最後のBANSAN
少し遅れたくらいで 冷えた天ぷら出しやがって
イカ天なんか 笹蒲鉾みたいになってやがった
マグロの赤身なんて ありゃ赤身じゃないね 黒身 黒身だよ
おまけになんだい このトイレの狭さは
こんな広い店構えしてるくせに
肩をすぼめながら用を足さなきゃいけないじゃないか
「お坊様 お家からお電話が入っております」
なんだいなんだい お斎はまだ終わってないよ
ん? すぐに帰って来いって? 何があったんだい?
わかったわかった しょうがないな これから 店を出るよ
「ありがとうございました お気をつけてお帰りくださいませ」
なにが お気をつけて だ
ろくなもんしか食わせないでおいて
しかし なんだって こんな昼間なのに空が真っ暗なんだい
雨が降るわけでも 風が吹くわけでもないのに
お~い 帰ったよ いったい どうしたっていうんだい
「これが 最後の番組でございます」
ん? 最後の番組?
何言ってんだい ただのワイドショーじゃあないかい
「これが 最後の御飯でございます」
最後の御飯?おいおい 俺はお斎で飲んで帰ってきたんだよ
こう なんか汁物とかないのかい?
「これが 最後の味噌汁でございます」
そうそう これが無いとな
って 具が何にも入って無い ただの汁だけじゃないか
「これが 最後の梅干でございます」
もう しょうがないな これじゃまるで戦後の食卓だよ
しかし さっきから「最後 最後」っていったいなんなんだい?
「これが 最後のほうじ茶でございます」
だからさ 最後 ってなんなんだよ
「ご覧ください 最後の灯油ストーブの燃えさしでございます」
おいおい 灯油を注ぎ足してくれよ
寒くてかなわん おお 寒
「もうまもなく 電気が止まります」
ええ!? ワイドショーのキャスターたちも席を立ったよ
いったいぜんたい どうしたって言うんだい?
外も真っ暗になったし 鳥の鳴き声ひとつしないじゃないか
「これが 最後のロウソクと最後のマッチでございます」
おお 点けてくれ 点けてくれ
でも なんだか お前の姿が薄くなっていってるように見えるが
「長らくお世話になりました わたくしもそろそろ最後を迎えます」
ええ!? おい それは困る 行かないでくれ
子どもたちはどうした?
ジジやババはどうした?
え!? いったいどうしたっていうんだ
「あなた様は まもなくこの世に存在する唯一の人になります」
え? なんだって?
「本尊様と共に この世の末をお見届けくださいませ」
おい 冗談はよせ
俺も 俺もお前と一緒に行く 消えないでくれ
「では お先に失礼いたします」
お~い 待ってくれ~
俺を置いてかないでくれ~
「此処に胡麻が九粒ある これを私と分け合いながら次の世を待とうぞ」
本尊様…
次の 次の世はいったい…
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