髪を洗ってくれる女




頼んだわけでもないのに 目の前に

コンビニのガラス越しにしか見たことがない雑誌が数冊置かれ

拘束具みたいな白い木綿の上着を着せられ


前は黄緑色だったけど今は黄金色の髪の男の子に 

したくもないステイホームの話を 言葉少なに話しながら

髪をいじられた


そのあとで

申し合わせたかのように同じ色の髪の色の若い女の子が我が髪を洗った

直接触らなくてもわかるその細い指は

申し合わせたかのようなマニュアルどおりのラインと

マニュアルどおりの速さで僕の短くなった髪を洗った


だけど

仰向けに寝せられて目を瞑っていた僕はリンスの頃に

なぜか

初めて会ったその彼女とのセックスを思い描いていた


もはや

黄金色の髪の毛と黒いローヒールの靴しか覚えていない彼女とのセックスを僕は思い描いたのだ



なぜ そんなことを思い描いたのか

僕が年甲斐もない色情魔の変態だからか


それとも

仕事のストレスが溜まっているからか



かろうじて

リンスをシャワーで洗い流される前に気付いてよかった

僕の髪をマッサージする彼女の指の圧力の変化がそう思わせたのだ


細い指である程度の圧力を頭皮に掛けたあとに

ゆっくりと緩める

圧を掛けられたツボが徐々に押し広げられるような感じで

ゆっくりと指の力を緩めながら広げていく

シャンプーでの洗い方が幼児が初めてやる塗り絵のように

マニュアルをたどたどしくなぞる洗い方だった分

この指の動きはもはやリンスマッサージではなくてセックスだ

繰り返されるその指の動きの中で僕は彼女のモチベーションをそう決め付けた



「おつかれさまでした」

タオルドライをした後の彼女の言葉



やっぱり 僕は変態かな って思った




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