第6話 レベル35のダンジョン〜噂の真相を確かめたら英雄と呼ばれていた件~

レベル35の町につくとまずはギルドへ向かった。

これから先挑むダンジョンはショウにとって未知の領域だ。


「まぁ何が出ても平気だろうけど」


ギルドで得られた情報によるとこのダンジョンではラミア系のモンスターが出るようだ。

上半身は美女の姿で下半身は蛇のような見た目をしている。

男性冒険者の中にはその美貌に目がくらみ、攻撃をためらう者もいるようだ。

だがその見た目に反しかなりの怪力を持っているようで、中でも尻尾の一撃は熟練の冒険者でも防ぐのは難しいようだ。


ボスモンスターはラミアクイーンと呼ばれている。

通常のラミアより大きく力も強い。

その最大の特徴は石化の瞳だ。

なんでもその瞳に見つめられた者は石になってしまうらしい。

面白そうだ。怪力もだけど石化も効くか楽しみだ。


万が一のことを考え、石化を解く方法を聞いておいた。

どうやらこの町で売られている石化を解く薬を使うしかないようだ。


「これは噂だが、ボスの涙には石化を解く効果があるそうだ。まぁ誰も試せたことはないがな」


ギルドにいた冒険者から面白い話を聞くことができた。そんな噂もあるのか。


かなり高価だったが念の為石化を解く薬を一本購入しておく。


「全く、一番の収入源とはいえ酷いことをするよな」


仲間を石化されてしまい自分だけは何とか逃げだしたが、薬が買えず助けに行けない。

そんな冒険者もかなりいるようで、ギルドの中には暗い顔をしている者が何人もいた。

準備は十分だ。ではダンジョンに向かうとしよう。


ダンジョンに入ってしばらくすると、1体のラミアを見かけた。


「確かに上半身は美女だけど下半身は蛇だな。とりあえず仕掛けてみるか」


ショウはラミアに向かっていき、目の前まで行くと両手を開いて前に構えた。

まずは怪力を試したかったのである。

ラミアは挑発されて怒ったのか、ショウの手に向かってその巨大な尻尾をたたきつけてきた。

ダンジョンに鞭で叩いたような音が響く。

熟練の冒険者でも吹き飛ばされる一撃を、ショウはなんなく受け止めていた。


「すごい!ちょっとだけど痛いや!」


通常のラミアでこの威力なら、ボスであればショウにダメージを与えてくれるかもしれない!

