第51話 ???の城〜魔王討伐のためなら仕方ない件〜

スライムちゃんの箱が震える振動と、慣れない感触を感じてショウは目を覚ました。

スライムちゃんのような感触だがなぜか2つある―――それにいつもより重い。

地面で寝たので背中が痛い、そういえば昨日は宿で寝たんじゃなかったんだったな。

眠気眼で下を見るとショウの体に覆いかぶさるようにして聖女が眠っていた。


「そういえば昨日解呪を任せて寝たんだっけか。寝てるけど終わったのかな」


顔を動かして横を見ると、山積にしていたダークエルフたちはきれいに並べて地面に寝かされていた。

解呪は終了したようだ、100人以上いたのだが一晩で済ませるとはなかなか大したものだ。

声をかけたり揺すったりしたが聖女は起きなかったので、仕方なく馬車まで運んでやった。

一晩中頑張っていたのだから休ませるぐらい良いだろう。

広場へ戻ると何人かのエルフはようやく目を覚ましたようだ、事情を説明するとショウに向かって何度もお礼を言ってきた。

ショウは彼らに近くの町の場所を伝えると、王国へ向けて走り出した。


「これでようやく半分くらい終わりか、以外に早く終わりそうだな」


ショウが魔王を探し始めてまだ1週間も経っていない。

地図の印も残り半分と言ったところか、この調子ならすぐに次の冒険に行けそうだ。


「あとは魔王を倒した後どうするかだよな―――」


ショウは馬車の後ろですやすやと寝息を立てている聖女を見る。

正直に言うと彼女のことは嫌いではない。

むしろスライムちゃんを救ってくれた恩を含めれば、他の人間たちと比べて好きな方だ。

だが、彼女は一応人間の国の姫様だ。

もし彼女と結婚したならば、国王となって人間の国の統治に尽力しなければならず、冒険どころではなくなってしまうだろう。

そんな人生はごめんだ、ショウはいつまでも冒険をしていたかった。


「それに俺が一番好きなのはスライムちゃんだしな」


箱から出したスライムちゃんを膝に乗せながら、馬車を走らせるのだった。



ショウはお城につくと、まだ寝ている聖女を起こし巫女の元へと向かった。


「よくぞ戻ってくれました勇者様、聖女様。あなた達のおかげで私達エルフの大事な同胞を取り戻すことが出来ました。それにしてもあなたの強さは本当にすごいですね、まるで古代の勇者そのものです!」


