第48話 ???のダンジョン〜スライムちゃんが大変なことになっていた件〜

翌朝


「ショウ様、朝ですよ。朝のキスの時間です。ショウ様?起きていないのですか?」


聖女がおかしなことを言いながらドアを叩いている、時折ドアノブが回されていたので鍵をかけていて正解だったようだ。


「先に行ってますよ。準備が出来たら来てくださいね」


ショウはベッドの上でスライムちゃんを抱いたまま固まっていた。

目の前にはスライムちゃんのステータスが表示されている。


「スライムちゃん―――」


そこに表示された文字を指でなぞる。

最近魔王が現れたり聖女が現れたり嫌なことが続いていたので、スライムちゃんのステータスを確認しておこうと思ったのだ。

また呪いにかかってしまっていないか心配だったが、その点に関しては問題なかった。

ではなにが問題かと言うと―――レベルだ。


「ねぇ・・・レベル1675ってどういうこと!?」


スライムちゃんのレベルは現在1675、限界である999を超えていた。

それでもまだ限界ではないようだ、ショウが抱いている今もどんどんレベルが上がっている。

よく確認するとレベルドレインの能力がRと表示されていた、もしやSSの上ということなのだろうか?

ショウは試しに自分のステータスも確認してみた、ショウのレベルはマイナス999のままだ。

だが経験値はどんどん下がっていた、どうやらスライムちゃんの能力が進化した影響のようだ。


「何も影響がないならいいんだけど、きつくなったら言うんだよ?」


スライムちゃんは分かっているのかいないのか、ショウに強く体を押し付けていた。

今のところ問題はなさそうだ、まぁ呪いにかかっていても聖女がいるしなんとかなるだろう。


ショウが準備を終えて外へ出ると、聖女はすでに出発の準備を終えていた。


「おはようございます、もう準備は出来ていますよ。今日はどこへ向かいますか?」


聖女は地図を広げ眺めていた、今朝もあまり(?)襲ってこなかったし彼女はやる気に満ち溢れていた。

魔王討伐のこととなるとやはり聖女としての自覚が出るのだろうか、だとしたら良いことだな。

ショウが少しだけ感心し始めたその時、聖女の頬が紅く染まり口元が緩んだ。

吐息が荒くなり、何やらぶつぶつとつぶやいていた。


「魔王を倒せば正式に結婚魔王を倒せば正式に結婚魔王を倒せば―――」


・・・何はともあれ、やる気があるのは良いことだ。



ショウは馬車に揺られ目的地を目指す、その横では聖女が嬉しそうに座っていた。

目的地は一番近い☓印の場所だ、どうせ全て回るのだから悩んでも無駄というものだ。


「そういえば、昨日ショウ様が助けた彼ら全員意識が戻ったそうですよ。ショウ様へのお礼と、操られていたときに手に入れた情報を残してくれました」


聖女の話によると、百槍達は魔王の呪いから解放され首都へ戻っていったらしい。

ダークエルフとなって操られていた時でも、彼らにはきちんと意識があったため魔王の他の軍勢についても知ることが出来た。


「彼が言うには、エルフ達の戦士の中でも飛び抜けて強力な力を持つ者たちもダークエルフとなっているようです。残念ながら魔王の詳しい位置までは分かりませんでした」


エルフの精鋭たちでも呪いにかかってしまうとは、魔王の呪いはかなり強力なようだ。


「俺がかからないといいんだけどな―――」


呪いなんて今の一つで十分だ。



馬車に揺られること数時間、ようやく目的の場所へたどり着いた。


「今日は遺跡か〜」


ショウと聖女の目の前には古びた遺跡があった。

石のレンガを組み合わせてできているようで、ところどころひび割れて、至るところに蔓が巻き付いていた。

聖女は前回と同じように入り口で待ってもらうことにした、不満そうに頬を膨らませていたが見なかったことにしよう。


中へ入ってしばらくすると、遺跡はすぐに行き止まりになった。

中は広場のようになっている、その中心で待ち構えていたのだろうダークエルフが現れた。

エルフにしてはたくましい体をしている、その手には巨大なハンマーが握られていた。

ツルツルの頭には歴戦の後が見て取れる、背丈はショウより頭3個分は高かった

まるで王国の騎士団長がダークエルフになったような見た目だった。


「来たか、人間の勇者よ」


ショウはカタナを向いて正面で構える、どうやらこの場所には彼しかいないようだ。


「俺は勇者のつもりはないんだけどな、ここにいるのはお前だけか?」


ショウは周囲にも気を配る、不意打ちなどされたのでは溜まったものではない。

ダークエルフはそんなショウの様子を見てニヤリと笑った、何がおかしいのだろう。


「伏兵などおらぬ。破鎚はついと呼ばれた俺はそんな卑怯な手は使わん」


自らを破鎚と呼んだダークエルフは、手にしたハンマーを持ち上げ準備運動を始めた。

どうやらこの場所には本当に彼しかいないようだ。

