第7話 レベル40のダンジョン~人を救ったら命を狙われた件~

レベル40のダンジョンがある町に着くとまずはギルドへ向かった。

前回のようにモンスターの情報を集める。


「なるほど、オートマタか」


オートマタ、いわゆる機械人形だ。

人間のような見た目をしている人形だが、その戦闘能力は高い。


近距離では高速で回転する刃物で剣ごと切り裂き、遠距離では小さな鉄の塊を矢よりも速く飛ばして盾ごと貫くらしい。

鉄以上の硬度を持つ盾で防ぐか、避けるしかないようだ。

これならダメージを食らうかもしれない。

早速ダンジョンへ向かうことにしよう。


ダンジョンに着いてしばらくすると一匹でうろついているオートマタを見つけた。

背丈はショウと同じぐらいだろうか。


「まずは遠距離の攻撃を受けてみるか」


オートマタもこちらに気づいたようだ。

ショウに向けて伸ばした右手の掌に、小さな穴が空いている。

パンという乾いた音が響くと同時にショウの胸に少しだけ衝撃が走った。

次の瞬間、なぜかオートマタが倒れ灰に変わる。


「まさか跳ね返すなんてな・・・」


鉄の盾を貫くと言うことで期待していたが、どうやらショウには通用しないようだ。

飛んできた鉄の塊はショウに当たった瞬間、そのまま跳ね返りオートマタ自身を倒してしまったのだ。


「仕方ない。次は近距離だ!」


これが大変だった。

オートマタを見つけ近づこうとする度に、オートマタがショウに向けて鉄の塊を飛ばしてくる。

その度に塊が跳ね返りオートマタは自滅してしまった。


何体か試した後、運良く生き残ったオートマタがいた。


「やっと生き残ってくれた・・・」


このチャンスを逃さないように急いで距離を詰める。

近づくとオートマタの左手にギザギザの付いた円い刃が現れた。

キュインという聞き慣れない音をあげて、高速で回転する刃。

少しだけ怖かったが、その刃を右腕で受けとめた。

しばらく火花をあげて回転していたが、プスプスと黒い煙をあげて止まってしまった。


「やっぱりだめか・・・期待はずれだったな」


オートマタの胸めがけて拳を叩き込む。

一撃でバラバラになったオートマタは、灰になって消えてしまった。


今回も相手にならなかったのでサクサクと奥へ進んでいく。

ショウは歩いてるだけなのだが、道中で何度も現れたオートマタに鉄の塊を飛ばされた。

その度に跳ね返った塊によってオートマタは自滅していた。


「これ経験値入ってないよな?俺は歩いてるだけで跳ね返った塊で勝手に死んでるんだから大丈夫だよな?」


ステータスを確認するとレベルが上がってしまっていた。

ショウは立っているだけだがどうやら倒したことになるようだ。


「嘘だろ!俺何もしてないぞ!」


こうなったらさっさとボスを倒して帰るしかない。

進路上に立ちふさがるオートマタを吹き飛ばし灰に変えながら最深部を目指した。


20匹ぐらい倒しただろうか、やっと最深部へついた。

ギルドで仕入れた情報によるとこのダンジョンのボスは特殊なオートマタらしい。


「なんだこの穴?」


ボスを探していると、壁に空いている妙な穴に気づく。

人がギリギリ通れるぐらいの大きさの綺麗な円形の穴。

よく見ると壁だけではなく天井や床などいたる所にあった。

不思議に思い穴を覗くと中から聞き慣れない音が聞こえてくる。

オートマタが刃を回転させているときの音ににていた。

音は次第に大きくなる、何かが近づいてきているようだ。

次の瞬間、穴から巨大な影が飛び出してきた。

ショウの顔すれすれを飛んでいくと土煙を上げて止まった。

その姿を見て驚いた。


「こいつもオートマタなのか?」


そこにはショウと同じ大きさの円錐が立っていた。

おそらく鉄で出来ているのだろう、鈍く光を放っているその円錐はどうやら高速で回転しているようだ。

こいつがボスだろう。特殊すぎるにもほどがある!

