黒の少女

『我が名は、レム。汝ら人間ヒトを待っていた』

 人型の光が、シンたちに向けて語りかける。その声は耳ではなく、身体全体で感じるような不思議な感覚だった。

 レムと名乗る光を見て、メフェリスとアシフザックは驚いた。

 シンとマユは、光が何なのか理解できず固まってしまう。それをほどくように、レムは優しく言葉を続ける。

『恐れる必要はない。黒の少女』

「黒の、少女?」

 シンには、それがどういう意味か分からない。だが、マユをそんな風に呼ばれたくなかった。

「妹は黒の少女なんかじゃない!」

『少年よ、少女には闇の力が宿っている』

「闇の力……」

『その証拠に、この闇の中を視ることができるだろう』

「そんな……マユ?」

 シンはマユに振り向く。しかし、マユはシンから目を背けた。

「本当なのか、マユ?」

「……」

 マユは答えようとしない。代わりにアシフザックが口を開いた。

「シン君、君たちは聖都を脱出するとき、闇の中を抜けてきたと言っていたね」

 アシフザックの問いにシンは頷く。たしかに、あの時マユから広がった闇は、シンや騎士たちの視界を奪った。だが、マユにはあの闇の中を移動できた。その闇と同じように、地下神殿に広がる闇の中も、マユには見えているのだろうか。

「マユ君は、力の制御はできないが、力を発動することはできるんじゃないかい?」

 シンには分からないことが山ほどあった。聞きたいことも山ほどあった。シンはレムに問い質す。

「なんでマユなんだ!?」

『人間には理解し難いだろう。われにも闇の精霊プルトの真意は知らぬ。ただ、プルトが少女を選び、力を与えたことに間違いはない』

「闇の精霊プルト?」

 アシフザックはシンの疑問に答えるように解説する。

「そもそも精霊が人の前に姿を現すことが異常なことだ。だが、今はその点を無視しよう。そのお方は光の精霊レム。光を司る神の使徒と言われている。そして闇の精霊プルトは、闇を司る神の使徒だと言われている。どちらの神も古き神として、すでにこの世の座からお隠れになったと神話で言い伝えられている。そして、精霊レムと精霊プルトは神々の代わりに今でも争い続けている」

 レムはアシフザックを見つめ、ニコリと笑うように光を歪ませる。

『我々に詳しい人間がいると思えば、イフリトが気に入った人間の友か……汝も数奇な運命だな……その者が言うように、我はプルトに対抗するために此処へ参った。黒の少女が生まれたのであれば、光の使徒を生むまで』

「それが、精霊レムが私たち人間に干渉している理由ですか……」

 レムは、光輝く手をシンに向けて伸ばす。

『黒の少女と血縁にある少年よ。少女と同じく、少年にも光の使徒となる素質がある。我と共に聖域の守護者と成れ』

「光の使徒? 聖域の守護者?」

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