町には人影はなく、至る所から火の手が上がっていた。

ショウは倒れている人たちには目もくれず、一目散に城を目指す。

傷ついた人を放っておくのは心苦しかったが、聖女がいないのではどうしようもない。

それよりも先に、裏切り者をしとめる方が先決だと思ったのだ。

ショウが城へつくと、中ではダークエルフ達が金品を漁っているところだった。


「間抜けな勇者が戻ってきたぞ!ついでにやってしまえ!」


ショウに気づいたダークエルフ達が飛びかかってきたが、彼らなど敵ではない。

一撃で気絶させながら謁見の間ところを目指す、もういないだろうが手掛かりだけでもないものだろうか。


「確かここだったよな」


巫女と謁見していた部屋のドアは、この騒動の中でも傷一ついていなかった。

ショウは念のためカタナを抜いてから中へ入っていく、部屋の中もドアと同じように、この騒動とは無関係のように静かだった。


「よく来たな、人間の勇者よ」


巫女が座っていた椅子に、見たことのあるエルフが座っていた。

巫女の隣に立っていた女のエルフ、見た目に変化がないところを見ると、ダークエルフにはなっていないようだ。


「巫女はどこだ?」


ショウは無駄だと分かっているが、念のため尋ねてみた。

カタナを向けられているが、エルフは余裕の表情を浮かべている。


「安心しろ、まだ生きているよ。彼女はあの方への大切な生け贄なのでな、丁重に扱っているさ。まぁ騒ぐなら死なない程度に痛めつけて良いと命じてはいるがな」


立ち上がりショウへと近づいてくるエルフ。

見た目や気配からは全く力を感じない、すぐにでも斬り殺せてしまいそうだ。


「私が戻らなければ巫女を殺せとも命じてある、変なことは考えないことだ」


ショウは仕方なくカタナをしまう。

捕らえて情報を吐かせようとも思ったが、怪しまれて巫女を殺されてしまう可能性があるので、下手なことはできなかった。


「お前に聞きたいことがある、何でエルフ達を裏切ったんだ?お前も同じエルフだろう」


ショウの問いかけに笑い出すエルフ、ひとしきり笑った後、エルフが指をパチンと鳴らした。

それを合図に、エルフの見た目が変わっていく。

金髪は白く染まり、特徴的な耳は人間の耳へと変わっていく。

整った顔に皺が刻まれていき、見る見るうちに人間の老婆へと変わってしまった。


「あんなやつらと一緒にしないで欲しいね。ワタシはお前と同じ人間だよ」


老婆はいつの間にか手にしていた杖をショウへと向ける、服装もダークエルフのような真っ黒なローブへと変わっていた。

ショウは老婆の魔法の技を見て一つの仮説を立てた。


「なるほどな。魔法で見た目を変えて記憶をいじり、エルフ達を騙してたってわけか。エルフ達がかかってた魔王の呪いとやらもあんたの仕業だろう?」


問いかけられた老婆は感心したような声を上げ、ショウに向けていた杖を下ろす。

顎に手を当ててにやにやと笑い出した。


「力だけの馬鹿かと思っていたが、案外賢いじゃないか。お前さんの言うとおり、あれはただの狂化の呪いさ。もちろんちょっとばかし手を加えているがね」


老婆の口振りからすると、どうやらこの国の魔王騒動は、この老婆一人の仕業のようだ。


「じゃあ魔王とやらはいないんだな、道理でどこを探してもいないわけだ。それで、こんなことをした理由は何だ?エルフを滅ぼしたいだけか?」


魔王がいないのであれば、あとはこの老婆を倒して巫女を救えば終わりだ。

ショウは気楽に考えていたのだが、どうやら簡単には終わらないようだ。


「確かに魔王はこの地にはおらんよ、だが、魔王など足下にも及ばないあのお方がまもなく降臨される。その時までせいぜい、愚かなエルフ共と遊んでいるといい」


ショウがどういうことか尋ねようとした瞬間、老婆は自分の影の中に溶けるように消えてしまった。

元々気配が薄かった老婆だったが、まさか魔法でできた虚像だったとでも言うのだろうか。


「考えても仕方ないか、とりあえずこの騒動を収めないとな」


老婆が言っていたあのお方がなんなのか分からないが、今は目の前のことを片づけなければ。

それからショウは聖女達が到着するまでの間、暴れ続けているダークエルフ達と戦い続けたのだった。



「事情はわかりました、ここは私達に任せてください。ショウ様は巫女様の救出をお願いします」


ショウは聖女に事情を説明すると、さっそくダークエルフ達の対処に取りかかった。

幸いにも暴れているダークエルフ達は弱かったので、聖女とともにやってきた百槍などの強いエルフ達がいれば対処できるだろう。


「そう言うわけで、巫女はすでに連れ去られていたよ。どこか連れて行かれそうなところに心当たりないか?」


ショウは、聖女と同じく説明を聞いていたサンソンに尋ねる。

ショウも聖女もこの国の人間ではない、巫女が連れ去られた先など見当もつかない。

エルフの国の彼の知識と経験に頼るほかなかった。

しばらく考え込んだ後、サンソンが重い口を開く、どうやら一つだけ心当たりがあるようだ。


「私も噂でしか聞いたことがありませんが、代々の巫女しか入れないお告げを受ける儀式を行う部屋があるそうです。何らかの儀式を行うなら、そこがうってつけでしょう」


儀式を行う専用の部屋・・・確かに確率は高そうだ。

サンソンの話を聞いたショウは、早速専用の部屋を探し始めた。


「多分城の中のどこかにあると思うんだけど・・・」


城の中を走り回り、扉という扉を開けていく。

一通り見終わった後、ショウは謁見の間に戻ってきた。


「やっぱりここが怪しいよな」


儀式を行うような部屋は見あたらなかった、それどころかダークエルフ達の手によってぼろぼろにされていて、部屋として使えるところの方が少なかった。

そんな状態なのに、この謁見の間だけは傷一つつけられていない。

ショウがくまなく部屋の中を探すと、巫女が座っていた椅子の下から、風が吹いていることに気づいた。

椅子を動かそうと押したり引いたりしてみたがびくともしない、他の箇所も調べたが、ここしか怪しいところがなかった。


「非常事態だし仕方ないよな、何もなくても怒らないでくれよ」


ショウは椅子の背後へ回ると力任せに椅子を蹴り飛ばした。

椅子は粉々にふきとび、隠れていた階段が露わになった。


「さっさと巫女を助けて、この偽魔王騒ぎを終わらせるか」


ショウはカタナを抜いて、階段を下りていくのだった。

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