第4話 レベル20のダンジョン~武器を手に入れた件~

レベル20のダンジョンがある街に着いた。

この町のダンジョンはゴーレム種しか出ない。

ドロップアイテムは主に鉄や鋼など、そのためこの街には鍛冶師が多かった。


町に着いたショウはさっそくダンジョンへと潜る。

ゴーレムはその体を作っている素材によって強さが変わる。

このダンジョンのボスはクリスタルでできたゴーレムだった。


「ゴーレムか、素手で殴ったら痛そうだな」


どうやって戦おうか考えていると早速一匹目のゴーレムと遭遇した。

ショウと同じぐらいの背丈で、首がない人のようなシルエットをしている。


「岩でできたゴーレムか。ちょうどいい殴ってみるか」


ゴーレムの体めがけて拳を振るう。

万が一痛かった場合のことを考えて軽く殴っただけなのだが、粉々に吹き飛んでしまった。

拳を確かめるが擦り傷一つない。どうやら大丈夫なようだ。


「ずっと素手で戦うのも嫌だな。丁度いいし何か武器を作ってもらうか」


そうなるとボスのレアドロップを狙いたくなってしまう。

ボスのクリスタルゴーレムのレアドロップアイテムは金剛石と呼ばれている。

どの金属よりも固く錆びず熱にも強い、美しい輝きを放つ透明な石だ。

武器としてよりは、女性向けの装飾品としての需要が高かった。


殴っても大丈夫ということがわかればこっちのものだ。

ゴーレムと出くわすたびに殴り粉々に砕いていく。

試しに1度だけ殴られてみたが、全くダメージを受けなかったので今回も気楽にいくことにした。


途中で殴るのは面倒になってきたので、石を投げて倒すことにした。

威力は十分なようでどのゴーレムも一撃で灰になっていった。


「ここでも相手にならないのか、前は苦労したんだけどなぁ」


以前まだパーティーを組んでいた時は、散々な目にあったのだ。

旅立ちの時から愛用していた剣がゴーレムを斬ろうとして欠けてしまい、なくなく交換したことを思い出した。

そのためこのダンジョンだけ剣ではなくハンマーを使って攻略したのだった。


懐かしさを感じながら進んでいると最深部についてしまった。

目当てのゴーレムを探すと、すぐに見つかった。


体は透明に輝き、大きさはショウの2倍はあるクリスタルでできたゴーレム。


「確か前は2時間以上殴り続けてようやく勝てたっけ?次の日は腕が上がらなかったな」


以前倒した時のことを思い出し笑ってしまう。

ゴーレムは動きが遅いので攻撃を避けるのは簡単だったが、その分体が頑丈なのだ。

仲間と交代しながら2時間以上殴り続けてやっと倒すことができた。

翌日は食器を持つのですらきつかった。


今回はどうやって倒そうかな。

考えていると、どうやらほかの冒険者達が下りてきたようだ。


「なんだ、もう戦ってるやつがいるのか」

「一人で大丈夫か?何なら手伝ってやってもいいぜ」


冒険者たちはおれが苦戦していると思ったのか、協力を申し出てくれた。

丁重にお断りし、ゴーレムに向き合う。


さてどうしたものか・・・

考えているとゴーレムに殴られたが痛みはない。気にせず考え続ける。

後ろの冒険者たちが驚いているが気にしないでいいだろう。


『さっきみたいに殴ったら粉々になっちゃうよな。今日はまだアイテムを手に入れてない。もしかしたらアイテムごと粉々にしちゃってるんじゃないだろうか』


強すぎる力の代償か・・・。強すぎて困るなんて思いもしなかった。

ショウは額に手を当てため息をつく。アイテムが欲しいなら優しく倒さねばならない。


「仕方ない、ちょっとやってみるか」


ショウは剣を抜くとゴーレムに向き合う。

これならば斬ったところ以外は無傷で倒せると思ったからだ。

試しにゴーレムの腕を片方切ってみたのだが、強すぎたのか真空刃が発生してしまった。

