第4話

私が所属するバスケ部は水曜日以外は基本的に朝も午後も部活がある。

強豪、とまでは行かないがそれなりに練習量はあって。


「じゃあね絵未、また明日。」

「ばいばーい。」


帰りのホームルームが終わった後も、

出来るだけ早く体育館に向かうのが当たり前で。


あおいと教室でお別れをし、少し早足で歩いていれば

廊下の先からサッカーのユニフォームが見えてきて。


「・・あ、絵未ちゃん。お疲れさま。」

「溝口先輩。お疲れさまです。早いですね。」


溝口先輩は、一つ年上の3年生。

翔と同じくサッカー部に所属していて。


「今日珍しくホームルームが短くて。珍しく。」


そう言って溝口先輩はため息をつく。


先輩のクラスの担任は話が長い事で有名で、

全校の前で話すときも本当に長い、そして面倒くさい(失礼)。

ホームルームでもそれは変わらないらしく。


よかった、私の担任じゃなくて。


「いやー、ご愁傷さまですー。」

「・・なんか馬鹿にしてない?」

「そんなことないですよ。」

「私の担任じゃなくてよかった、くらいに思ってそう。」

「・・・先輩、私の心読めるんですか?」

「いや思ってたんかい。」


素直だな、なんて言って先輩が笑う。

無愛想という訳では全くないが、身長があるから怖がられがちの溝口先輩だけど、

笑うと顔がクシャクシャになって、とても幼くなる。


そんな彼はとても優しくて、良い先輩で、

そして、


私の秘密を知る、唯一の人物だったりする。


「・・先輩、なんか髪明るくなりました?」

「ほんと?・・また日焼けしたのかな、嫌だなあ。」


そう言いながら先輩は自分の前髪を引っ張る。


「本当に髪の毛って紫外線で茶色くなるんですね。」

「みたいだね。・・ほら、翔も。結構毛先茶色いよね。」

「確かに。でも翔の場合元々が少し茶色かった気もします。」

「そうなんだ。あれかな、真っ黒の人の方が意外と少ないのかな?」


そうかもしれない、なんて言いかけて、

ぱっと頭の中に1人思い浮かぶ。


「あ、でも、あおい。」

「ん?」

「・・あおい、は本当に真っ黒ですよ。」


本当に少し、

少しだけつっかえてしまった。


そんな私を、彼は見逃してはくれない。


「あー・・確かに、ね。」


先輩は頷いて、

そしてさっきまでとは少し違った瞳で、

私の目を真っすぐに見つめる。


「・・ねえ。」


「絵未ちゃん、しんどくないの?」



見逃してくれない、

見逃してくれない、から。


「・・何がですか?」


私も、分からないフリをする。


先輩の目を真っすぐに見つめ返して首を傾げれば、

数秒、そのまま時が止まって。


溝口先輩が先に目をそらして、

諦めたようにため息をつく。


「なんでもないよ。・・部活頑張って。」

「ありがとうございます。先輩も頑張ってください。」

「ありがとう、じゃあね。」

「さようなら。」


過ぎ去り際に先輩はポン、と私の頭を叩いて。



「だめになったら言うんだよ。」


ああ、少し、泣きそうになってしまった。

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