第2話 レベル5のダンジョン~モンスターが弱すぎる件~

「やった!成功だ!」


嬉しさのあまり飛び跳ねる。

まるで子供の頃の妄想そのままのような能力だと思った。


ショウが知っている伝説の英雄ですら最高能力はSだったのだ。

今の彼の能力はオ-ルSS、その力は想像すらできなかった。


「とりあえず試してみるか」


適当なモンスターを探してダンジョンの奥へと向かう。

探索しているとゴブリンの群れを見かけた。

1匹であれば駆け出しの冒険者でも勝てる弱いモンスターだが、群れとなると話が違ってくる。


「数は8匹か」


力試しにはちょうどいいだろう。

ショウは口笛を吹き、ゴブリンたちの前に飛び出す。

ショウに気づいたゴブリンたちはナイフを抜き、周りを取り囲むと一斉に飛びかかってきた。


ショウから見たゴブリン達は、まるで空中で止まっているように見えた。

能力のおかげだろう、愛用している鉄の剣も羽のように軽かった。

襲いかかってくるゴブリンたちを全て空中で斬り殺す。

ドロップアイテム[ボロの布切れ]を残し、ゴブリンは灰になって消えてしまった。


「・・・すごい!」


まるで自分の体が自分のものじゃないような感覚だった。

全盛期のショウなど比べ物にならないほどの力だ。


「これならボスも一人で倒せるかもしれないな」


ボスとはダンジョンの最深部にいる強敵のことである。

レアなドロップアイテムを落とす上、倒されてもある一定の周期で復活する。

冒険者にとってはいろいろな意味で重要なモンスターだった。


そうと決まればこんなところでうろついている時間はない。

道中のモンスターは全て無視し、最深部へと急いだ。

向かう途中急に飛び出してきたゴブリンとぶつかったが、ショウに全くダメ-ジはなかった。

それどころかぶつかったゴブリンは灰になって消えてしまった。

どうやらゴブリンごときでは武器すら必要ないようだ。


「見つけた!ちょうど復活してたみたいだな」


最深部につくとボスはすぐに見つかった。

ショウの2倍はある背丈に太い体、手には大きな木のこん棒を持っている。

豚のような顔をした巨大なモンスター、間違いないオ-クだ。


駆け出し冒険者のパ-ティが初めて相手にする強敵。

このモンスターを倒せてやっと一人前の冒険者として認められるのだ。


「なつかしいなぁ、あの時は4人で倒したっけ」


まだ駆け出しだった4人でこのダンジョンに挑み、力を合わせてなんとか勝てたのだ。

今のショウは1人だ。だが以前のような恐怖も焦りもなかった。

あるのはワクワクとした高揚感のみ。この力はどの程度なのか試したい。

今のショウにとってはオ-クなどただの実験台に過ぎなかった。


ショウの目の前に来たオ-クは雄叫びを上げながらこん棒を振り下ろす。

ショウは棒立ちのまま迫りくるこん棒を頭で受け止めた。

オ-クがにやりと笑っている、どうやら仕留めたと思ったらしい。


「怖かったけどやっぱり平気か〜」


ショウは無傷だった、むしろ殴ったこん棒のほうが凹んでいた。

異変に気づいたオ-クが今度は横からこん棒を叩き込んだ。


だがショウは傷つかない。まるで根でも生えたかのようにピクリともしなかった。

オ-クは怒り狂い、こん棒でショウを殴り続けた。

ショウを殴る度にこん棒から木くずが飛び、とうとう折れてしまう。

ショウはあくびをしながら黙って殴られていた。


「全く何も感じないな。そろそろ反撃させてもらうよ」


殴られるのに飽きたショウはオ-クに近づき、その足を指で弾く。

指があたった瞬間、オ-クの足は爆発したように吹き飛んでしまった。


訳が分からず傷口を抑え倒れ込むオ-ク。

ショウは倒れたオ-クの頭に軽く平手打ちをした。

叩かれたオ-クの頭が胴体を離れ飛んでいく。

壁まで飛んでいった頭は、レアドロップ[オ-クの牙]を落とし灰になってしまた。


「強いというか、化物みたいだな」


どうやらこの程度の相手には剣すら必要ないらしい。

アイテムを拾い出口を目指す。帰り道でもゴブリンたちが襲ってきた。

だがショウは無視して走り続けた。

何をされてもダメージを受けない上、軽く体をぶつければすぐに倒せてしまうのでなんの障害にもならなかった。


帰り道でふとステ-タスを開いてみると、レベルが上がってしまっていた。


「レベルマイナス992か、能力はSSだけどこのままじゃまずいな」


モンスターが弱いこのダンジョンに一回潜っただけで7も上がってしまうのだ。

ダンジョンに挑み続ければすぐにまた1に戻ってしまうだろう。

何か対策を考えなければ。


どうしようか悩んでいると、出口の近くでドレインスライムを見かけた。

その時、ショウの脳裏に名案が思い浮かぶ。


「これだ!」


ショウは急いでギルドに戻ると手に入れたアイテムを全て売りはらった。

雑貨屋へ向かうと鍵のついた箱を購入して急いでダンジョンへと戻る。


「いたいた!こっちだこっち!」


飛んでくるドレインスライムをまるで恋人のように優しく抱きしめる。

ショウにとっては何よりも愛しい存在だった。

捕まえたスライムを箱に詰め鍵をかける。


「これで準備は完了だな、今日はもう宿に戻って明日出発するか」


宿の部屋に入ると、スライムを箱から出す。

抱きしめると経験値を吸いだした。なんとも可愛らしい存在だ。


「しっかり吸ってくれよ。おやすみ」


スライムを抱いたまま眠りにつく。

これで翌朝にはまたマイナス999になっているだろう。


翌朝ステ-タスを確認するとショウの予想通りレベルはマイナス999になっていた。

どうやらスライムも経験値を吸えるのが嬉しいのか、ショウに懐いてしまったようだ。

スライムを優しくなでて箱に戻す。もう大事なパ-トナ-だ。


「よし、じゃあ次の町に出発だ!」


スライムを入れた箱を背負い、次の町へ向けて走り出す。

本来なら馬車に乗るのだが、ステータスSSのショウは走ったほうが早かった。


目指すのはレベル8のダンジョンがある町だ。


この力がどこまで通用するかわからない。

弱いダンジョンの町から順番に攻略していこうと思ったのだ。


「待ってろよ、俺を捨てたことを後悔させてやる」


いずれ俺を捨てた元仲間にも会えるだろう。

別に彼らを傷つけるつもりはない。

ただ力を見せつけて見返してやりたいだけだった。


「もしかしたら戻ってきてくれって頼まれるかもな」


そう言われたらショウはどう答えるか悩んだ。


「まぁその時にならないとはっきりはしないか」


自分に言い聞かせるようにつぶやくと、次の町へ全速力で向かった。


最強の最弱の冒険が今始まった。

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