ゴーレムの腕だけでなく後ろの壁や天井まで斬ってしまう。


「危ない危ない。後ろに誰かいたら殺しちゃうところだったよ」


幸いにも怪我人はいないようだ。

残った片方の腕を優しく切り落とす。天井や壁に傷はついていない。

今度は大丈夫のようだ。力加減を間違えないように気を付けて体を縦に両断する。


「・・・できた。疲れるなーこの作業」


ショウにとっては戦いではなく最早作業だった。

ゴーレムは腕2本を残しあとは灰になって消えていく、どうやら上手くいったようだ。


レアドロップ[金剛石]を拾い出口に向かう。

ショウの戦いを見ていた冒険者は体をガタガタと震わせながら道を開けてくれた。

どうやら怯えているようだった。まるで化け物でも見たようだな。


外へ出ると、さっそく鍛冶師を探すことにした。

まずはギルドへ行き、腕一本分の金剛石を換金する。

今まで見たことがないそのサイズに驚いたようだが、一生暮らすのに不自由しないほどの金貨と変えてくれた。


「これでもうお金に困ることはなさそうだな」


鼻歌を歌いながらギルドを後にする。無一文だったあの頃が懐かしい。

ギルドで評判のいい武器屋を聞いていたので、それらを訪ねていく。


ー1時間後。


「おかしい・・・なんで断られるんだ・・・・」


噴水のふちに座り、大きな金剛石に顎を乗せて愚痴をこぼす。

ギルドに紹介された武器屋では、すべて断られてしまった。

どうやら金剛石を武器に加工するのは、特別な技術が必要らしい。

以前一人だけいたが、その鍛冶師も一年前に引退してしまったようだ。


どうしたものかと考えていると、何やら市場のほうが騒がしい。

何の騒ぎかと思って見に行くと、

どうやら女の子が男たちに絡まれているようだった。


女の子は鍛冶師が来ているような服装をしている、

日に焼けた小麦色の肌が似合う健康的な美少女だった。


「離せよ、お前らと遊ぶ暇はないんだ!」


女の子は必死に手を放そうとしているが男の力にかなうわけがない。

首を振るたびに女の子の長い赤髪がキラキラと輝いていた。


「いいじゃねぇか、俺たちはお前の店のお得意さんだろ?」


町の人たちはトラブルに巻き込まれるのは嫌なのだろう、みな見て見ぬふりをしていた。


「嫌がってるだろ?離してやれよ」


仕方なく声をかける。考えをまとめるのにこの騒ぎは邪魔だったのだ。


「あ?誰だてめぇは!俺たちはレベル24の冒険者だ・・・ぞ?」


男たちは腹を立てたのか怒鳴りながらこちらを振り向いた。

だがショウの姿を見た途端、声が小さくなり男たちの顔が青ざめる。


「あれ?お前らって確か・・・さっきダンジョンで会ったやつらだよな?」


二人に見覚えがあった。ショウとボスとの戦いを見ていた二人組だ。

近づこうとして一歩足を踏み出す。


「命だけはたすけてくれぇ!!!」


男たちは涙を流しながら命乞いをして一目散に逃げていった。

べつに殺すつもりなんてないんだが・・・

悪党とはいえ人間にそんな反応をされて少しだけ悲しくなった。


「ありがとう。おかげで助かったよ」


先ほどの女の子がこちらにお礼を言ってきた。


「別に助けたつもりはないよ。ちょっと嫌なことがあってイラついててさ。八つ当たりできるかと思ったけど、にげられちゃった」


材料はあるのに加工してくれる店がない。散々歩き回ってイライラしていたのだ。


「もしかしてお兄さん冒険者?その金剛石で武器でも作る気かい?」


そういえばこの子も服装からして鍛冶師のようだな。何か知ってるかもしれない。


「そうだよ。これで武器を作りたかったんだけど職人が引退しちゃったらしくてさ。諦めて売りに行こうかと思ってたところなんだ」


女の子はショウの話を聞くと笑顔になった。何かいい情報でも知っているのだろうか?


