第46話 ??のダンジョン〜常識を忘れていた件〜

翌朝

ショウはスライムちゃんと一緒に騎士からもらった地図を見ていた。

スライムちゃんをまるで帽子のように頭に乗せている。


「結構数があるね、どこから行こうか」


地図を見ながらスライムちゃんに話しかける、このどこかに魔王がいるといいのだが。


「城に一番近いところから行こうか、それとも遠くから攻略しつつ城に戻ろうかな」

「それでしたらまずは近場から調査されてみてはいかがでしょう?せっかく会えたのですからまた遠くへ行ってしまうのは悲しいですし」


城から一番近いところを指差す聖女、もう驚いたりはしないがいつの間に入ってきたのだろうか―――


「エルフ達の解呪は終わったのか?」


ショウに抱きつこうとしてスライムちゃんに弾き返されている聖女に声をかける、レベル999のスライムちゃんに叩かれて大丈夫なのだろうか。


「あの程度の呪い私にかかれば一晩で十分です。ショウ様の呪いも今の私なら解けると思いますよ?」


聖女が杖を構える仕草をしたので全力で拒否した、この呪いは解かれるわけにはいかない。

聖女が再びスライムちゃんに叩かれたところで、ショウの部屋のドアが急に開かれ巫女が入ってきた。


「朝から賑やかですね!私も混ぜてください!」


巫女は部屋の中を見た瞬間、ドアノブに手を開けたまま固まってしまった。

この国にもういるはずのないスライムに襲われている聖女様、そしてそれを気に留める様子もなく地図を眺めている勇者。

混乱するには十分すぎる理由だろう。


「スススススス、スライム!?どうしてモンスターがこんなところに!?聖女様大丈夫ですか!?っというより勇者様も止めてください!!」


やっと状況を理解した巫女が叫ぶ、ショウも聖女も忘れていたがスライムが街中に、ましてや城の中にいるなど異常なのだ。


「大丈夫ですか!巫女様!」


サンソンが慌てた様子で駆けつける、部屋の中を確認するとスライムちゃん目掛けてナイフを投げてきた。

ショウがナイフを受け止めてサンソンへと投げ返す、柄の部分が額に直撃したサンソンは床に倒れて気を失ってしまった。


「何の騒ぎですか!」


昨日巫女の隣に立っていた騎士が駆けつけてきた、巫女の前に立つと部屋の中を確認する。

スライムの姿を確認するとすぐさま剣を抜きショウへと突きつけた。


「状況を説明してもらおうか!返答次第ではただでは済まさんぞ!」



ショウは聖女と一緒に謁見の間へ来ていた。

昨日と違うところとすればスライムちゃんを箱に入れず抱いている点だろうか。


「さて勇者よ、どういうことか説明してもらおうか」


騎士は剣を抜き、いつでも斬りかかれるように構えていた。

巫女はそんな騎士に怯えていたが、初めて見るスライムに興味津々の様だった。


「説明も何もスライムちゃんは俺の相棒さ。彼女のおかげで俺はこうして生きていられる。ちなみに聖女を襲ってたわけじゃなく俺を守ってくれてただけで、人間の敵じゃないから安心していい」