一人で相手をしようなんて、よっぽど自信があるのだろう。


「ってことは魔王もいないのか、ここも外れだな」


ショウが落胆した瞬間、ハンマーが凄まじい速さで振り下ろされた。

いつものように受け止めようとしたが、背中に寒気を感じて後ろへ飛び退く。

その判断は正しかったようだ、ショウが立っていた場所には深々とハンマーが埋まっていた。


「良い判断だ、受け止めていればその刀ごと粉砕されていただろう。勇者というのはあながち嘘ではないようだな」


ハンマーを地面から引き抜き余裕の笑みを浮かべる破鎚、ダークエルフになっているとはいえ何て怪力だ。

その後もハンマーを振り上げては、カタナごとショウを粉砕しようと力任せに何度も振り下ろしてきた。

ショウはその全てを難なく躱していく、威力はすごいが速さはそうでもない。

ハンマーを振り下ろした隙をついて、百槍の時のように武器を破壊しようとカタナを振るった。

だがそううまくはいかなかった、どうやらハンマーの強度は相当高いようだ。

ショウは武器を破壊することを諦めてカタナをしまう、防げないのであれば素手のほうが避けるのは簡単だ。


「何か企んでいたようだが無駄だったようだな。諦めて我が鎚に潰されるがいい」


破鎚の攻撃が激しくなる、まだ躱すだけなら余裕はあったがこのままではいずれやられてしまうだろう。

ショウはあることを思いついた、自分の腕と破鎚の腕を見比べる。

太さは2倍以上違う、見た目だけで言えば確実にあちらの勝ちだ。

だがステータスで言えば間違いなくショウの勝ちだ。

ステータスSSなど、伝説の中でしか聞いたことがないのだから。


「―――やってみるか!」


ショウは意を決して行動に出る。

破鎚がハンマーを振り下ろした瞬間、両手を上に掲げてハンマーを受け止めた。

ショウの体を駆け抜けた衝撃が地面に伝わり遺跡を揺らす、ショウの足が少しだけ地面へ埋まった。


「受け止めるとは見事!だがこのまま押しつぶしてくれる!」


破鎚はショウを押しつぶそうと力を込める、だがいくら力を込めようとショウは全く潰れなかった。

ショウは自分を押しつぶそうとする破鎚の力に驚いていた。

それは強いからではない、想像以上に弱すぎたのだ。

破鎚は腕に血管が浮かび上がるほどの力を込めてハンマーを押しているようだが、ショウは全くと言っていいほど力を込めていない。


『そういえば今日はまだ一回も戦ってないな、だからなのか?』


マイナス999の状態で戦うことなど久しくなかったので忘れていたが、ステータスSSとは本来化物だったのだ。

ショウは受け止めていたハンマーを強引に奪うと、お返しと言わんばかりに破鎚に向けて振り下ろす。

破鎚はショウと同じように受け止めようと手を伸ばしたが、止めることが出来ず頭を殴られてしまう。

何度かフラフラと揺れた後、地面にうつ伏せに倒れ込んでしまった。


「大丈夫―――だよな?」


ショウは倒れた破鎚を仰向けにする、呼吸があることを確認するとほっと胸をなでおろした。



「大丈夫なんでしょうか―――」


聖女は遺跡の入り口でショウの帰りを待っていた。

中から何度も轟音が響いてきた、地面も揺れていたような気がする。

入り口の前を何度もうろうろし、入ろうか入るまいか考える。

しばらくすると音が止んだ、さっきまでの音が嘘のように静まり返っている。


「仕方ありません、これは仕方ないのです。音が止んだということは何かあったのでしょう」


聖女が中へ入ろうとしたその時、背中に破鎚を背負ったショウが出てきた。


「また入ろうとしてただろ?」


聖女は杖を構えて呪文を唱え始めたので、ショウは慌てて破鎚を地面へと下ろした。

魔法が当たったのを確認すると破鎚を馬車に乗せ、朝出発した町とは別の町を目指して走り出した。



ショウたちが町へ着いたときにはもう日が暮れ始めていた。

破鎚は町に帰っている途中で目を覚ました、呪いも解けて魔王の支配からは逃れたようだ。


「勇者様。この御恩は必ずお返しいたします、いつでもお呼びください!」


破鎚はハンマーを受け取ると、首都を目指して出発していった。

これで2箇所目だ、順調に進んでいるしその内に魔王がいるところにたどり着くだろう。


「今日も疲れたよ」


ショウは部屋の中でスライムちゃんを抱きしめる、この瞬間のために頑張っていると言っても過言ではない。

ダークエルフとの戦闘はモンスターと戦うよりも疲れる、殺してはいけないのでかなり気を使わなければいけない。


「普通にモンスター相手のほうが楽だったよ。エルフたちがもう少し強ければ本気で戦えるのにな―――」


文句を言っても仕方がない、明日も頑張るか。

スライムちゃんの冷たい感触を感じながら、眠りにつくのだった。

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