誕生日 前




 “誕生日には、きまって良くないことが起きる”というテーマの短い映画を見た。

 当たり前のことだけど、それは「テーマ」なのだから、主人公の身の上には幼少から大人になるまでずっと良くないことが起きていた。

 そして、当たり前のことだけど、それは「映画」なんだから、見たからといって僕自身が心配する必要はない。


 だけど、心配だ。


 ここ十何年間は、自分の誕生日が特別な日だなんて思ってなかった。

 誕生日を境に、またひとつ歳を取り、稀に、誰かから「何歳ですか?」と尋ねられたときに、「何歳だったっけ…」と少し思い出す時間があった後、答えていただけに過ぎない。

 前日の夜の0時前もそわそわしない。そもそも0時前には眠っている。朝起きて「おはよう」と言われることはあっても「おめでとう!」と言われることもない。仕事から帰ってきても、特に、何もなく、ましてや、サプライズなんちゃらなんてこともあり得ない。普通に、ホッケを焼いたやつを食べ、芋とワカメの味噌汁を残さず食べるだけだ。


 では、何故に、今年だけ気になるのか。


 それは、きっと、映画を見たせいだけじゃない。

 最近、知人に誕生日を聞かれたせいだけでもない。

 誕生日前に嫌なことがあったせいだけでもない。


 だけど、だけど、何故か気になる



 こうなりゃ、なんでもいい。

 映画の主人公が味わった屈辱でも、悲惨な出来事でも、淋しい出来事でも、なんでもいい。


 なんか、あれ!


と、思っている不思議な誕生日 前。





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