怒る女




彼女の顔はとても可愛らしかった

胸よりも 脚よりも お尻よりも

そして 性格よりも

僕は顔に惚れるタイプだったから

すぐに彼女のことが好きになった


だけど いかんせん 彼女はいつも怒っていた

可愛い顔が途端に無表情になって

煙草をひっきりなしに吸い

煙草の灰をひっきりなしに灰皿に落としながら

なにかに怒っていた


時には 大学の友人に対して

時には アルバイト先の上司に対して

時には 隣の車線を走るダンプカーに対して

時には いつも使う地下鉄の終電に対して

時には 寒い朝に対して

時には 出てきた酎ハイに対して

時には お母さんに対して

時には お父さんに対して

時には お姉さんに対して

何に怒っているのかわからないときも多々あった


どうしてこんなに嫌な思いまでして怒るんだろう

もっと穏やかにしていれば 今よりも楽しいはずなのに

と 僕は彼女から着かず離れずの距離で見守った

いや 見守った というのは恰好つけすぎで

びくびくしながら何も言えないで黙っていた


もしかして 怒りそのものが彼女の生きるパワーの源かもしれない

と 気がついたのは 彼女の怒りが初めて僕に向けられた時だった


「このままじゃ終わらない」


彼女のいつもの口癖がそのときにも発せられて僕達は終わった



性格や生き方は顔立ちに勝るのかもしれない

と 僕はそのとき初めて思った



にしては ちっとも懲りてないかもしれない





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