真珠

君をさっき空港に送って、家に帰ってからこれを書いている。

一応、部屋に入ってから「ただいま」と言ってみたけど、当然、返事はなかった。

いや、飛行機の待ち時間に話したって本当は良かったんだけど、伝わるかどうか自信がなかったから手紙にしてみた。


空港に向かう車の中で、ユーミンの『PEARL PIERCE』を掛けてたでしょ。で、2曲目『真珠のピアス』が流れたときに、君に「次の曲にして」って言ったじゃない。それは、君が「なんだかこの曲調って『BLIZZARD』に似てるわよね」って言ったのが気にくわなかったわけじゃないんだ。いかに、曲調が『BLIZZARD』に似ていても、君とまた離れ離れになるというシチュエーションで『真珠のピアス』はないだろう、って思ったからなんだ。


でも、実は、次の曲になってからも僕はずっと『真珠のピアス』が頭の中でリフレインしていて、君の話す言葉にも生返事だったのはそういうことなんだ。

いや、君との別れを予感したのでも、恨み節があったわけでもない。

僕が頭の中でリフっていたのは、真珠だ。


僕は、ずっと、真珠をつくる阿古屋貝ってのは女性のイメージがあった。だって、その体内で大事に大事に真珠球を育てるわけだろ。それって、女性っぽいなってね。

でも、今日、わかったんだけど、僕はまるで阿古屋貝だなって、ね。

自分の柔らかい体を守るために硬い貝殻をしっかりしめて生きてきたのに、知らないうちにその僅かな隙間から突然入ってきた君を僕は、これまでずっと僕の体内で大切に育てて守ってきたんだって。


それを君に伝えたかったんだ。

伝わってくれていればよいけれど。



P.S.

台風が思ったよりも近付かなくて、飛行機は運航したけど、このまま欠航してしまえばよいのに、ってこっそり思ってたこともここに告白するよ。






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