「そうだったのか。じゃあ助けてくれたお礼に剣打ってやろうか?」


ショウは耳を疑った。自分と同じか年下の女の子が金剛石を加工できるのだろうか?

それとも何か普通の武器でも打ってもらえるのだろうか?


「打つのはアタシじゃないけどね。アタシのじいちゃんが引退した職人なのさ」



彼女と歩いて工房へ向かう。

中は武器を作るための様々な設備が置いてあった。

どれも年季が入っている、そうとう使い込まれているのだろう。


「じいちゃーん。お客さんだよ」


彼女が呼び掛けると奥からお年寄りとは思えない屈強な肉体の男性が現れた。


「客だぁ?ワシはもう引退したんじゃ。お前が打ってやれ」

「それがじいちゃんしか無理なんだよ。金剛石を剣にしたいんだってさ」


彼女が俺を紹介する。じいさんは俺を見ると不機嫌そうな声で断ってきた。


「坊主、さっきも言ったが俺は引退した身だ。あきらめて帰んな」


まぁそうなるよな。期待はしていなかったから別にいいけど。


「待ってよじいちゃん!お兄さんはあたしが市場で絡まれてるのを助けてくれたんだよ!」


そんなことで職人が意見を変えるとは思えなかった。

帰ろうとすると、じいさんに肩を思いっきり鷲掴みにされ引き留められた。


『嘘だろ!?ちょっと痛いぞ!?』


レベルマイナス999になってから初めて痛みを感じた。このじいさんどんな力してんだ。


「少年よ、すまなかった。大事な孫を助けてくれてありがとう。剣なんて好きなだけ打ってやろう」


涙を浮かべて感謝するじいさん。孫のこと大好きすぎだろ!


金剛石を剣に加工するには早くて明日の朝までかかるらしい。


「ねぇお兄さん。よかったら今夜止まっていかないか?冒険の話とか色々聞かせてよ」


彼女が上目遣いでこちらを見ている。じいさんはそれを聞いて複雑そうな顔をしていた。


「ありがたいけど、宿に大事な人が待ってるんだ」


ショウの返事を聞いてがっくりと肩を落とす少女。じいさんはまた複雑な表情を浮かべていた。


その夜

宿の一室で俺はステータスを確認していた。

レベルマイナス982、どうやらだいぶ上がってしまったようだ。


スライムを箱から出し抱きしめる。

経験値を吸われていく感覚が心地よい。


「今夜もよろしくな、おやすみ」


その心地よさに包まれながら、眠りに落ちていいた。


翌日

レベルマイナス999、最高のコンディションだ。

スライムにおはようのキッスをした後箱に戻す。

そういえば奪われた経験値はどうなっているんだろう。

考えても仕方がないので剣を受け取りに向かった。


「おはよう、お兄さん。剣ならできてるよ!」


工房の奥から刀身から持ち手までクリスタルでできた、1本の美しい片刃の剣が出てきた。

よく見かける剣と比べてかなり細い、峰の部分は少しだけ反っていた。


「来たか少年。こいつは遥か東の島国から伝わった武器【カタナ】だ。こいつは切れ味は良いが折れやすくてな。クリスタルみたいに特殊な金属じゃねぇと作れねぇのさ」


ショウはカタナを持ってみた。

当然のように重さは感じないが今まで使ってきた剣とは段違いの切れ味だというのが見ただけで分かった。

愛用していた剣は引き取ってもらうことにした。

彼女が家宝にするとか言っていたが聞こえないふりをして町を出た。


「レベル20のダンジョンでも全く相手にならなかったな」


今度の目的地はレベル30のダンジョンがある町にした。

それはショウが4人で入った最後のダンジョンだった。

もしかすると、かつて仲間だった奴らがまだその町にいるかもしれないな。

会ったらどうしよう、そんなことを考えながら走り続けた。

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