第49話 ???の町〜魔法のような技術に出会った件〜
「―――うるさいなぁ」
ショウは眠い目をこすりながら体を起こす。
部屋の中が騒がしい、何が起きているのだろう。
あたりを見渡すと、一瞬で目が覚めた。
聖女がスライムちゃんに押さえつけられていた。
頭以外をすっぽりと覆われ床に倒れている、どうやら寝込みを襲おうとした聖女をスライムちゃんが止めたようだ。
「お、おはようございます、ショウ様。妻として朝の勤めを果たそうとしたのですがスライムちゃんに邪魔―――止められてしまいました」
床に倒れたまま笑顔でそんなことを言う聖女、身動きできない以外特に苦しくはなさそうだ。
呪いを何度か解いてもらった恩を覚えているのかはわからないが、スライムちゃんはレベルドレインを使っていないようだ。
「こんなので本当に魔王を倒せるのかなぁ」
朝の騒動の後、準備を終えた二人はすぐに出発する。
「そう簡単に見つからないと思ってたけど、先は長そうだなぁ」
ショウは地図を眺めながらため息をつく、そろそろ飽きてきた。
殺さないように気をつけて戦うのは大変だし、手加減しないと死んでしまうような相手と戦っても高揚感や達成感など全くなかった。
「早く魔王を倒して二人で冒険に出たいなー」
そんな呟きを隣で聞いていた聖女が頬を赤らめる、どうやら勘違いされてしまったようだ。
「そうですね、早く魔王を倒して二人で冒険に行きましょう。もちろん新婚旅行でも私は構いませんよ。むしろそちらの方が私としては・・・」
手綱を握りながら空を見上げる聖女、ニヤニヤと笑い始めたところを見ると、どうやら妄想の世界に入り込んだようだ。
そんな聖女を見て、ショウは思わず本音を呟いてしまった。
「本当に大丈夫かな―――」
馬車に揺られること数時間、今回の目的地に着いた。
「今日はゴーストタウンか、どんなやつがいるんだろうな」
ショウは馬車から降りて、かつては町だった廃墟郡の入り口に立つ。
どの建物もボロボロに朽ち果て、道は荒れ果て雑草が生えていた。
住民がいなくなってかなりの年月が立っていることがひと目でわかった。
「本当にここであっているんでしょうか?何も無さそうですね」
場所を間違えたのだろうか、聖女が地図を広げて確認していると、ものすごい速さで何かが聖女目掛けて飛んできた。
ショウはカタナを抜いて何かを切り落とす、地面に落ちたそれは一本の矢だった。
聖女がショウに見とれてうっとりしていると、また聖女目掛けて矢が飛んできた。
ショウは聖女に呆れながらも矢を難なく切り落とす、だが矢は次から次へと飛んでくる。
たまらずショウは聖女を抱えて近くの建物へ飛び込む、馬は驚いたのか来た道を走って逃げていった。
「どうやら間違っていないようだな、聖女は隠れててくれ。俺は敵を倒してくる」
顔を赤らめてる聖女を建物へ残し、ショウは一人で外へ出ていく。
外へ出た途端に矢が雨のように降ってきた、ショウはカタナを思い切り振り上げ風圧で全て払いのける。
建物の影に隠れて顔だけ出して様子を伺うと、その顔目掛けて的確に矢が飛んできた。
「射手はかなりの腕前だな、一瞬でも姿が見えれば的確に矢が飛んでくる。それにまるでこっちの位置が分かっているみたいだ。射る度に場所を変えてるから姿も把握できない・・・こいつは厄介だな」
ショウが考えていると今度は上から矢が飛んできた、急いで躱しすぐに場所を移動する。
細い路地に射たのでまさか上から射られるとは思わなかった。
まるで矢が追尾してくるように襲ってきたのだ。
「力任せに狙うだけじゃなくこんな戦い方もできるのか、さてどうしたものか―――」
考えていると今度は横から矢が飛んできた、とにかく敵の位置を把握しないことには手の打ちようがなかった。
ショウは仕方なく、矢を避けながら縦横無尽に町の中を駆け回る。
矢を躱すとすぐに飛んできた方へ向かっていく、だが射手の姿はない。
それどころか後ろや横の死角から矢が飛んでくる、どうやっているのだろう。
ふと、ショウは飛んできた矢に違和感を感じた。
よくよく見ると、ショウがいる路地に向かって矢が曲がって飛んできているのだ。
何か魔法を使っているのかと思ったが、魔力は感じない。
それならば矢に何か工夫があるのだろう、一本を手に取ると飛んでくる矢を避けながらよく観察する。
「なるほど―――こうやってたのか」
ショウは握っていた矢を握りつぶす、種はわかったが、相手の位置がわからないままではどうしょうもない。
「それにしてもこれだけ射続けてよく矢が切れないな、どうやってるんだろう」
ショウが戦い始めてすでに100本以上の矢が飛んできている、普通の弓兵であればとっくに矢はなくなっているはずだ。