呆気にとられて見ていると、ボスはこちらに先端を突き刺そうと飛んできた。

とっさに受け止めるが、回転しているのでうまく掴むことが出来ない。

手に今まで感じたことのない熱さを感じ、慌てて手を離す。

迫りくる先端をなんとかかわすと、ボスはそのまま壁に穴を空けて潜り込んでしまう。

どうやらいたるところにある穴は、こいつが潜り込んだ後のようだ。

ボスが消えた穴を見ていると、なんとショウの後ろの穴から飛んできた。

避けたショウの顔をかすめ再び穴へと消えていく。


「くそ、これじゃ反撃できない!」


縦横無尽に土の中を動き回るボスになすすべがない。

飛んでくるボスを避け続ける。


「一か八か・・・やってみるか!」


ショウは棒立ちのままボスが飛んでくるのを待つ。

自分の体の硬さを信じてボスの攻撃を受け止めることにしたのだ。

飛んでくるボスの攻撃を胸で受ける。

一瞬だけ動きが止まったボスを上から思い切り叩きつけた。

地面に落ち、灰になって消えていくボス。


「危なかった・・・」


ショウの胸には、焦げた跡がついていた。

貫かれはしなかったが、どうやら摩擦で火傷を負ったようだ。

久しぶりに戦っている実感を得られたことに感謝し、出口へ向かう。


「待ちな。お前が噂の英雄か?」


出口へ向かっている途中に冒険者に呼び止められた。

俺を英雄と呼ぶってことは前回の町にいたやつらか?


