蒼夜



あの日 あの時の接吻は 解氷の合図

地中深く 誰の目にも触れることなく

その形も 成分すらも変わることなく

目を閉じて 息を殺して 

何年も 何十年も

この時が来るのを静かに待っていた


幾筋も流れていく透明な雫を拭うことなく

ただ黙って その様を僕らが見つめる中

ゆっくりと ゆっくりと 

その姿を現していく


厚い氷がすっかり溶けたあと

その両の羽を動かして最後の雫を落とした青い蝶は

しばらく 僕らを見つめ

そして

僕らも 青い蝶を見つめた


まもなく

下弦の月灯りに一瞬 羽を虹色に輝かせて

青い蝶は飛んだ


蒼い闇の中だけど

その姿をいつまでも追いたい

と 僕らは思ったんだ





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