第53話 ???の塔〜技術にも限界はあった件〜
上の階に登ったショウを待っていたのはダークエルフだった。
階段の前に立ちはだかりショウを睨んでいた。
「待っていたぞ、勇者!ここが貴様のは」
「墓場ね、はいはい」
おなじみのセリフはもう聞き飽きた。
振り下ろされる剣に拳を叩きつけ破壊し、驚いているダークエルフの頭を軽く叩いて気絶させる。
気を失ったのを確認すると、ショウはさっさと次の階へ向かった。
次の階では剣と盾を持った騎士風のダークエルフが立っていた。
「ここを通りたけれ」
「はいはい、邪魔邪魔」
ショウは立ちはだかるエルフを盾ごと殴り飛ばす。
殴られた瞬間盾は粉々に砕け散り、衝撃を受け止めきれずダークエルフは壁へと転がっていく。
壁にヒビが入るほどの衝撃を受け、ダークエルフは動かなくなった。
ショウはその光景を見て腕を組んで少しだけ考えたが、すぐに結論は出た。
「大丈夫・・・多分!」
手加減したし大丈夫だろう、死ななければ大丈夫と聖女も言ってたしさっさと先へ行くか。
その後も同じようにダークエルフが立ちふさがっていたが、どれもショウにとっては相手にならなかった。
殴り飛ばし、蹴り飛ばし、投げ飛ばす。
誰も耐えられるものはいなかった、一撃で気を失わせ順調に塔を登っていく。
「だいぶ登ってきたな」
30階ほど上の階でショウは階段に座っていた。
この階のダークエルフはすでに床に倒れて気を失っていた。
ステータスを確認するとレベルが上がっている、それでもまだマイナス700以下なので、この程度の相手には苦戦しないだろう。
「そろそろ飽きてきたし、本当に壊しちゃだめなのかな」
そんなことをすれば塔の中のダークエルフ達は、ほとんど死んでしまうだろう。
できないと分かってはいるがついついそんなことを考えてしまう。
ショウにとってこの塔は今までのどんなダンジョンよりも面倒だった。
そんなことを考えながら休んでいると、聖女が階段を登ってきた。
「この階より下の人たちは全員回復して塔を出ていきましたよ、ショウ様もお怪我はしてませんか・・・って聞くまでも無さそうですね」
聖女は床に倒れているダークエルフに近づくと、すぐに魔法を唱え始める。
エルフたちに魔法をかけながら塔を登るのは相当きついだろう。
だが、聖女は汗一つかいていなかった。
そういえば闘技場では100人以上を回復したんだよな・・・
気になったショウは聖女のステータスをのぞき見してみた。
「―――すごいな」
聖女のレベルは300を超えていた。
体力は低いが魔力は桁違いに高い、これだけあれば100人の回復など容易いだろう。
ショウがステータスをみて驚いている間に、聖女はエルフの回復を終えていた。
「私のステータスはいかがでした?ショウ様に相応しい妻になれるように頑張ったんですけど・・・まだ足りないでしょうか?」
どうやら覗き見したことはバレていたたらしい。
まぁ彼女のステータスならショウの覗き見など拒否できるだろうから、わざと見せてくれたのだろう。
「妻に相応しいかどうかは分からないけど、それだけあれば十分だ。おかげで戦いに集中できる」
ショウの言葉を聞いた聖女は持っていた杖で顔を隠すようにしていた。
よく見ると頬を真っ赤に染めている、どうやら相当嬉しかったようだ。
彼女のステータスを見て納得した、死ななければ大丈夫ですと言ったのは嘘ではなかったようだ。
回復専門職がレベル300を超えるのは、並大抵の努力では不可能であり、彼女の努力が垣間見えた。
「じゃあここからは一緒に行くか、あともう少しで最上階だと思うし、さっさと終わらせて帰ろう」
外から見た塔の高さと1階層の高さを考えると、もうそろそろ最上階だろう。
聖女の回復もすぐに終わることがわかったし、一緒に行動したほうが良いだろう。
「わかりました。しっかり守ってくださいね」
ショウの手を引き階段へ向かおうとする聖女、一緒にと言ったが何も手をつないていこうと言うわけではない。
階段を登った二人の前に現れたのは、一人の年老いたダークエルフだった。
年齢のわかりにくいエルフだが、顔に深く刻まれたシワがその年月を語っていた。
短い白髪を後ろで縛り、鋭い眼光でこちらを睨んでいた。
袖のないぴっちりとした大きさの黒いシャツに、ゆったりとした大きさの黒いズボンを履いていた。
手に武器を持っておらず、靴すら履いていない。
服の上からでも鍛え上げられた逞しい肉体をしていることがわかる、まさか肉体が武器だと言うのだろうか。
ショウと聖女が呆気にとられていると、ダークエルフが声をかけてきた。
「ここまで勇者が登ってきたということは、下の奴らは死んだのか」
