秋雨街にて




真ん中分けの髪に 銀縁メガネの男が喋っていたよ

瞬きひとつせずにまっすぐに顔を向けて 喋っていたよ



日焼けしたおでこを輝かせながら 眼が細い男が笑っていたよ

一重瞼を限りなく細くさせて 笑っていたよ



もう少しで胸の谷間が見えそうなブラウスを着た女が頷いていたよ

細い指を顎にあてながら 頷いていたよ



温かそうなとっくりセーターを着た女が眠っていたよ

横に前に舟をこぎながら 眠っていたよ



茶髪なのに白髪交じりの年齢不詳の男が 手を挙げていたよ

大きなパーをつくって 手を挙げていたよ



頬まで髭を生やした彫りの深い男が熱弁してたよ

何かをわかってもらいたいかのように身振りを付けて 熱弁してたよ



ベリーショートの髪に大きな輪を耳にぶら下げた女が煙草を吸っていたよ

すべてお見通しかのような笑みを浮かべて 煙草を吸っていたよ



栗色の長い髪を手で押さえながら女がブーツを選んでいたよ

これ以上無い真剣な顔で ブーツを選んでいたよ



黒いスーツに紺色のネクタイをした男が はにかんでいたよ

よほど誉められているのか手を前で結んで はにかんでいたよ



花柄の折り畳み傘を支度しながら雨空を見上げている女がいたよ

誰も待っていない部屋に帰るだけの女が いたよ





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