第9話 レベル??のダンジョン~聖水の泉で死にかけた件~

「なんでスライムちゃんが呪いなんかにかかってるんだ?」


ステータスをなぞる指が震える。


状態:呪い


スライムちゃんはショウといる以外何もしていないはずだ。

もしかしたら大した呪いではないかもしれない、一呼吸置いて詳細を見る。


魔族の敵:裏切りものへの死ー残り47時間37分52秒。


死?しかもこの様子だと期限は2日もないようだ。

どうやらショウといることで魔族への裏切りだと思われたようだ。

最初のダンジョンで起きたらスライムがいなくなっていたのは、この呪いにかからないようにするためだったのだろう。

スライムちゃんは変わらずショウに抱きついている。

呪いのことが分からないわけではないだろうに、それでもショウといたいのだろう。


「スライムちゃん・・・」


思わず強く抱きしめる。

絶対に死なせるわけにはいかない。


翌朝

ショウは全速力で目的のダンジョンへ向かっていた。

目指すのは純度の高い聖水で出来た泉が有るというダンジョンだ。

ショウは以前自分の呪いを解くために様々なことを調べていた。

そのダンジョンのこともその時に知ったのだが、出てくるモンスターが化け物のように強いらしく行くことが出来なかった。


町で売っていた聖水では効果がなかった。

神官に頼もうにも、呪われたのがスライムちゃんでは相手にしてくれないだろう。

ショウはそのダンジョンの聖水に望みをかけることにした。


目的のダンジョンの周りには町が出来ていなかった。

モンスターは倒せない上、運良く最深部の聖水を地上に持ち帰ることができてもすぐに蒸発してしまうらしい。

当然冒険者も滅多にやってこないため、レベルも決まっていないようだ。


「スライムちゃんのためなら、化け物だって殺してみせるさ」


ショウはダンジョンの中を進んでいく。

意外にもモンスターが出てこない、もしや聖水などないのだろうか?

怖いほど静かなダンジョンを進む、聞こえるのはショウの足音だけだ。


しばらく進むと、小さな泉を見つけた。


「これが聖水の泉か・・・」


見かけはただの水のようだったが、ショウで試すわけにはいかない。

万が一にでも呪いを失うわけにはいかなかった。


スライムちゃんを箱から出すと、泉につける。

どうやら溺死することはなさそうだ。楽しそうに泳いでいた。


「しばらく経ったら確認してみるか」


その時、ショウは背後から嫌な気配を感じた。

ショウが弱かった頃、強力な相手と出会った時の感覚に似ていた。

カタナを抜き、後ろを振り向く。

そこには白い大蛇が鎌首をもたげていた。


ショウと目が合うと、牙をむき出しにして威嚇してきた。

その牙はショウのカタナより大きく、体も丸太のように太い。

尻尾の先は見えなかった、どうやらかなり大きいようだ。


「これが噂の化け物か・・・」


大蛇はショウを丸呑みにしようとしたのか、大きな口を広げ迫ってくる。

ショウは大蛇の牙めがけて横薙ぎにカタナを振るう。

だが牙を斬ることが出来ない、そのまま地面に押し倒されてしまう。

カタナで牙を押し返し、なんとか牙が体に刺さるのを防ぐ。

牙から液体が一滴垂れ、ショウの体に激痛が走った。

たまらず大蛇を蹴り飛ばす。


「今日はまだレベル上がってないんだけどな・・・」


ショウは大蛇に向き合いカタナを構える。

体を確認すると、液体が垂れた部分の皮膚が腐り落ちていた。

どうやら猛毒のようだ、あんなので刺されればひとたまりもないだろう。

ステータスオールSSのショウですらこの状態なのだ、並の冒険者では歯が立たないだろう。

同じように迫り来る牙を飛んでかわすと、大蛇の体めがけてカタナを振り下ろす。

大蛇は体を器用に曲げてカタナをかわし、ショウに巻き付いてきた。

締め付けられたショウの体から、ミシミシと嫌な音が響く。

ショウはなんとか右腕を外に出すと、カタナで巻き付いている大蛇を斬ろうとした。

大蛇がそれを察知したのか、壁に向かってショウを思い切り投げつける。

土煙を上げて壁にめりこむショウに向かって、大蛇が体を叩きつける。

ショウは崩れる壁とともに床に落ちた。


「くそ、本当に化け物だな」


立ち上がり口から唾を吐くと、血が混じっていた。

どうやら相当ダメージを負ってしまったらしい。


大蛇はボロボロのショウに牙を向けて迫る。

ショウは今度は迫り来る牙ではなく、牙の生えている根元めがけてカタナを振るった。

肉では防ぎきれなかったようで、牙が口から斬り落とされる。

大蛇の血を浴びるショウの全身に痛みが走った。

毒が混じっていたのか、皮膚がところどころ腐り落ちている。


大蛇は口を閉じると、その頭をハンマーのように振り回し、ショウに叩きつけてきた。

カタナで受けるが、耐えきれず壁までとばされる。

追撃してくる大蛇の体めがけてカタナを振るうが、力をうまく込めることが出来ずウロコにはじかれてしまった。

壁に叩きつけられたショウは一度蛇から距離をとる。


「まずいな・・・何とかしないと」


この大蛇は強い。

ステータスオールSSのショウですら勝てる気がしない。

化け物と言われるのも納得の強さだった。


勝利を確信したのか大蛇がショウを丸飲みにしようと口を開けて迫る。

ショウは迫り来る大蛇の口の中に噛まれないようにしてわざと飛び込んだ。

諦めた訳ではない。勝つために一か八かの賭けに出たのだ。


飲み込まれてすぐに消化が始まったのか全身が痛い。

襲いくる激痛に耐えながら、全力でカタナを振るう。

大蛇の首を切り落とし、急いで外へと飛び出した。

まだ生きている大蛇の頭めがけてカタナを突き立てると、ようやく殺せたのか灰になり消えてしまった。


「うまくいったみたいだな・・・」


牙を切り落とした時に口の中は斬ることができたので、同じように体の中からなら斬ることができると思ったのだ。

失敗すればそのまま消化されていたが、なんとかうまくいったようだ。


地面に横たわり勝利の余韻に浸っていると、急に体が動かなくなった。

緊張が解けて疲れが出たのだろうか。

だがいつまで経っても体力が回復しない、それどころか戦い終わってすぐのほうがまだマシだっただろう。

毒でも残っているのだろうか、不安になりステータスを確かめる。


「そういうことか・・・」


あの大蛇は相当強かった。経験値もその分多かったようだ。

ショウのレベルはマイナス342まで上がっていた。

倒した瞬間にレベルが上がったことで能力が下がり、動けなくなったのだろう。


何とかしなければこのまま死んでしまう。

懸命に意識を保つが、限界が来たようだ。

ショウはまぶたを持ち上げることすらできなくなり、気を失ってしまった。



ショウの体を冷たいものが包んでいる。

忘れるわけがない、毎晩抱いているスライムちゃんの感触だ。


「スライムちゃん!」


ショウは飛び起き、目の前のスライムちゃんを抱きしめる。

どうやら気絶したショウにスライムちゃんが乗ってきて経験値を吸ってくれたようだ。

レベルがマイナス999に戻ったあとも、気絶していた時間が長かったようで、

大蛇との激戦の傷跡はふさがっていた、完治してはいないが動けるだろう。


「ありがとうスライムちゃん、2回も俺を救ってくれたんだね」


優しく抱きしめる、スライムちゃんも抱きしめ返してくれたような気がした。

そういえば、肝心の呪いはどうなったのだろう。

スライムちゃんのステータスを開く。

レベルは582まで上がって、能力もいくつかSに上がっていた。

呪いはというと・・・綺麗に消えていた。どうやら成功だったようだ。


「良かった・・・これでまた冒険が続けられるね」


スライムちゃんを箱に戻し、ダンジョンを出る。


近くの町へつくとすぐ宿へ向かった。

冒険者が多い町ではボロボロのショウのことなど誰も気にしなかった。


部屋に入りベッドに飛び込む、今日はかなり疲れてしまった。

レベルは上がってないがスライムちゃんを箱から出す。

スライムちゃんはショウに抱きついてきた、いつもどおりの光景だ。

彼女(?)の冷たい感触を感じながら眠りについた。



翌日

ショウは町で新しい服を買うと、すぐに次のダンジョンへと向かった。

スライムちゃんの呪いも解けたし、冒険を続けよう。


「今度からは、君のステータスも確認しなきゃね」


再発することがあるかもしれない。気をつけることにしよう。

次はレベル50のダンジョンへ向かうことにした。

久々に死ぬかもしれない戦いを繰り広げたので、気持ちも引き締まっていた。

新たなスタートを切るつもりで、走り出すのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る