悲しそうに息を吐くダークエルフ、別に殺してなどいない。
それどころか聖女のおかげでピンピンしている。
「信じないかもしれないけど誰も殺してないよ、とりあえずあんたがここのボスで良いのかな?」
ショウはカタナを抜こうか迷ったが、素手の相手に武器を使うのは卑怯だと思ったので、仕方なく素手で向き合うことにした。
聖女にカタナを渡し後ろへ下がらせると、ショウはダークエルフへと向かっていく。
手を伸ばせば届く距離で睨み合う二人、いつ戦いが始まってもおかしくない緊張感があたりに漂っていた。
「殺していない・・・か。それはお前を殺してからゆっくり確かめるとしよう」
会話は終わったのか老人が構えた瞬間、ショウは目の前の老人の体が2倍以上に膨れ上がったような気がした。
ショウが身構えた直後、まだ無防備な体の中心に老人の拳がめり込んでいた。
ショウの足が床から浮き、後ろへと飛ばされる。
倒れる寸前で慌ててバランスを取り体勢を立て直す、ショウは一瞬何が起こったのかわからなかった。
それほどまでに老人の動きは素早かった。
「一撃必殺の私の拳を受けてなお立ち上がるか、今どきの者にしては実に良い。武具に頼らずになかなかに肉体を鍛えているようだな。これは久しぶりに
狂拳は床を踏みしめて力を込める、踏み込んだ際に床には放射線状にヒビが入っていた。
ショウが服の中を覗き込むと、老人の拳が当たったところがすこしだけ赤くなっていた。
物理的な衝撃もすごいがそれだけではない、食らった瞬間に魔力のようなものが体に入ってくるのを感じ取れた。
ショウは気を取り直し構える、先程は油断したが今度はそうはいかない。
反撃の一撃を食らわせるべく一足で距離を詰め、顔目掛けて拳を振るう。
当たると思った瞬間、狂拳がショウの腕に軽く触れた。
力が全くこもっていない、優しく触れただけなのだが、ただそれだけでショウの拳は軌道を変えられてしまった。
力任せの大ぶりだったため、少しだけバランスを崩したショウの隙を狂拳は見逃さなかった、ふらついているショウの足を払い、全身の体重を込めて体をぶつけてきた。
踏ん張ることが全くできなかったショウは床を勢いよく転がる、壁に大きな割れ目を入れたあとようやく止まった。
ショウは立ち上がり、服についた汚れを払う。
倒れたあと追撃することも出来ただろうに、凶拳は油断なく構えたままショウを待っていた。
「強いな」
ショウは目の前の老人を見て、思わず口に出してしまう。
別にショウはダメージを負ったわけではない、いつも(?)のように無傷だ。
力が強いとかそういうわけではない、技術がすさまじいのだ。
おそらくただの力比べであればショウと凶拳では比べ物にならないだろう。
力の差を埋めるだけの技術が凶拳にはあった、そのことにショウは驚きを隠せなかった。
「勇者、たしかにお前は強い。下の階の奴らがやられてしまうのも無理はないだろう。だが私は違う。ステータスの差が実力の差ではないことを証明してやろう」
凶拳の放つ気迫がさらに増す、それを見てショウはニヤリと笑みを浮かべた。
『久しぶりに―――楽しくなってきた』
ショウはこの時、この塔に入って良かったと初めて思えた。
力任せではない技術で戦う相手、魔物相手では味わえないこの感覚が、ショウはなかなか好きだった。
凶拳はショウが攻めてくるのを待っているようで、構えたまま全く動こうとしない。
待っていても決着はつかないし、さっきのように殴りかかればまた弾き飛ばされてしまうだろう。
ならばどうすればよいか―――ショウの出した答えは、とてもシンプルなものだった。
『触れられないほどの速度で殴ればいい!』
ショウは先程とは違い、速度を出すことに全力を込めることにした。
右膝を地面につけて体を落とし、右足の靴裏をしっかりと壁につける。
まるで走り出す直前のような格好から、一気に全身に力を込めて凶拳目掛けて殴りかかった。
ショウが踏み込んだ瞬間壁が吹き飛び大穴が開く、まるで矢のような速度で飛んでいったショウの拳は、凶拳を殴り飛ばし地面に横たわらせていた。
「いくら技術があっても、埋まらない実力差もあるものさ」
聖女は一部始終を見ていたはずだが、何が起きたか全くわからなかった。
しゃがみこんだショウの姿が消えたと思った瞬間、ショウの背後の壁が吹き飛び凶拳が地面に倒れていたのだ。
「よく分かりませんけど、ショウ様の勝ちですね」
とりあえず勝ったのなら問題はない、凶拳の解呪と回復をするとしよう。
地面に倒れて白目をむいて死にかけている凶拳を救うべく、魔法を唱え始めるのだった。
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