第184話 黄金のゴーレム騎士

「さて、どうするか……」

 目標を見つけたものの、周りに護衛がいて簡単には助けだせない。

「どうすんじゃって」

「あのなぁ、それをいま考えているんだよ。人に聞く前に、少しは自分で考えてみたらどうだ」

「それなら簡単じゃ。突っ込んで蹴散らして、後は走って逃げる!」

「ああ、うん。お前はそういう奴だよ。悪かったよ、余計な事を言って」

「お主なー、我を馬鹿にしとるんか?」

 金髪エルフは目立つためフードを目深に被って、顔は布で隠している。だが、そこから覗く目は強く不満を訴えている。

「理解してくれたならありがたい」

 呆れたアヴェラにイクシマが突っかかるが、しかし頭を抑えられ動きを封じられてしまう。ジタバタ暴れる手応えを感じつつアヴェラは考え込む。

 これが映画であれば、確かにイクシマの言う通りの行動だろう。突入して周りの人間を斬って斬って斬りまくり、ナニアと手と手を繋いで走りだす。その後はアクションシーンを繰り広げながら追撃を逃れ、あと一歩の辺りでピンチに陥れば御の字。そこから大逆転で、めでたしめでたしだ。

 だが、現実はそうでもない。

 周りは敵だらけで、どう言おうが多勢に無勢。一斉に襲い掛かられた場合は対応に困る。もちろん魔法で全滅させる事も不可能ではないが、相手だって必死になって襲ってくるだろう。それでは不測の事態が起きかねない。

「うーん、うん?」

 ちょいちょいと横からつつかれた。

 ノエルだ。こちらもフードと布で顔を隠しているのは、やっぱり傭兵やら兵たちの間で姿を晒すのは目立つしトラブルの元だからだ。なぜなら見目麗しくスタイルも良いので。

「あのさアヴェラ君さ、そろそろ放してあげよっか」

「うん?」

「ほらイクシマちゃんが落ち込んでるからさ」

「ああすまない」

 ふと気付けばイクシマが大人しくなっていた。抵抗し疲れた様子だが、ひょっとするとアヴェラが考え込んで相手をしてくれないので悄気ただけかもしれない。その証拠に、頭をポンポンしてやると小さく唸っている。

「とりあえず、父さんと母さんを探すか」

「我になんぞ言う事はないんか?」

「ああ、頼りにしているぞ」

「……狡い奴」

 イクシマは短く言って、そっぽを向いた。


 殆どの者が天幕や日除けの下にいて日射しを避けている。

 その中で砂漠の民は直ぐに分かる。白ローブに短いチュニックを重ね、それをベルトで固定。頭は首筋まで覆う白布をバンダナで止める格好だ。

 一方で外からの者は傭兵であれば、よく見かける普通の服に革鎧でマント姿。

 総数はやはり百は超えているようだが、男が多く女は少ない。こうした企みに関わる荒くれに男が多い事が影響しているのだろう。

 しかし今は大半の者が不安そうだ。

 砂漠の民は信心深いし、傭兵は縁起を担ぐ。だから空で太陽のような輝きが生じた事や、その後から囁かれだした太陽神の怒りという言葉が影響していた。

「おっ、アヴェラか。こっちだ」

 そんな声をかけられ視線を向けると、トレストの姿があった。どうやら傭兵達にまじって堂々と食事にありついていた。図太いと言うか、凄いと言うかは迷うところだろう。

「お前も食べるか」

「止めとくよ。それより母さんは?」

「ああ、水を貰いに行って……ほら来た」

 軽く視線を向けた先には、両手にコップを持ったカカリアの姿があった。再度アヴェラ達の分を取りに行きかけるカカリアを止め、声を潜めて情報共有をする。

「――というわけで、目的の相手は発見したよ。ただ問題は、ガーガリア姫とドレーズの存在かな」

「誰だそれは?」

「なんだ知らないの? アルストルから駆け落ちした姫とその夫だけど」

「……ガーガリア、ドレーズだって?」

「うん、ただ自分たちの存在を認めるようにと目的の相手に迫っていた」

 声を潜めているとは言え、流石にナニアという言葉を出せない。だから曖昧に言葉を濁しながら話している。

 話を聞いたトレストとカカリアは互いに顔を見合わせていた。

「で、そういった人がいて護衛も側に居るから簡単には近づけないよ」

「なるほど、大体は分かった。今度はこちらだが、コーミネ家の当主を見つけた」

「そうなんだ。でも、それが当主って本当に?」

「母さんがそういう方面は詳しいからな、間違いない」

「なるほど」

 やはり過去にいろいろあって、そういった上流階級に詳しいのだろう。アヴェラが心密かに母の過去に思いを馳せつつ頷くと、当の本人であるカカリアはちょっぴり得意そうにしていた。


