第47話 ??のダンジョン〜殺さないのは大変だった件〜
ショウは突き出される槍をカタナで弾く、すぐに近付こうとしたが相手は弾かれた反動を利用し槍を振り回してきた。
ショウは慌てて槍を受け止める、槍に気を取られていると体を蹴り飛ばされてしまった。
ショウの足が地面から離れる、受け止めていた槍に力が込められ弾き飛ばされた。
ショウは衝撃を殺すため地面を転がった後、すぐさま起き上がり体勢を立て直す。
眼前に迫る槍を寸でのところで躱し、地面を思い切り蹴るとまるで飛ぶように斬りかかっていく。
『やつの槍は長い、接近すればこっちのものだ』
ショウの予想通り長い槍では接近戦は苦手なようだ。
ショウのふるうカタナに全く反応できていない、当たるかと思った次の瞬間。
「接近すれば勝ちだと思ったか?甘いな勇者!」
百槍が槍を握っていた手を捻ると、なんと槍が分裂した。
カタナは槍によって受け止められる、驚いているショウの横っ腹に蹴りが叩き込まれた。
慌てて距離を取り状況を確認する、ダメージはほとんどないが蹴られ続けていい気はしなかった。
「驚いたか?これが百槍と呼ばれる所以さ」
百槍は槍を組み合わせて元に戻している、やけに長いとは思っていたがあの槍はいくつもの槍が合わさってできているのか。
「種さえわかれば大したことないだろ。分裂するならそう意識して動くだけだ」
ショウはカタナを構えなおすのと同時に、百槍も武器を改める。
槍を分解し、組み直すと三叉の槍を作り出した。
「接近戦がお望みならこいつで相手してやるよ」
三叉になった分短くなり、普通の長さになった槍を振り回しショウを挑発する。
ショウはカタナを握る手に力を込めると、勢いよく飛びかかった。
カタナと槍が火花を散らす、洞窟の中にいくつもの剣戟がこだまする。
ショウは力の調整にだいぶ気を使っていた、本気で切りかかれば槍ごと斬り殺すことなど造作もない。
だが巫女の願いもあるし簡単に殺すわけにはいかない、なにより彼は呪いが解ければ強力な戦力になるだろう。
『殺しちゃいけないってのは面倒だな』
突き出される槍を弾きながら考える、どうやって無力化しようか。
殺さないだけなら腕の一本ぐらいいいだろうか、幸い外には聖女がいる。
死なない限り大丈夫だとは思う―――多分。
「おらおらどうした!?防戦一方じゃ詰まんねぇぞ!」
百槍の攻撃が更に激しさを増していく、三叉の槍を組み直し二本の槍を手にしていた。
三叉の時とは違い受け止めることができず弾くしか防ぐすべがない、ショウは更に防戦一報になってしまった。
ショウはしばらく攻撃を弾いていたが、その内に百槍のある弱点に気づくことができた。
『頑張るしかないか―――』
ショウは防戦状態を保つことに決めると、じわじわと槍を弾く力を強めていった。
『おかしい、こいつ何を考えてやがる?魔王様の話だと勇者ってのは化物みたいに強いんじゃなかったのか?魔王様の軍に入ったときに俺が強くなりすぎたのか?』
百槍は疑問を持ちながらも攻撃する手を休めない。
時折凄まじい殺気を感じて背筋に悪寒が走るが、何かの気のせいだろう。
事実目の前の勇者は、為すすべなく手も足も出せない状態だ。
『噂ってのは遠くに行けば尾ひれがつくもんだからな。人間の国での勇者なんて実際こんなもんか』
ダークエルフとなった自分は人間などとは比べ物にならないほど体力がある。
いずれ体力が途切れた勇者の体を、二本の槍が貫くだろう。
それまでは何度弾かれようが、槍を振るうだけだ。
そう考えていた百槍の手に違和感が走った。
ダークエルフとなって初めて長期戦をしているからだろうか。
百槍の耳に、ガラスにヒビが入るような音が聞こえた。
違和感を確かめようとした百槍の目の前で、槍が片方砕け散ったのだった。
「これで終わりだ!」
ショウは槍が砕けたことを確認すると、残ったもう一つの槍に向けて全力でカタナを振るう。
槍はショウのカタナによって粉々に砕かれる、もはや百槍の手には持ち手しか残っていなかった。