ショウはスライムちゃんを巫女たちの方へ掲げた。

騎士は剣を手にしたまま近づくとスライムを観察した。

襲ってくる様子はない、手を近づけるとまるで握手をするように体(?)の一部を伸ばして手を握ってきた。

その様子を見た巫女は目を輝かせている、騎士はスライムちゃんを無害と判断したのだろう、剣をしまうと巫女の隣へと戻った。


「信じられないが敵意は感じられない。いいだろう、スライムの同伴を許可する。ただし、何かあった場合は貴様にも責任をとってもらうぞ」


どうやら信用してもらえたようだ。これでやっと本題に入れるだろう。


「それじゃ俺はそろそろ探索に向かおうかな。とりあえず近場のこのダンジョンから向かおうと思うんだけどいいか?」


ショウはスライムちゃんを頭に乗せると地図を広げ城から一番近いバツ印を指差した。


「それではお願いします。勇者様達に大樹の加護があらんことを」



「で、なんでお前がいるんだ?」


ショウは準備を終えて町の外へ出ると、そこには聖女が馬車に乗って待っていた。


「なんでと言われましても、ダークエルフを捕らえて移送するのもたいへんですから。捕まえたダークエルフはその場で私が解呪することになりました」


確かに移送するのも一苦労な連中だ、その場で解呪できるならそれに越したことはないだろう。

それでもショウとしては勘弁してほしいところだった。


「やっと逃げ切れたと思ったのに―――」


ショウは仕方なく聖女と二人で馬車に揺られるのだった。



馬車に揺られること数時間、ようやく目的のダンジョンへとついた。

そこは森の中にある洞窟だった、近くの町へは馬車で1時間はかかるだろう。


「じゃあ俺は行ってくるけどちゃんとここで待っててくれよ?」


一緒にダンジョンへと潜る気満々だった聖女に声をかける、ダークエルフが現れた場合生け捕りにしなければならないのだ。

相手に気を使いながら守ってやれる余裕はないのだ。


「そう言うと思ってました。でしたらせめてこれをつけていってください」


聖女は懐からある物を取り出す。

それはショウにとっては呪いの装備だった。


「これがあれば私達はいつでもつながっています。さぁ指を出してください」



「結局こうなるのか―――」


ショウはため息をついて自分の左手を見つめる、左手の薬指にキラリと指輪が光っていた。

聖女から差し出されたものは、あの指輪だった。

魔力を込めると赤い糸が伸びていく、これではどこへ逃げても居場所がバレてしまうだろう。


「まぁ魔王を倒すまでは仕方ないか、さっさと先へ進もう」


気を取り直して奥へと進むショウの前に、早速3人のダークエルフが現れた。

それぞれ剣にナイフ、そして斧を持っていた。


「一人で乗り込んでくるとは大した度胸だ。貴様にはここで死んでもらう」


ショウは迫り来る剣を横から殴り一撃で折ると、驚いているエルフの体目掛けて拳を叩き込む。

殴られたエルフが地面を転がり動かなくなった。

次にショウは飛んできたナイフを掴み、刃のほうが当たらないように気をつけて投げ返した。

直撃したエルフは何度かフラフラと揺れた後、倒れて動かなくなった。

最後に残った一人が雄叫びを挙げながら懇親の力を込めて斧を振り下ろしてきた。

ショウは振り下ろされた斧を両手で挟んで受け止め、ダークエルフの股間を思い切り蹴り上げる。

蹴り飛ばされ天井へと突き刺さったダークエルフは動かなくなる、手加減したし大丈夫だろう。

気を失ったダークエルフたちを地面へと並べる、気を失っていたが命に別状はなさそうだ。


「レベルが高いって言ってたしそこまで手加減しなくても良さそうだな」


殺さないようにしなければいけないので気を使うと思っていたが、そこまで気にする必要はなさそうだ。


ダークエルフたちを倒してしばらく進むと開けた場所に出た。

空気が重い、どうやら強敵がいるようだ。


「やはりあいつらではだめだったか、よく来たな勇者!」


奥にいたのはショウの身長の2倍ほどもある槍を持ったダークエルフだ。

白髪はショウのように短く、上半身は裸でエルフにしては珍しくたくましい体つきをしていた。


「あんたがこのダンジョンのボスか?だとしたらここは外れだな」


ダークエルフはショウの近くへと一足で飛んできた、気配が明らかに他のやつらとは違う。

ショウは思わずカタナを抜いて構えていた。


「いかにもここに魔王様はいない。百槍と呼ばれた俺の技を土産に冥土に逝きな!」


相手のダークエルフは槍を頭上で回転させた後、ショウに向けて突きつけるように構えた。


「悪いが手加減できそうもないな。死んでも恨むなよ!」

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