巫女はショウ達を笑顔で出迎えてくれた、仲間が戻ってくれたことが本当に嬉しいようだ。


「貴様の活躍は見事だと言わざるをえないだろう。私も貴様の認識を改めなければなるまい」


巫女の隣に立っているエルフもショウを褒めている、どうやら勇者としての活躍はだいぶ認められはじめたようだ。


「まぁまだ魔王は倒せていないんだけどな、とりあえず後は西側を調査するよ」


挨拶もそこそこにショウ達は謁見の間を出ていく、馬車へ向かう途中の二人にサンソンが声をかけてきた。


「少しは役に立ったようだが、俺はまだお前を勇者とは認めていない、魔王を倒すのはこの俺だ。人間の貴様の手など借りん」


捨て台詞を吐くと、ショウにわざとらしく肩をぶつけて外へと出ていった。

ショウがサンソンの方を見ているので、気にしたと思ったのか聖女が声をかけてきた。


「あんなの気にしなくて良いですよ。魔王を倒せるのはショウ様しかいないんですからね」


別にショウは全く気にしていない、それよりも気になることが有ったからだ。


「あいつ、本気で肩ぶつけていったけど痛くないのかな―――」


ショウに肩をぶつけたあと、角を曲がってすぐにサンソンは通路に座り込んでいた。

ぶつけた肩が痛い、あいつに方をぶつけた瞬間まるで壁に激突したような衝撃が走った。


「化物め・・・」



ショウと聖女は城を出て馬車を走らせていた。

目的の場所へは2時間ほどで着く、急げば夜には町へと帰れる予定だ。


「しかし魔王も臆病だよな。エルフ達を洗脳して部下として戦わせて自分は隠れてるし、もしかして弱いのかな」


操られているエルフ達も大した強さではないし、魔王が強いと言っても大した驚異にはなりそうになかった。

人間の国で戦った魔王(もはや名前すら思い出せない)も、レベルが万全なら全く相手にならなかったし今回も大したことはないだろう。


「さっさと出てこないかなぁ―――」


魔王に勝てるかどうかとういう心配などショウにはない、さっさと魔王を倒してスライムちゃんと二人で旅に出たい気持ちだけしかなかった。


「今日はお城か〜」


ショウと聖女がたどり着いたのは、打ち捨てられた小さなお城だった。

ひび割れたレンガで出来ているそれに違和感を覚える、よく見ると城門の部分だけなぜか新しく作り直されていた。

聖女を馬車に残し一人で中へ入っていく、城の中も誰かが出入りした跡があった。

ホコリだらけの城内に足跡が残されている、足跡からすると一人のようだ。

城に入った時から殺気は感じるが姿は見えない、どうやら不意打ちを狙っているようだ。

生半可な攻撃ではかすり傷すらつかないが、念の為警戒して進むことにした。


城の中は、時折風の通る音が聞こえてくる以外耳が痛くなるほど静かだ。

窓は全て割れて、天井に穴が開いているところもある、床が抜けているところもあるので歩くのにも気を使わなければならなかった。


すると突然、背後から何かが飛んでくる気配を感じた。

振り返りこちらへ飛んでくる何かを弾く、カランという音を立てて地面に落ちたそれはナイフだった。

飛んできた方を見たが誰もいない、相変わらず聞こえてくるのは風の音だけだった。

ショウがナイフが飛んできた方を見ていると、今度は横からナイフが飛んできた。

体をひねりナイフを躱す、ショウはすぐにナイフの飛んできた方向を見たが、誰もいなかった。


『どうなってるんだ?この前の弓使いみたいに何か仕掛けがあるのか?』


ショウは飛んできたナイフを拾い上げて観察する、特に仕掛けは無さそうだが、先端からポタポタと液体がたれていた。

嫌な予感がする、武器につける液体など毒以外に思い浮かばなかった。

ショウがナイフを投げ捨てるのと同時に、今度はなんと正面からナイフが飛んできた。

先程の毒のことを思い出し、ショウは万全を期してカタナで弾くことにした。

もちろんショウの正面には誰もいない、穴の開いた天井と通路が広がっているだけだった。

走って逃げたのかとも思ったが足音はしていない、一体どうやっているのだろうか。

ショウは疑問に思いながらも城の中を歩いていく、時折ナイフが飛んでくるが当たる気はしなかった。

ショウは城の中をくまなく探索したが、ナイフを投げている相手を見つけることは出来なかった。

その内にイライラしてきた、こんなところで時間をとられる暇はないのだ。

城の入り口まで戻ってきたショウは扉を背にして振り返る、相変わらずナイフは飛んでくるが相手の姿は全く見えなかった。


「さっきから隠れてナイフを投げてるやつに告ぐ!俺は今から城を壊す!死にたくなければ姿を表して俺と勝負しろ!」


ショウの警告は無駄だったようだ、姿を表す代わりにナイフが飛んできた。

一旦城を出たショウは、カタナに魔力を込め始めた。


「―――死なないでくれよ」


祈るように呟くと、城へ向けて特大の真空刃を飛ばした。

隠れて姿を表さないのならば、隠れる場所をなくしてやればいい。

一発では壊れなかったので、何度も真空刃を飛ばした。


数分後、ショウの目の前には瓦礫の山ができていた。

これで相手も姿を表すかと思ったが、なんと瓦礫の山の隙間からナイフが飛んできた。


「諦めの悪いやつだな!」


ショウはナイフを弾くと、飛んできた方向の山目掛けて真空刃を飛ばした。

すると、吹き飛ばされた瓦礫の中から飛び出すようにしてダークエルフが現れた。

白色の短髪に緑のバンダナを巻き、茶色のマントを羽織った小柄のダークエルフだ。

おそらく城の中でも同じように隙間や穴からナイフを飛ばしていたのだろう、器用なやつだ。


「ハッタリだと思ったが、まさか本当に城ごと吹き飛ばすとはな!貴様化物か!」


ダークエルフは飛び出しながら空中で何本もナイフを飛ばしてきたが、ショウはそれらを全てカタナで叩き落とした。

姿さえ見えればこっちのものだ、ショウは飛び上がり距離を詰め首を掴むと、地面目掛けて思い切り投げ飛ばした。

瓦礫の山に頭から突っ込んだダークエルフは、上半身を埋めたまま動かなくなった。

やりすぎたかと心配したが、足がピクピクと動いているので大丈夫だろう。


「終わったみたいですね、しかしお城を壊してよかったのでしょうか―――」


ショウが城へ向けて真空刃を放ったときから心配そうに眺めていた聖女が駆け寄ってきた、魔王を倒すためならば古城の一つや二つ許してくれるだろう。


「まぁ仕方ないさ、とりあえずこいつの呪いを解いて町へ向かおう」


ダークエルフに解呪の魔法をかけてもらったあと、馬車へと積み込む。

瓦礫の山となった城をあとにして、町へ向けて走り出すのだった。

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