第52話 冒険者パーティで大事なことは
山岳地帯の探索地に出現する強敵モンスターは、スケレトスという名だ。
骨の身体に錆は浮いているが金属系の防具を身につけ、剣と盾を装備する。しかも、なかなかの腕前で鋭く素早く動くのだ。
「どっ、りゃあああっ!」
イクシマはエルフらしからぬ気合い声をあげ、エルフらしからぬ武器の金棒を振り降ろす。それを盾で受け止めたスケレトスであったが、そのまま地面へ叩き付けられる。トドメの一撃に移ろうとして、しかしイクシマは跳び退いた。
別のスケレトスが音もなく迫り、錆びた剣を突き出してきたのだ。
「うがーっ! こいつら面倒なんじゃー!」
辛うじて回避したものの、地面に倒れたスケレトスも立ち上がり盾をしっかり構え防御態勢を取っている。そして二体で、じっくり慎重に迫ってくるのだ。
風が吹き砂塵が舞い上がると、小砂のぶつかる細かな音が響く。
そしてノエルも戦闘中だった。
大柄なスケレトスが両手剣を勢いよく振り回し、ノエルは一つに結んだ黒髪をなびかせ身軽に横へと跳んだ。目標を失った両手剣は地面に激突し、鈍く強い音と共に火花を散らす。その隙に素早く踏み込み、手にした小剣で鎧に覆われていない胴を払う。
「やぁっ!」
スピードアップにアタックアップを使用した渾身の一撃が決まった。
「っ!」
声をあげたのはノエルだ。踏み込んだ足が小石を踏み、目測の外れた小剣は金属鎧に弾かてしまったのだ。ただし、狙い通りに命中していたとしても固い骨にダメージを与えられたとは思えないのだが。
兜を被った骨だけの顔がノエルに向けられる。
「えーっと、なんと言うかさ。ばりばり怒ってる感じだったり? そうだよね戦闘してるんだもんね、うん」
誤魔化し笑いを浮かべながら跳び退けば、寸前までの場所を両手剣が薙ぎ払っていった。態度は惚けた感じでも、ノエルは真剣だ。息を詰め、この難敵へと懸命に立ち向かおうとしている。
そうやって二人が戦う反対側ではアヴェラが、やはりスケレトスと戦闘中だ。
狭い山道の途中で挟み撃ちを受けた状況だった。左右は岩や砂ばかりの急斜面で昇る方は困難であるし、降る方は遙か下まで駆け下りるしかない危険な地形だった。
「くそっ一体片付けたと思ったら、今度は二体か!?」
相手の剣をかいくぐり、呪われたヤスツナソードで首の骨を断ちきったところでアヴェラは呻いた。ガチャガチャと金属音を響かせ新たなスケレトスが二体、さらに山道の向こうから走り寄って来るのだ。
「くそっ、こうなったら魔法で――」
「それダメーっ!」
「ダメなのじゃぁっ!」
乱戦中にもかかわらず、半ば悲鳴のような叫びが背後から聞こえて来た。よほど、前にアヴェラが使用した魔法への恐怖があるのだろう。
「言ってる場合か!」
舌打ちする間に二体が挟み込むように斬りかかって来た。
すかさず前転、地面の上で膝を突きながら低い位置を薙ぐ。途中に固い物を叩くような手応えがある。スケレトスの脛を金属グリーブ諸共に、それも二体まとめて断ち斬ったのだ。
もちろんこれはアヴェラが凄いのではなく、強化や呪いによって斬れ味が増しているヤスツナソードが凄いだけでしかない。
「よしっ、こっちは片付いたな」
身体をばたつかせ地面を引っ掻く以外は何も出来ないスケレトスは置いておき、アヴェラは即座に苦戦する仲間の援護へと動きだした。
それでパーティは危機を乗り越える。
◆◆◆
「いろいろ反省すべき点があったかな」
アヴェラは首を回しながら呟いた。
まず戦闘に入る前は、前後の警戒を怠り一本道を進んでしまった。もちろん警戒はしていたが、少し形だけの警戒になっていた事は否めない。
これまでが順調すぎ、知らず知らず油断していたのだ。
そして何より、無理をしていた事が大きい。
山岳地帯を踏破してしまえと、先を急いでいたのも良くなかった。それで無理をして危険を軽視する原因となっていたのだ。
「私も戦い方を考えないとだよね」
「むう、スケレトス相手じゃと我のような打撃が良いのう。無論、アヴェラのような剣であれば別なんじゃが」
「これレアドロップの凄い小剣なんだけどね……」
ノエルが手にする小剣は草原のレア宝箱から入手したものだ。風の神ゼフィロスの加護を持ち、所有者の素早さをあげる効果がある。これにスキルのスピードアップを重ね、驚くほど素早く動けるようになっていた。
しかし、スケレトス相手となると如何に素早くとも決定的ダメージを与えられないという状況なのだが。
「じゃっどん、そうであるならば。ノエルは回避に専念してはどうじゃ? でもって、距離を置いて魔法を使うとか。その隙に我が金棒を打ち込むと」