「残念だけど人違いじゃないか?俺は英雄なんかじゃないよ」


冒険者の男はすでに剣を抜いていた。どうやら友好的な相手ではなさそうだ。


「お前のような剣を持ってるやつはほかにいねぇよ。あんたに恨みはないがここで死んでもらう」


男はそういうと、ショウに斬りかかってきた。

当たってもどうということはないだろうが、男から情報を得るためにもあえて避けた。


「ずいぶん勝手な奴だな。人に恨みを買うようなことはしてないぞ」


男から距離を取り質問する。なぜ狙われているのかはっきりさせなければ。


「お前ラミアのダンジョンで石化してるやつらを助けただろ?あれで困る人がいるんだよ」


男は再び斬りかかってきた。ギリギリで避けるふりをしながら会話を続ける。


「どういうことだ!?冒険者が戻ってきたら困るっていうのか?」


男からの返答はない。代わりに蹴りが飛んできた。

男の蹴りをわざと受け後ろに飛ぶ。

壁に背中を叩きつけると、苦しそうにせき込むふりをした。


「お前みたいな弱い奴が本当に石化を解いたのかね。目撃者の話だとラミアクイーンが泣き出すほどの化け物だって聞いてたが、やっぱ噂ってのは大げさに伝わるんだな」


男は勝ったと思ったのか、ショウの首に剣を突き付ける。


「最後に・・・教えてくれ。依頼主は誰だ?」


ショウはきつそうな声を出し依頼主を聞き出す。

勝利を確信したこの状況の相手には喋るかもしれない。


「道具屋の店主さ。お前が石化した冒険者を助けたせいで薬が売れないんだとよ」


なるほど、そういうことか。逆恨みにもほどがあるだろう。


「お喋りは終わりだ。恨むなら余計なことをした自分を恨みな」


男が剣を振り下ろす。

ショウはその剣を片手で受け止めると、力を込めてそのまま握りつぶす。


「道具屋の店主ね・・・情報ありがとう」


狼狽えている男の首を掴み壁にたたきつける。

壁にめり込んだ男はどうやら気絶してしまったらしい。


「さてと、売られた喧嘩は買わないとな」


ダンジョンを出ると全力で走り、前回の町へ戻る。

着いた時には夜になってしまっていた。


「道具屋は確かここだったよな」


どうやらもう閉まっているようだ。

店の裏手に回ると明かりがついている。どうやらまだ人がいるようだ。

ドアをノックすると、中から返答があった。


「誰だ?もう店じまいだから明日来てくれ」


ショウは薬を買った時の店主を思い出す。声が一緒だ。

どうやら店主で間違いないようだ、念のため本当に依頼主かどうか確認することにした。


「奴を始末した。報酬をよこせ」


これでこいつが依頼主かわかるはずだ。

しばらくすると、ドアが開いた。


「その剣、あいつの死体から奪ってきたのか。まさか殺せるとはな」


確定した、こいつが依頼主だ。

ショウは中へ入ると店主の首を掴み持ち上げる。

バタバタと暴れているが気にせず手に力を込める。

店主が気絶したのを確認すると、店主を抱えダンジョンへと向かった。


ラミアを蹴散らし最深部へと向かう。

このダンジョンのボスが復活する周期は早く、すでにラミアクイーンは復活していた。


「私をこんなところに連れてきてどうする!?私が死んで薬が手に入らないと困るのはお前たち冒険者だろう!」


目が覚めたのか店主が怒鳴っている。飽きれたことに状況を理解していないらしい。


「その弱みに付け込んで高値で薬を売ってたのは誰だ?しかも石化を解いたみんなの英雄を殺そうと依頼までしたんだ。ただで済むと思うなよ」


すぐにでも殺してやりたいが、それではこいつと一緒だ。

一度だけチャンスをやることにした。


「薬の値段を適正価格まで下げるんだ。そうすれば生かしてやる」


だが、店主は納得していないようだ。ショウを睨むととんでもないことを言い出した。


「あれが適正価格だ!買えない冒険者など、石になったままでいい!」


ショウの中で、店主への死刑宣告が下った。


「そうか、あれが適正価格ってことはお前は冒険者たちにさぞや感謝されているんだろうな!」


店主を掴みラミアクイーンの前へと投げる。

ラミアクイーンに睨まれた店主は一瞬で石化してしまった。


「それが本当なら、誰かが助けてくれるさ。それまで石になってるんだな」


石像を置いてダンジョンを出る。これで狙われる心配はないだろう。


「問題は道具屋だよなぁ・・・」


店主がいなくなっては薬を買うことはできない。

どうしようか考えていると声をかけらた。


「あの、もしかして英雄様じゃありませんか?」


声をかけられた方を向くと、薬で石化を解いてあげた女の子が立っていた。


「あれ、君はこの町に残ったの?」


てっきり冒険に戻ったのかと思いきや、どうやら彼女の仲間は先に進んでしまっていたらしい。

一人途方に暮れて悩んでいると、同じように悩んでいるショウを見かけたので声をかけたようだ。


その時ショウの脳裏に名案が閃く。

彼女の肩を掴み、瞳をまっすぐに見つめる。


「なぁ、何でもするって言ったの覚えてるか?一つだけ頼みがあるんだ」


彼女は突然のことに顔を真っ赤にして驚いていたが小さくうなずいた。



翌朝

ショウはレベルマイナス999になったことを確認すると、スライムちゃんを優しく抱きしめる。


「いやー何とかなってよかった」


あの後ショウは、何でもするといった彼女に道具屋の新しい店主になってもらうことにした。

彼女はどこか残念そうな表情をしていたが快く引き受けてくれた。

もちろん薬の価格も適正に戻してもらった、どうやらかなり吹っ掛けていたようだ。


「しかし命を狙われるとはな、今度からよく考えて行動しよう」


別に狙われても問題ないのだが、恨みを買いたいわけではない。

命のやり取りとか、正直面倒だ。


「さてと次のダンジョンへ向かおうかな」


町を出ると次のダンジョンへ向かい走り出す。

今回は怪我はしなかったが火傷は負ったのだ。

次のダンジョンではついに怪我をするかもしれない。

そんな期待を抱きながら、全力で走るのだった。

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