飛んでくる矢を避けながら考える、そういえば町を駆け回っているが最初に避けたはずの矢を見かけない。
どうやら相手は矢を回収しながら戦っているようだ、そうと分かればやることは一つだ。
ショウは矢を避けることを止めた。
カタナを手に町の大通りに立ち、飛んでくる矢を全て斬り伏せる。
相手が矢を再利用しているのならば、使えないようにしてやればいい。
どれくらい斬り続けただろうか、ようやく矢が飛んでこなくなった。
だが、殺気は消えていない。敵はまだ諦めていないようだ。
『さて、どうするか。このままだと逃げられるかもしれないし―――仕方ない。怖いがやってみるか』
ショウは警戒を解くとカタナをしまう。
あたりを見渡すと町の出口へ向けて歩き出した。
ショウが歩きだして少しすると、一本の矢がショウの体目掛けて飛んできた。
矢が胸に刺さったショウは、矢を抜こうとして握ったまま、ふらふらと揺れた後地面へと仰向けに倒れた。
「やっと当たったか、勇者ってのは往生際が悪いねぇ」
一人のダークエルフが、屋根の上からショウを見下ろしていた。
腰まである長い髪をなびかせ、子供ほどの大きさもある木弓を持っていた。
エルフにしては珍しく、顔にはヒゲを生やし人間の冒険者のような格好をしていた。
足は細かったが、弓を引くせいか上半身は逞しかった。
まるで魔法がかけられている用に相手を追尾する矢を放つ、影弓と呼ばれるエルフ最高の騎士。
「まぁ間違いなく死んでるとは思うが、確認しに行くか」
影弓は弓をしまうとナイフを手にショウへ近づいていく、これを頭に刺せばいくら勇者でも死ぬだろう。
「しかしまぁよくもこれだけ矢を斬り落としたもんだ。普通のやつなら最初の一射で死ぬんだがね。人間の勇者ってのは化物見たいな強さだと聞いて楽しみにしてたんだが、所詮ただの人間だな。矢が心臓に当たれば死ぬのは一緒か」
影弓はショウを見下ろす、抜こうとしたのか矢を握ったまま死んでいた。
「死にたくないって頑張るのも一緒か、じゃあな勇者」
ナイフを突き立てようとした瞬間、驚くことが起きた。
「やっと来たか、腕がしびれそうで大変だったぞ」
なんと、ショウが目を開いた。
それどころか一瞬で起き上がると影弓の腹に拳を叩き込んでいた。
「―――う、嘘だろ。心臓に矢が刺さってなんで生きてられるんだ」
腹を抑えてうずくまり、驚きのあまり目を見開いてショウを見上げる影弓。
ショウは握っていた矢を投げ捨てる、服は破けていたが胸には傷一つ付いていない。
そう、ショウは矢が刺さって倒れたわけではない。
ショウは自分の肉体を信じ、矢を胸で受けとめると刺さっているように見せかけるため手で支えていたのだ。
「残念だけど普通の矢じゃ俺を傷つけることはできないみたいだな、まぁちょっぴり怖かったけど」
ショウはニヤリと笑った後、全く理解できないと言った表情をしている影弓の顔を蹴り飛ばす。
地面を何度か転がった後、気を失って動かなくなった。
「はぁ〜ここも外れか」
ショウは地面に座ってため息をつく、どうやらここも魔王はいないようだ。
「まぁ気長に行くか。それにしてもこいつはすごい弓兵だったな」
ショウは落ちていた矢を手に取ると、改めて観察する。
追尾する矢の秘密は、矢羽にある。
影弓は矢羽の一部を切り取ることで、意図的に矢の軌道を変えていたのだ。
「普通はこんな矢で狙うことなんて出来ないんだけど、まさに神業だな。まぁ当たったところでダメージはなかったから、こんな小細工をしようが無駄だけど」
ショウは影弓を背負って聖女と合流した後、元来た道を歩いて帰っていた。
影弓は聖女に魔法をかけて呪いを解いてもらったが、目を覚まさなかったためショウに背負われていた。
町までかなりの距離がある、ショウが二人を背負って走るしかないかと思ったが、幸運にも少し歩いたところで逃げ出した馬車が止まってくれていた。
「今日も疲れたなぁ―――」
ショウはベッドの上でスライムちゃんを抱きしめていた。
町についてすぐにギルドへ向かい、影弓を預けた二人は宿屋へ向かった。
「今回も外れだったよ、今日の相手は魔法みたいなすごい技の持ち主だったよ」
スライムちゃんを抱きしめて今日あった出来事を話す。
別にレベルは上がっていないのだから抱きしめる必要はないのだが、もはや何もなくても抱きしめないと落ち着いて眠れなかった。
「鍵も締めたし今日はゆっくり寝れそうだね、明日もまた頑張ろう」
スライムちゃんを抱きしめながら、眠りにつくのだった。
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