ショウの目的は武器の破壊だった。
本来武器は何度も組み換えできるものではない。
あんな槍を作れば強度が下がるのは目に見えて明らかだった。
耐えている途中何度か斬り殺してしまおうか考えたが、魔王に操られているのならばそれも可愛そうで出来なかった。
「嘘だろ!俺の槍が!」
百槍は宙を舞う破片を見て、信じられないと言った表情で目を見開いていた。
あんな構造の槍は強度が下がることなど、もちろん百槍も十分に承知していた。
強度を維持するために特殊な鉱石を使い、通常の金属より遥かに優れた硬度を持たせて作らせたのだ。
事実、彼が戦い続けた200年以上刃こぼれ一つしなかったのだ。
その槍が今、人間の手によって砕かれ宙を待っている。
そんなことはありえない―――だが、可能性として一つだけある。
この世のどんな物質よりも固く、あらゆるものを切り裂いたと言われている最強の剣。
古代の勇者が魔王を討った時に使ったその剣の特徴は、目の前の人間が振るっているような、夜の闇のような漆黒の色ではなかっただろうか。
「俺の槍を壊すなんて、その剣どこで手に入れた!」
百槍は尋ねずにはいられなかった、まさか本物なのだろうか。
ショウからの返答はない、代わりに逆刃で頭を思い切り殴られてしまった。
百槍は地面を何度も転がり壁に激突して動かなくなった、ピクピク動いているので死んではいないだろう。
「なんてことはない、ただのドロップアイテムさ」
ショウはカタナをしまうと辺りを見渡す、これ以上ここには何もなさそうだ。
とりあえず外の聖女と合流するか。
「遅いですね・・・」
聖女は洞窟の入り口を見つめてため息を吐く。
ショウが入って2時間はたっただろうか、何度かすごい音が聞こえたが大丈夫だろうか。
「またいなくなってしまうのも心配です、仕方ありません、これは仕方ないのです。私も中に―――」
聖女が中には入ろうとしたとき、奥から何かが出てきてくるのがわかった。
それは聖女が待ち望んだ人物だった、色々とおまけが着いていたが。
「お待たせ、とりあえずこいつらの解呪をお願いしてもいいか?」
ショウが背負っていたダークエルフたちを地面に下ろした瞬間に、聖女が抱きついてきた。
「またどこかへ行くんじゃないかと心配しました―――」
抱きついてきた聖女のはめている指輪は魔力を帯びて光っていた。
『―――こいつ、ずっと糸出して監視してたな。余計な魔力を使ってほしくないが、大人しくしてくれるなら多めに見るか』
聖女に呪いを解いてもらった後、エルフたちを荷台に乗せて近くの町を目指す。
気を失っている彼らをギルドに預ける、巫女に伝言も頼んだしこれで大丈夫だろう。
ショウ達が宿屋についたときには、すっかり日が暮れていた。
「じゃあ今日はここに泊まってまた明日別のところへ向かおう」
ショウが部屋のドアを閉じようとしたとき、聖女が靴を挟んできた。
「私達は夫婦ですよ?一緒の部屋で寝るのが当然でしょう?」
ドアを開けると中へ入り込もうとする聖女、ショウは慌てて彼女を止める。
やはりこうなったか―――。
「あのな聖女様、俺達はまだ夫婦じゃないんだ。魔王を倒すまでって約束しただろ?」
ショウの言葉に納得したのかしてないのか、聖女はすねたような顔をして部屋を出ていった。
「約束です、待っていますからね―――」
約束か・・・破ったらどうなるんだろ。
気にしていても仕方ない、今日はさっさと寝よう。
ショウはスライムちゃんを抱きしめるとベッドの上で横になる。
「今日は外れだったよ、早く魔王が見つかるといいな」
魔王を倒した後はどうしようかな、それよりも聖女から逃げる方法でも考えておいたほうがいいだろうか。
とりあえずは渡された地図の☓を消していくしかないか―――
早く自由になりたいな、そんなことを考えながら眠りにつくのだった。
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