戦闘

 アシフザックの持つ短杖たんじょうよりも長い三日月刀シミターを右手に持つ盗賊の一人がアシフザックに近寄り間合いを詰める。

(詠唱させなけりゃ魔術師なんざイチコロだ!)

 盗賊はシミターを大きく振りかぶり、魔術師の頭を狙い振り下ろす……はずだった。魔術師は、半身になって盗賊の左側に右足を大きく踏み込む。盗賊の剣筋をかわしつつ、盗賊のあごを狙い、短杖を振り上げる。

「ぐぇっ」と声を漏らす盗賊は、なぜ自分が空を見上げているのかが分からない。魔術師は振り上げた短杖を盗賊の顔に振り下ろす。盗賊は鼻を強く打たれ鼻血を噴き出した。


 メフェリスは、短剣ソードブレイカーの峰に付いた棘を左手のひらに刺し、血をにじませる。左手を払い血を砂に撒き、メフェリスは唱える。

「我が血は砂の地と交わり、砂の肉は我が肉と成る――」

 詠唱だ。盗賊二人係りで詠唱と止めようと左右から飛び掛かる。だが遅かった。

 飛び掛かろうとした盗賊二人の動きが止まる。

「なんだ!? 身体が動かねぇ!!」

「おい、お前! なんだその砂は!」

「お前だって!」

 盗賊二人はお互いの身体を見ると、砂がつる植物のようにまとわりつく。

 妖術師は動けなくなった二人の武器をソードブレイカーでへし折り、二人を戦闘不能にした。


 一方、最後の一人の盗賊はシンとマユへ近づいていた。マユをかばうようにシンが前に出て剣を構える。その手は震えていた。

「そんな構え方でいいのか? 坊主!」

「う、うるさい!」

「いいか? 剣はこう使うんだ」

 盗賊はシンの握る剣の先をはねるように、剣先を当てる。シンはその力に負けぬよう剣を握り、力み過ぎてしまう。まっすぐ構えようとするほど、剣先はブレていき、隙が生まれる。

 その隙を、盗賊は突く。右ひじ、左肩、右すね、左手。左右上下をパンにナイフを突き刺そうとするように柔らかく突く。それをシンは間一髪で避けていくが、服は切れ、浅い切り傷が増す。

「案外動けるじゃねえか! だが、これで終わりだ!」

 盗賊は剣を大きく振り上げ、勢いよくシンの脳天目掛けて振り下ろす。先ほどの突きとは違い力強い風を感じた。シンは、避けられない、受けきれないと悟った。


 だが、盗賊の腕に砂が巻き付く。盗賊の剣は、シンの頭すれすれで止まる。

「なんだ!?」

 盗賊二人を戦闘不能にした妖術師が、同じ術で最後の一人を拘束した。

 目の前で止まった剣を見て、尻もちをつくシン。

 魔術師が駆け寄り、盗賊の頭を短杖で叩いて呪文を唱える。すると、盗賊は意識を失い眠りについた。

「シン君は、無事のようだな。だが、聖都の騎士相手では、こんなにうまくはいかないだろう。相手に救われた」

 メフェリスはアシフザックを見つめ。

「アシフザック殿の本気を見てみたいものです。炎の魔術を」

「そんな機会はないほうがいい。それよりも地下神殿へ向かうとしよう」

 アシフザックは赤い短杖をしまい、シンの手を引き立ち上がらせる。


「兄さん……」

「マユ……」

 涙目のマユは何も言えず、シンに抱きついた。言葉がなくてもシンには感じ取れた。シンが無事であったことへの安堵だ。だが、シンが何も言えない理由は別にあると感じ取られたくなかった。

 何もできなかった不甲斐ない自分に、自分だけではマユを守れないと分かった自分に、マユになんて言ってよいのか分からない。戸惑いだった。

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