驚いているラミアの尻尾を掴み壁に向かって投げつける。

壁にたたきつけられたラミアは即死し、すぐに灰になってしまった。

上半身が美女だろうがショウには関係ない。

ショウには恩人(?)のスライムちゃん以外興味はないのだ。


その後もボスのいる最深部を目指し順調に歩みを進める。

途中で出てきたラミアは頭を軽く叩くだけで死んでしまったので、何の障害にもならなかった。


最深部へたどり着くと、そこにはいたるところにかなりの数の石像が立っていた。

近づいてみると、どれも冒険者のようだ。

どうやらボスに石化させられてそのまま放置されているらしい。


「石化を解く薬はかなり高かったからな、他人を助ける余裕はないってことか」


少しだけ緊張したショウは薬を片手にボスを探す。

万が一石化が自分に効いた場合、薬を飲んですぐに殺すつもりだった。


「こいつがボスか。たしかにかなりの大きさだな」


奥に進むとボスを見つけた。その体は普通のラミアの2倍はあるだろう。

クイーンはショウの存在に気づいたようで、尻尾を叩きつけてきた。

まるで丸太のような太さの尻尾を頭に受ける。

土ぼこりを上げて足が少し地面にめり込んでしまったが、痛みはない。

少しだけ顔が動く程度の衝撃はあったがダメージと呼ぶには程遠かった。


「期待はずれだったな。石化の能力を使うまで待つか」


ショウは地面に足をめりこませたままクイーンの瞳を見つめる。

だがどれだけ待っても石化することはなかった。


実はクイーンは、ショウを見つけた時に既に石化の瞳を使っていたのだ。

見るだけで石化するはずなのだがなぜかこの人間には効かない。

仕方なく尻尾で叩いたのだがショウがそんなことを知る由もなかった。


「使ってこないな。飽きたし噂を試してみるか」


地面から足を引き抜き、クイーンへと向かう。

とりあえず涙を流させるためにはおとなしくさせないとな。

そんなことを思いながら、クイーンの両腕を体から引き抜く。

かなり苦しんでいたが、尻尾を叩きつけてきたので下半身を半分ほど叩き潰す。

腕を無くし、下半身を潰されたクイーンはようやくおとなしくなった。


「よし!まだ生きてるな!」


殺してしまうか心配だったが、どうやら大丈夫なようだ。

クイーンに近づくと、髪の毛を掴みこちらを向かせる。

問題はここからだった。どうすれば涙を流すのだろう。


クイーンは蛇のような叫び声で威嚇している。まだ歯向かう気があるようだ。

とりあえず、死の恐怖を感じさせようと思いクイーンの顔のすぐ横の地面を殴る。

土ぼこりを上げて地面にめり込む拳。直撃すればクイーンの顔など粉々にするだろう。

何度かそれを繰り返すとクイーンの顔が恐怖に歪み、まるで人間のように涙を流し始めた。


「じゃあ噂の真相を確かめてみるか!」


涙を流すクイーンを引きずり近くの石像の元へ運ぶ。

クイーンの顔を掴んで涙を石像へと垂らすと、まるで卵の殻がむけるように石化が解けた。


「すごいな!噂は本当だったんだ!」


楽しくなってきたショウは、最深部にあった石像をすべて戻していった。

全ての石像を戻してしまうと、クイーンにもう用はない。

今度は拳を直撃させ、その体を灰へと変える。レアドロップ[女王の鱗]を残し消えてしまった。


石化を解かれた冒険者たちは最初何が起こったか理解できなかったようだが、助かったことがわかるとショウにお礼を言ってダンジョンから出ていてしまった。


誰もいなくなった最深部から帰ろうとしたとき、ショウは石像を1体見落としていたことに気づいた。

近づいてみると、ラミアが石化していると思ったが下半身は人間だった。

神官だったのだろうか、ローブに身を包み大きな杖を持ったまま石化していた。


「クイーンは倒しちゃったしなぁ、どうしよ」


正直なところ助ける義理はないが、1体だけ残しておくのも可哀そうだった。

ふと、薬を買っていたことを思い出す。

どうせこの町以外では使わないし、もったいないが使ってやるか。

石像に薬を振りかけ石化を解く。

黒い長髪に白のローブを身に着けていたようだ。

助けられた神官は状況が呑み込めていないのか、地面に座り俺を見つめていた。


「大丈夫か?一人で戻れないなら一緒に行ってもいいけど」


神官に声をかけると、涙を流しながら抱き着かれてしまった。

彼女の大きな胸がショウの胸に押し付けられて形を変えている。

しばらくすると落ち着いたようだ。一人では無理そうだったので出口まで付き合う。


「あなたに助けていただかなければ、私は一生あのままだったでしょう。本当にありがとうございます」


出口で別れる際に彼女は改めてお礼を言ってきた。

深々と頭を下げる彼女にショウは声をかける。


「じゃあ俺はこれで」


立ち去ろうとしたとき、彼女が手を掴んできた。

ショウの手を胸に引き寄せうるんだ瞳で見つめている。


「あの、ご迷惑でなければお礼をさせてください。命を救っていただいたんです、何でも言ってください!」


ショウはそんな彼女の手を優しく離す。スライムちゃんとのひと時が待っているのだ早く帰らなければ。


「悪いけど、そういうのはあまり興味が無いんだ!薬だってもう必要なかったものだし気にしなくていいよ!じゃあね」


彼女を残しさっさと宿へ向かう。

部屋へはいると早速スライムちゃんを抱きしめる。

今日もだいぶレベルが上がってしまっていた、早く吸ってもらわなければ。


「いつか君と一緒にダンジョンにもぐれたらいいなぁ」


叶うわけがないが言うくらい構わないだろう。

スライムちゃんを優しくなでると眠りについた。


翌日

レベルはマイナス999、ステータスオールSS。今日のコンディションもパーフェクトだ!

ギルドにアイテムを換金しに行くと、昨日までと違いギルドには活気があふれていた。

どうやら石化を解かれた冒険者たちが戻ってきたことで、ちょっとしたお祭りのような騒ぎになったらしい。

何でも助けてくれた冒険者は名前も名乗らず見返りも要求しなかったので英雄と呼ばれているようだ。

ショウは噂の真相を確かめたかっただけで、別に英雄と呼ばれたくて助けたわけではない。

このまま残っていると色々面倒なことになりそうだったのでさっさと町を出ることにした。


「今回もだめだったな」


走りながら呟く。いつになれば前のような緊張感が得られるのだろうか。

ギルドで聞いたレベル40のダンジョンがある町を目指す。

今回は少しだけだが痛かったので次に期待するとしよう。

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