魔術師の解
シンとマユは、商人の男から紹介された魔術師に出会うことができた。魔術師の名は、アシフザックという。
「君たちの言うことが本当であれば、詠唱もせずに闇を操ったことになる……感動的だな。そんなことができる魔術師は数少ない。つまり、魔術を扱わぬ君がそれをやったということは、それは魔術ではない。魔術ではないのだから、私にできることは限られる。だが安心したまえ。私は君の力に大変興味がある。しばらく行動を共にしよう」
アシフザックが早口で言ったことを、シンとマユは目を点にしながら聞いていた。
「えっと、つまり?」
「君たちの旅に同行しようと言っている。私にできることは少ないが、少しばかり見当はついている。おおよそ呪術の類か、妖精の気まぐれか。道中危険なことも多いだろうからね、君たちだけでは不安なのだよ。それともお邪魔かな?」
シンとマユは目を合わせ、頷いた。
「こちらこそ、よろしくお願いします!」
「よろしい。では旅の支度をするとしよう」
こうして、兄妹はアシフザックとともに魔術師の街を旅立った。
向かう先は、砂の都。古き神々が眠る砂の大地。魔術師の説明ではこうだ。
「魔術師の街や聖都よりも南方にある砂に覆われた土地。その地には
草木が残る村を超えた先は砂地のため、馬車での移動はできない。砂渡り(砂漠を渡る人を手助けする職業。ソリに荷物を載せて引いてくれる)に依頼して先を目指す。
「砂渡りたちが話していたが、聖都で事件があったようだね。原因不明の珍事らしいが……マユ君の力が関係しているのだろう。シン君、剣を使ったことはあるかい? なくても、君にはこの剣を持っていてもらおう。君たちを追う騎士だけじゃない。盗賊もいれば魔物もいるからね」
シンはアシフザックから渡された剣を眺める。その刃は鋭く光り、シンの力でも扱えそうな代物に思えた。だが、これを使わない旅であってほしいと願った。
いくつかの村とオアシスを経由して、ついに砂の都へとたどり着いた。アシフザックは、知り合いに会いに行くといい、シンとマユを案内する。都と呼ばれるだけはあり、街には商人や客が多く活気があった。
人々が行き交う大きな道の先に大きな城が建っている。この都でもっとも大きな建物に見えた。そして、アシフザックはその方向へと進んでいく。開かれた城門をくぐり、アシフザックはさらに場内へと進んでいく。シンは、戸惑うマユの手を引き、その後を追った。
そこは、どう見ても玉座の間だった。部屋の両壁には兵士たちが等間隔に立っていて、重々しい空気をシンは感じた。アシフザックは平然とした顔で、その玉座に座る若い女性に声を掛ける。
「元気にしていたかね。オリシュア君」
「魔術師が現れるだなんて珍しいわね。しかも子どもを二人も連れているだなんて。貴方、いつ結婚したの?」
オリシュアと呼ばれた女性は玉座を立ち、シンとマユにゆっくりと近づいていく。女性は両の手で兄妹の頭をなで、微笑んだ。
「それで何の用? アシフザック。まさか本当に結婚したわけじゃないでしょ?」
「魔術師にも分からないことがあってね。闇を操る術についてだ」
それを聞くと、オリシュアはニコリと笑った。ニコリと。
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