俺をわかってくれているのは




こんがらがった頭のまま

外に飛び出した


慌てて履いてきたスニーカーは

左の親指が当たって痛いやつだった

右のポケットをまさぐると

ライターだけが入っていて

煙草を持ってこなかったことも併せて後悔した

しょうがないから

パーカーのフードをかぶって

この小雨を凌いで歩くしかなかった



  そもそも なんで俺がこんな風に外に出なきゃいけないのか

  昔のホームドラマじゃ 出て行くのは女の方で

  男は新聞を広げたまま 眼光を鋭く光らせていただけのはずだ

  所詮 昔も今もテレビの真似をするんだから

  そういうのをやっていればいいのに



走る車は 自分ばっかりファミリーのお手本みたいなワンボックスカー

アスファルトの水溜りをシャーシャー水しぶきの音を立てて

“モノより思い出”みたいな顔を本気でして

フードをかぶって独り歩く僕を見下ろす


俺に水溜りのシャワーの洗礼を浴びせたあとも

右ウインカーをずっと点滅させながら

何百メートルも走り続ける 蛍光ヤッケ上下のおばさんバイク

大根の葉っぱが寒そうに籠から顔を出してんだろ





こんなふうに

外に飛び出したところで 事態は1mmも好転しない



  「ホント 馬鹿じゃねん」

  その一言だけで済んだことを幸せに思うんだな

  もう あんな奴なんか 口を利いてやるもんか

  困った顔していたって 声なんて掛けてやるもんか

  俺の存在を消すことで 俺の存在の大きさを思い知らせてやる



左のポケットをまさぐって煙草を取り出そうとしたけど

無かったことにまたまた気付いて

短く叫びそうになったとき

はじめて 気がついた


目の前のねずみ色の空に 

大きな虹





お前だけじゃん わかってくれてるのは




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