砂の女王
「詳しい話は明日聞きましょう。今日は旅の疲れを癒すといい」
シンとマユは、オリシュアの手配で、城の客間で休ませてもらうことになった。豪華な部屋に気おくれするマユだが、シンは疲れたをいち早く取りたいのかベッドに飛び込んだ。アシフザックは隣の部屋で休んでいる。
やがて日は暮れていき、シンは眠りにつく。マユは窓から、月夜に照らされた砂の都の街並みを眺めていた。静かな夜だった。そこに扉をノックする音が響く。
「少し話を聞いてもいいかな?」
オリシュアの声だ。マユは「……どうぞ」と小さく返事とする。
「こんな時間にすまないね。ゆっくり休めてる?」
「はい……あの、オリシュアさまは……女王さまなんですよね」
「そうだけど?」
「わざわざ私たちのために、こんな部屋や美味しい食事を用意していただいて、ありがとうございます」
「あの魔術師が連れてきた子にしては、しっかりしているね。そんなことは気にしなくていいんだよ。気楽にいてくれていい。呼ぶときもオリシュアさんでいいよ」
「……は、はい。オリシュアさん」
「私の呼び方なんてどうでもいいんだ。私が聞きたいのは貴女たち兄妹のこと。闇を操る術だなんて、何があった?」
マユは、オリシュアにこれまでの
「私は、聖都の近くにある村で、家族と一緒に暮らしてきました。普通の家に生まれて普通に育ちました。あれは洗礼を受けた日のことです。儀式のために聖都の大神殿へ向かいました。私は司祭さまに囲まれ、洗礼の儀式を受けました。ですが、洗礼の水を浴びたとき、蛇のように闇が出てきたんです」
「大神殿の洗礼……通過儀礼にすぎないことで、闇を……」
「真っ先に、兄さんが駆けつけてくれました。司祭さまや騎士さまたちは、私から出る闇に飲み込まれてしまいました」
「操れるわけじゃないんだね。その闇に包まれると、どうなる?」
「ただ目が見えなくなるんです。傷つくことはありません」
マユは、聖都を脱出し魔術師の街へ向かったこと。アシフザックに会い砂の都を目指したことを続けて話した。
夜が明けて、マユは目を覚ます。オリシュアに話し終えるとすぐ寝てしまっていた。シンは相変わらず寝ていた。マユはシンを起こし、アシフザックとともに、オリシュアが待つ玉座の間へと向かう。
「ゆっくり休めたか? アシフザック」
「ああ、おかげさまで。旅の疲れがすっかり取れましたよ、オリシュア君。さっそくだが、昨日の話の続きを――」
「その必要はない。
「ほう、砂の女王は仕事が早い……」
「闇を司る神がいた。古き神のため、その姿を現さないだろうが。その神を祭る地下神殿がある。そこへ向かえば、何か手掛かりがあるだろう」
オリシュアは立ち上がり手を二度叩く。すると、シンたちの後ろから灰色のローブをまとい顔を包帯で隠した男(おそらく)が現れて、オリシュアの隣に立つ。
「砂の都の妖術師メフェリスという。この者に地下神殿まで案内させよう」
メフェリスは、シンたちに一礼する。
「アシフザック殿、
旅の準備を終えたシン、マユ、アシフザック、メフェリス、そして従者四人の計八人が砂の都の城を出発しようとしていた。その時、都の入り口から鐘の音が響いた。
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