「じゃあ、犯人はその連中と言う事なんだ」

「それだけではないな。俺の見たところ、ここに居る傭兵の大半は所属が……」

 トレストは更に声を潜め、西にある国の名を告げた。

 そして、そこに所属する傭兵が多数居るだけでなくて。傭兵の格好をしているが、明らかに正規の兵士としての訓練を受けた者が多数交じっているとも付け加えた。

「ふーん、なるほど。そういう事なんだ」

「そういう事だな。で、砂漠の領主と仲良くなって楽しい夢を思い描いているという事だな。愚かだが厄介なことに行動力だけはある」

「あげくに、駆け落ちした妹夫婦も噛んでいると」

「それは違うぞ、絶対にだ」

 最後は妙に力強く断言するトレストと、激しく同意して頷くカカリアだ。何やら妙に大公の妹夫婦の肩を持っている。

 どうやら、あまり突っ込まない方が良さそうだ。

 そう判断してアヴェラは思案した。親友であるウィルオスに託した手紙が大公の元に届くまでまだ時間がかかる。そこから大公が考え判断し行動するまで、更に時間がかかる。

 一方でここでは他国の勢力が動いている。

 いまもって相手が引き揚げていない点を考えれば、間違いなくまだ何かをするつもりであるし、ここには囚われのナニアもいる。

「早いところ動いた方がいいよね」

「アヴェラの言う通りだ。俺もそう思う。相手の動き的に、あまり時間はない」

「そうなると……ちょっとした騒動を起こして、その間にゴニョゴニョってところじゃないかな」

「確かに我々の目的のためゴニョゴニョだな」

 親子の間なのでゴニョゴニョだけで、ナニアを救助して脱出するという事まで、互い通じ合う。

「ではアヴェラよ、どうやる気だ?」

「うん、二手に分かれようと思うけど」

 親子で頭を寄せ合い内緒話をはじめると、ノエルとイクシマはさり気なく辺りを警戒して様子を窺う。


 さり気なく辺りを動いたアヴェラは、外に出ようとする連中を見つけた。近づくと当たり前のような素振りで後をついていく。砂丘を一つ越えたところで、砂を含んだ風を避ける素振りをしながら距離をとる。

 ちゃっかりと拠点から出てしまった。

 アヴェラは砂の上で身を屈め、辺りの様子を窺った。側にはノエルとイクシマがいて、首元にはヤトノが大人しく巻き付いている。

「よし誰もいない、問題なし」

 ややあって立ち上がる。

「でもさ、ここからどうするの? 騒動を起こすのならさ、ここよりさっきの方が良かったかなって思うけど」

「そうかもしれないが、ここの方が集中できるから」

「集中って?」

「もちろん魔法だ」

 途端にノエルは空を仰ぎ、イクシマは頭を振る。

「お主な、それはな良くなかろ。魔法って何する気じゃ? いや、何も言うでない。どうせ碌でもない事になると我には分かっておる。だから止めておくのじゃ、分かったな。我との約束じゃぞ」

「うるさいな、今度は大丈夫だ。ただゴーレムをつくるだけだから」

「それさっき爆発したぁ!」

「安心しろ、今度は爆発しないし完璧だ」

「お主の完璧は完璧でないと我は思うのじゃが」

 辺りを砂丘に囲まれた窪地のようになった場所で、イクシマは強く言い放ったが、しかしアヴェラは余裕の態度を崩さない。

「問題ない」

「大ありじゃ! お主、魔法を使いたいだけじゃろうが」

「その何が悪い」

「開き直ったぁー」

 イクシマが両頬を抑えて悲鳴のような声をあげる間に、アヴェラは目を閉じ集中。気合いを入れて目を見開くと同時に唱える。

「ありったけで! 厄神の加護よ、クリエイトゴーレム!」

 多分それは最悪の魔法の使い方で間違いなかった。なぜなら誰にも聞かれなかったとは言え、アヴェラの懐でヤトノが小さく声をあげていたのだから。

 足元の砂地が揺れ、鳴動する。

 そこからゆっくりと身を起こすように巨体が立ち上がる。その全身は黄金色に輝き、頭部は大きく特徴的で全身は優美にして美麗。両の腰に太刀を携え堂々と立つ姿には王者の風格があった。

 ノエルは口を軽く開けたまま惚けたように黄金のゴーレムを見つめている。

「うわぁ綺麗……」

「名付けるのであれば、ナイト・オブ・ゴーレム……は、マズいな。とりあえず、黄金のゴーレムナイトかな。でも肩の武器は馬上槍になっているか、流石に反映はされなかったか、バスターラン……ん?」

 ちょいちょいと横からつつかれた。

 ノエルだ。

「ねえ、どうしてあんな金色なの?」

「まあモデルが金色なんで。それを想像したが、どうやら地下に黄金があったみたいだな。それが引き寄せられた感じがする」

「本当に黄金なんだね、凄い凄い!」

「だな、後で回収しよう。それよりも、さあ征け黄金のゴーレムナイト」

 アヴェラの言葉に黄金のゴーレムナイトはグワッと目を開け歩きだした。

 突如として現れた光り輝くゴーレムに、砂漠の拠点は大騒動だ。そこに多数配置されていたゴーレムたちが指示を受け次々と向かってくる。

「どうだ陽動としては完璧だろう」

「いいや、我には分かっとる。絶対に何か起きるんじゃ、間違いない」

 イクシマは何度も頷いていた。

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