「そうなると、こっちは?」
「お主は今のまんまでいんでないか。我とノエルのセットで一つの戦力、お主はお主だけで一つの戦力。その単位で戦闘を組み立てるのが一番じゃろって」
「なるほど……」
アヴェラは頷いた。
パーティなのだから互いに不足する部分を補えば良く、個人単位で考える必要はないという事だ。それにノエルとイクシマは仲も良く連携もとれる。唯一の問題をあげるのであれば、アヴェラが少し寂しいぐらいである。
「お話は終わりましたか? それでは素材です」
素材回収担当を自任するヤトノが白い棒のような代物を差し出してくる。見た感じ大腿骨のようで、実際にそれは正しいのだろう。
「骨……この素材は何に使われるんだ?」
「さあ、どうなのでしょうか。案外と、御兄様の日常生活に関わっているやもしれませんね」
「骨が使われているとか、なんだか嫌だな。それにしても、あれだけ剣とか盾を装備してただろ。そっちを残してくれたら良かったのにな」
「残念ながら全部消えてしまいました。ですが、どれも錆びておりましたし御兄様に相応しい品ではありません!」
「売れば金になるだろ、金に。それで新装備を買うという手もあるんだがな。まあいいか、帰ろう」
来た道を戻りだす。
ここまで来るのにメッケルン二体に遭遇しいずれも倒している。これに今のスケレトス六体倒していれば、今日の稼ぎとしてはなかなかのもの。もちろんスケレトス討伐のクエストもクリアしている。
しばらく進み、ふと横を見やってアヴェラは呟いた。
「おっ……あそこに道があるな。なんで気付かなかったんだ」
「確かさ、この辺りでメッケルンと戦ってたよね。それで見落としたかも」
「なるほど。その辺りも反省すべき点だよな」
「そうだよね、うん」
戦闘に夢中で気付かなかったなど完全に失態だ。
「なんじゃ、情けないのう。我は気付いておったぞ」
「だったら何で言わない?」
「うむ! てっきり気付いておって、行かないかと思ったのじゃ。これは我も言うべきであったな」
「まったく、これだからコレジャナイエルフってやつは」
「なんでじゃあああっ! 今の我が悪いんか!?」
「大きな声で騒ぐなよ、半分は愚痴だから」
では残り半分が何かと言えば、イクシマの反応が良いのでついつい弄りたくなってしまうからだ。女の子相手というよりは、なんだかペットの犬でも構って遊んでいる気分だったりする。
戻りの道を抜き身の剣を引っ提げ歩いていく。
ファンタジー的な絵面であれば肩に預けるように担ぐところだが、剣先は下に向け軽く前に出している。その方がなにかと速い。そもそもパーティで行動するならば、前を歩く者が後ろに剣先を向けないのは当然のマナーというものだ。
ノエルが足を早め横に並んできた。
澄んだ湖水のような浅葱色した瞳で見つめてくる。
「あのさ、草原の後にギルドが解禁されたって事はさ、やっぱりここから難易度が上がるって事なんだよね?」
「養成所のやり方を見てると、そうなんだろな。ここまで来る事が出来ない程度なら、ギルドに加わる価値すらないって事じゃないのかな。しかしギルドか……」
「私としてはさ、今のメンバーで充分かな。何て言うかさ、ちょうど良い感じでやれてるし。これ以上は増えて欲しくないな、うん」
その気持ちは良く分かる。
戦力としてのバランスはともかくとして、人間関係からすると、この三人パーティはぴったり填まっているのだ。そこにヤトノが良いアクセントになっている。
探索や採取など冒険者は常に命がかかった状態で行動する。
一番大事な事は人間関係であって、信頼できる仲間と一緒でなければやってられない。だからこそ、あのギルドの勧誘が余計に鬱陶しいのだ。
「ふむ、我も同感なんじゃって。そうなると、もそっと戦い方や装備を見直してじゃな。戦力充実ってもんをせねばのう」
「そうなると魔法の練習とか?」
「お主は魔法禁止じゃって! それよかな……作戦会議をせんか、作戦会議! こないだのカフエテリアなんぞどうかのう。甘い物なんぞ、つまみながら会議じゃぞ」
「こいつ欲望が漏れ出てやがる」
「良いではないか良いではないか、我はとっとと戻って甘い物が欲しいぞ!」
「分かった分かった。とりあえず、上の連中に気付かれない様に静かにしろよ」
都市へと戻れる転送魔法陣の扉が見えてきている。面倒を避けるのであれば、気付かれぬよう足音を抑えて進み一気に飛び込むしかないだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます