第3話 レベル8のダンジョン~助けたのに囮にされて逃げられた件~
レベル8のダンジョンの町には半日ほどで着いた。
町へ着くとさっそくダンジョンへと向かう。
このダンジョンでは巨大な虫型のモンスターが多いようだ。
「よし、じゃあ行くか」
ダンジョンに潜ってすぐ、虫型のモンスターソルジャーアントが現れた。
大きな牙を持ち、強力な顎で鉄をもかみ砕いてしまうモンスターだ。
鉄をはじくこともある黒い体は人の大きさほどもあった。
ショウはとりあえず牙に挟まれてみたが、予想通りダメージはない。
体を軽くたたくと、レアドロップ[大きな牙]を残し弾けるように消えてしまった。
「もっと強い奴を探してみるか」
襲い来るソルジャーアントを倒しながら奥へ向かう。
あれだけ怖かったダンジョンで命の危険を感じることなど一切ない。
もはや軽い散歩の気分で奥を目指す。
しばらく進むと頭から一本の大きな角を生やしたモンスターに出会った、
人間のように2本足で立っていて、4本の腕は筋肉の塊のようだった。
背丈はショウの2倍ぐらいだろうか、茶色い皮がまるで鎧のように光っていた。
「マッスルビートルか。こいつは期待できそうだな」
ショウが近づくと、4本の腕で力強く殴りかかってきた。
一瞬身構えたが、攻撃が当たった瞬間に期待を裏切られてしまった。
弱い、全力で殴っているのだろうが全く痛みはなかった。
確かにオークよりは強いだろう、ほんの少しだけ衝撃を感じることができたからだ。
迫ってくる腕を平手で払うと、ムキムキの腕が体からちぎれて飛んでいく。
腕をなくしたマッスルビートルは角を向けて突進してきた。
棒立ちのまま胸に受けるが、ショウはびくともしない。
「見掛け倒しだったな」
角を掴み壁にたたきつけると、レアドロップ[堅い角]を落とし消えてしまった。
その後も何度か襲われたが、やはりショウの敵ではなかった。
ある時は平手ではたき、またある時は壁にたたきつけて倒していった。
「もう最深部か、ここのボスは確かアントクイーンだったかな?」
最深部へ着くと何やら騒がしい。
音がする方へ向かってみると、冒険者達がボスと戦っていた。
ボスモンスターであるアントクイーンはソルジャーアントをかなり大きくしたような見た目だ。
ソルジャーアントを従えており、ボスの周りには20匹以上のソルジャーアントがいた。
戦っている冒険者は全部で4人。
装備から察するに、中年男の戦士に少年の武闘家、若い男の神官に女の魔法使いといったところか。
どうやら劣勢のようだ、戦士も武闘家も傷だらけだった。
神官も魔法使いも魔力が切れたのだろう、杖で戦っていた。
「さてどうしたもんか。勝手に手伝うのはルール違反だし・・・」
ダンジョンでは誰かが戦っていた場合、助けを求められない限り手伝ってはいけないという暗黙のルールがある。
モンスターが瀕死になったところを倒し、アイテムを横取りしていくトラブルが多かったからだ。
仕方なく後ろで見守ることにした。そのうち声をかけてくるだろう。
しばらくまったが、決着がつかない。
冒険者たちは4人とも肩で息をしている。どうやら限界だろう。
「大丈夫か?限界なら手伝うぞ」
4人ともこちらを一瞬だけ見ると、すぐさまボスへと視線を戻す。
まさかこのまま戦う気なのだろうか?
「お前のような駆け出しの冒険者に助けてもらうつもりはない。仲間のもとへさっさと帰れ」
「同感ですね。ここは僕たちで何とかします」
「魔力も回復してきましたし、二人とも治癒魔法いきますよ」
「そういうことだから、坊やは下がっててちょうだい。私もそろそろいくわよ」
どうやら装備から駆け出しの冒険者だと思われたようだ。
まぁそりゃそうだよな、剣しか持ってないなんて普通あり得ないもんなぁ。
呪いを解くために全て売ってしまったことを思い出し少しだけ涙目になった。
こちらにソルジャーアントが何匹か向かってきたので、指ではじいて倒す。
アイテムを回収するついでに4人を見ると、どうやら壁際まで追い詰められたようだ。
そんな状況でも助けを求めてはこない、死ぬつもりだろうか?
「あともう少し、あともう少しだ!お前ら気合い入れろ!」
「僕はまだ何とか戦えますよ!最悪腕一本になっても戦います!」
「私も魔力は尽きましたがまだ杖があります。冒険で鍛えた体の強さを見せてあげましょう!」
「私も残りの魔力全部使うわ!」
なにやら盛り上がっている。
あれか?死の危機に直面して仲間の絆が強くなったってか?
ショウは自分を捨てていった仲間を思い出し胸がざわつく。
「俺たちも、昔はああだったな」
4人の姿を過去の自分たちに重ねてしんみりしていると、悲鳴が聞こえてきた。
戦士の男がソルジャーアントの牙につかまったようだ、このままでは潰されてしまうだろう。
武闘家と神官がモンスターを殴っているが、効いていないようだった。
戦士の男の鎧に亀裂が走り、男が血を吐きながら絶叫する。
「勝手に助けてもいいけどトラブルになると面倒だしなぁ」
さっきの会話から察するに、あまり仲良くできる自信はない。
冒険者たちはプライドが高いものが多く、助けても文句を言われてしまうことも多いのだ。
「頼む!助けてくれ!ドロップアイテムは全部やる!」
どうしようか悩んでいると戦士の男が叫ぶように助けを求めてきた。
どうやらようやく諦めたようだ。
「とりあえず、あいつからだな」
ショウは石を拾うと戦士を掴んでいるソルジャーアントめがけて投げた。
衝撃波を撒き散らしながら飛んでいった石は見事に命中し、巨体を灰へと変える。
オマケのように石の軌道上にいた奴らも倒していた。
いきなり現れた強敵に狙いを定めたのか、モンスターの視線がショウに集中していた。
今なら冒険者たちが逃げ出すのも容易いだろう。
「今のうちに逃げてくれ。あとは任せろ」
冒険者達は俺に言われる前にさっさと逃げ出していたようだ。
いつの間にか一人だけになっていた。
「巻き込む心配がなくなったので良しとするか」
少しだけ悲しい気持ちになったが前向きに考えることにした。
ショウは迫りくるソルジャーアントの群れに向かって歩き出す。
剣を使う必要はない、手の届くところに来たやつから叩き殺し灰にしていく。
「こっちのほうが早いかな?」
足元の小石をいくつか拾い、目の前の群れめがけて投げる。
先程の石ほどの威力はないが、十分のようだ。
小石は砲弾のような速さで飛んでいき、群れを灰に変えていた。
「のこるはお前だけか、少しは戦えるかな?」
残されたボスを見上げる。
ソルジャーアントもデカかったがこいつはショウの4倍以上はあるだろう。
その巨大な牙でショウを挟み持ち上げる。
牙がギチギチと音を立てている、どうやら噛みちぎろうとしているらしい。
「やっぱだめかぁ。まだまだ強いとこじゃないと相手にならないのかな」
挟まれているショウにダメージは全くない、牙は軽く叩くと折れてしまった。
難なく脱出したショウは、その折れた牙をボスの顔めがけて投げる。
ボスの顔を貫通しその巨体を灰に変える、ダンジョンの天井に突き刺さった牙はそのまま消えずに残った。
どうやらレアドロップ[女王の牙]を手に入れたようだ。
「今回も全く相手にならなかったな。もっと強いダンジョンに向かってみるか」
能力を確認するとレベルがマイナス990になっていた。一人で戦っている分手に入る経験値も増えてしまうのだろう。
アイテムを回収しダンジョンの出口に向かうと、先程ボスモンスターと戦っていた冒険者たちがいた。
「よう、怪我は大丈夫か?」
ボロボロの戦士に声をかける。
彼は武闘家と神官に支えられて立っていた。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「あなたも逃げれたようでよかったです」
「本当に感謝いたします。おかげで死なずにすみました」
次々にお礼を言われてしまう、なれていないので恥ずかしい。
「あなた、強いのね。さっきのクイーン倒しちゃったんでしょ?」
魔法使いの女が後ろから声をかけてきた。どうやらアイテムで倒したことがバレてしまったようだ。
「まぁね。あれぐらいどうてっことないよ」
事実ショウにとっては戦いにすらならなかった。怪我どころかかすり傷一つ負っていない。
魔法使いの女は他の三人を先に行かせるとショウについてきた。
ダンジョンの中では暗くてよく見えなかったがかなりの美女だ。
戦闘によってはだけた衣服がたわわな胸を強調している。
「ねぇ、今夜あなたの部屋にお邪魔してもいいかしら?命を救ってくれたお礼をさせて頂戴」
ショウの手を引き寄せて自分の体に密着させる。ずいぶんと手慣れているようだ。
「悪いけど先約があるんで。死なないように冒険頑張ってね」
手を振り払いギルドへ向かう。後ろで何やら喚いている声が聞こえたが気にしないことにした。
夜はスライムちゃんと一緒に寝なければいけないのだ。
アイテムを換金すると、もう夜になっていた。
「今日はもう宿に止まるか。また明日出発しよう」
宿を取り部屋に入ると早速スライムを出す。
スライムも慣れた様子でショウに飛びかかる。可愛いやつめ。
スライムを抱きかかえるとベッドに入り眠りについた。
翌朝
起きて能力を確認する。もちろんレベルはマイナス999である。
スライムちゃんを撫でたあと箱へ戻す。
もう彼女(?)なしの生活など考えられなかった。
「さて、次はちょっと強いところに行ってみるか」
レベル20のダンジョンがある町を目指し走り出す。
今度こそ、【戦い】ができる強敵と会えることを祈りながら。
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